016. 初心者講習:設定編
MMOは多人数参加型のゲームだ。中身が人間である以上、コミュニケーションはリアルのそれとあまり差はない。
だがここはゲーム。仮想世界というものを盾にして、理性や倫理のタガが外れる人間も偶にいる。
「シェフレラは、どうしてこのゲーム選んだの? MMOじゃない、一人用のゲームもあるけど、そっちにはしなかったんだ?」
コミュニティがうまく形成されているところもそうでないところも数々のMMOにはあって、まだスタート時点のこのゲームではどう転ぶかわからない。あまりにも酷いものはGMが取り締まるのが通例だけれど、MMOによってどこまでフォローしてくれるかは変わってくる。しかも、ここはPKがあるタイプだ。私と同じPK禁止国ならまだしも、シェフレラはストゥーデフ所属。ばっちりPK許可国民である。
「わたし、両親が転勤族で。いままで、友達、あんまりできなかったし、作るのも、上手くなくて。今度、高校入学したら、お祖父ちゃんの家から通うことになったんですけど」
「うん」
めっちゃリアル喋ってくるな!!ストーップと声を上げたい気持ちを堪えて続きを促す。
「今度は、友達ちゃんと作りたくて……。でも、人とお喋りするの、苦手、だから。せめて、話題になってたゲームをしたら、話せるかなって」
「そっかぁ。クラスメイトとかが話してたのかな?」
「はい。もうすぐ卒業だから、その子達とは、話せそうにないんですけど……」
抱きしめたい、このいじらしさ。
いえ、実際には触れることもしませんが。そんな、頭触って胸キュンなんて幻想だよ諸君。仲良くもない人に身体接触されたってそれはセクハラでしょうよ。
と、それで思い出した。もしかしてセクシャルガードも入ってない? 15、6歳くらいだろうし、同意書は提出してるはずだけど、20歳以下ってセクシャルガードデフォルト設定になってたっけ?
「シェフレラ、ちょっと手、握ってみてもらえる?」
「? はい」
差し出した手をシェフレラが躊躇なく握る。素直すぎだろう。そしてバッチリ接触されてますね。感触もちゃんとある。
ちょっと運営ー!成人前の子にはデフォルトでガード入れとこうよー!!
うーんうーん、これどう伝えたらいいかな。性別不明なステータスとは言えそれはこのゲームの中でのものなので、こう、お兄さんとしてはセクシャル的なこと伝えるの難しいぞ。
ありがとうと言ってすぐに手を離したが、伝え方に迷う。変にあれこれ気を揉むよりストレートのほうがまだマシか、と結論付け、設定のウィンドウを開いた。もちろん私の。
いや、説明しようにも設定どこにあったか、どういう設定出来るのか解らなかったもんで……。
「あー、これか。シェフレラ、設定ちょっと開いて」
「えっと」
「思考操作で出来るから、設定を開くって意識すればいいよ」
「は、はい!わっ」
「出た?」
頷きを返してくるシェフレラに、説明しつつセクシャルガードの設定を入れさせる。
無事に設定ができたとのことなので、再度握手。
「あ、あれ?」
「ん、ちゃんと出来てるな」
握る動作はできるものの、感触が何もない。見た目にも数十センチ距離が空いていて、恐らく空間的にも膜が張られたようになっているのだろう。これでひとまずは安心である。
「あの、これ」
「身体的接触をガードするやつね。知らない人にいきなり抱きしめられるとか嫌だろ?」
「えっ」
驚いたように目を見開いて、ついで頬がパッと赤みを増す。
あー、あー、これはいけません。これはいけませんよお客様。そういう反応はとてもいけません。
「MMO、とくにVRMMOはさ、親切な人ばっかりじゃないってこと。ほら、よく怪しい人について行っちゃダメとか、リアルだとあるだろ?暗いところを一人で歩くな、とかも。この世界はゲームだから、知らない人にもクエストでついていくこともあるし、暗いところだって一人で歩く。でも、やっぱりプレイヤー……人同士はさ、警戒しすぎるくらいがちょうどいいよ」
あまり脅しにならないように気をつけて、でも危機感は持ってもらえるように。このさじ加減が難しい……別に成人してるなら、も~自己責任なんだけど、慣れてない上に未成年だと、どうしても心配が先に立つ。
誰かと一緒にプレイするならまだしも、ソロプレイっぽいし。余計。
「とくにこのゲーム、一応年齢制限あるからさ。同意書出したでしょ?」
「はい……お父さんに頼んで」
「ご両親何も言わなかったんだ?」
「何かあったら相談しなさい、とは」
「ご両親もあんまりゲームとかしない人?」
「お仕事、忙しいみたいで……してるところは見たこと無いです」
うーん、これは両親も初手選択を間違ったな、としか。
これ、一応、そういう、セクシャルなことも出来るようになってるんだよね。お酒飲めるってときに色々調べた中にあった。特に興味ないので深くは調べてないけど、そのシステムがあるのに対象年齢が15からってのが珍しいと思ったことを覚えている。
まあ、リアルで成人してない子はそういうことできない仕様にはちゃんとなってるっぽいけど。
まってこれ伝えるの!? 私が!? 流石に伝えづらいですね!!
「あの……ホップさんとも、もう、握手できないんですか……?」
「……あー、そうだ、ね。じゃあ、フレンド登録しよっか」
そんな縋るような目で見ないでくれえ!! 純粋さは時に暴力!! 覚えた!!
心の荒れ模様をどうにか押し込め、苦笑するのみに留める。
どうしてこうして、どうやらとても信頼されてしまったようだが、ずっと見ているわけにもいかないし、あと私は中の人の性別がですね。
これはさっさといつものメンバーと合流するか、女性のフレンドを作ってもらうしか無い。
「フレンド登録」
「そ。いつでも連絡取り合えて、ログインしてるかしてないかわかる機能かな。申請送ってみるね」
手早く操作してシェフレラに申請を飛ばす。考えてみたらこのゲームで初めてのフレンドになるのか。
「あ、来ました!承諾、を、押せば?」
「そそ。お、承諾された。これでフレンド登録完了。ほら、もう一回握手」
さっき設定してもらったセクシャルガードは、フレンド以外の全員が対象。もっと細かく設定できるっぽいけど、それは別の人にご教授いただくことにしよう。流石に知り合ってすぐのお嬢さんへ伝えるには精神が限界です。
「あ……!やった!ちゃんと握手できました!」
「うんうん。これでいいかな? 今はフレンドにはガード効かない設定になってるから、フレンドになる人はちゃんと見極めること」
嬉しそうにギュッと手を胸の前で組み合わせているシェフレラに、最後の釘を一つ。
「はい!しばらくは、プレイヤーの方とフレンドにはならないようにします!」
……なんかちょっと極端なこと聞こえてきたけど、さっきの今だし、慣れたらフレンド増やしてくれるでしょう!!
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