015. まずは自己紹介から

 招待はまずったかなー、と思ったところでよろしくお願いされちゃったので、二人を箱庭内にご案内。

 ライムは、ライムはすごく心残りなんだけど、また採りに来ればいいしね。


 なんだかんだで初めてのプレイヤーとの接触だし、箱庭内に招くのも初体験だ。

 さてはて、リモも含めてどう話を持ってくかねー。

 素直そうだから変なことにはならないと思うけど。


 箱庭に入っていく二人を確認して、最後に入る。これ最後にマスターが入らないといけないんだよ。入り口閉じちゃうから。

 しっかしリモは意識してないとほとんど重みを感じない。もふもふと撫でているとたまに身じろぎするのだけど、毛玉だから見た目ではわかんないね。


「うわー!すっげー!!」


 入った途端、大きな声。犬っ子がキラキラした目で辺りを見回している。

 女の子の箱庭には入ったことがないのかな。

 いや、でも、女の子も驚いた顔してるな?これはどっちか解らない。


「まあ、何もないけど立ちっぱなしも何だし、とりあえず座って自己紹介するか」


 促すようにそう言って自らも座る。周りにレモンがいくつか散らばっているのはご愛嬌だ。

 二人を待つ間一つ手にとって鑑定する。

 やっぱり低品質のものだし、素材に使うよりあとで種が取れるか試してみてもいいかもしれない。


 興奮収まったのか二人が目の前に仲良く並んで座ったところで、まずはこちらから口火を切った。


「じゃあ、あらためて。私はホップ、種属はシールフ・スピリトゥスだ。で、こっちはリモ。リュ、っていう幻獣らしくて、私の契約パートナー」


 秘技!最初に重要な情報を叩き込んで圧倒させよう計画!!

 まあ、もうね?リモはバッチリ見られているわけだし、ここで下手にごまかすよりは、ストレートに大事にしないよう頼む方が「効く」気がするんだよこの子。


「契約……パートナー……あの、アナウンス、の?」

「レラ、まずこっちも自己紹介しないと!」

「あ、うん。そうだね。えっと、私は、シェフレラっていいます。種属は……アルボレス、です」

「俺はエドベル!カッニス・ビースティアだ!さっきは助けてくれてありがとなっ」


 うーん、元気でいいね。女の子、シェフレラも大分緊張が抜けてきたようで、たどたどしいながらも怖がるような雰囲気はない。


「レラとエドっていうのは愛称?」

「そうだぞ!あんたにもつけてやろうか?あ、でもホップって短いな……そのままでもいいかもな!」

「はは、なんか思いついたらよろしく。二人はもう一緒にいて長いのか?」

「ちょっと前に会ったばっかり!」


 おぅ。これは予想外の返事。まあでも、ゲームが開始されてから、まだ少ししかたってないからそんなものか。


「仲いいね」

「エドには……いっぱい、助けてもらって」

「渡り人ってどんなやつかなって思ってたら、こいつこんなんだろ?ほっとけなくてさ」

「こ、こんな、って」


 カラカラ笑うエドベルの尾がゆるく揺れている。ご機嫌か。茶系のもさっとした太めの尾だから、土を巻き込まないか心配だ。同色の耳はピンと立っていて、偶に周囲の音を探るよう方向を変える。

 初対面でシェフレラを私から庇うように間に入ったことといい、今も警戒は怠ってないってことかな?

 なんというか……青春……甘酸っぱい……!お兄さんは君たちを応援するよ!

 それはさておき、まずは目の前の問題だ。


「なんか揉めてたみたいだけど、困ったことになってる?」

「あ……」


 問いかければシェフレラの瞳がわずかに揺れる。話に入ってくるかと思ったエドベルも、今回はシェフレラが話すべきだと思ったのか口を挟むことはない。


「困った、というか、えっと……私が、まだよく分かっていないから……」


 わかってない、とはなんぞや。サービス開始は今日だし、この世界についてはわかってないことのほうが多い。もしかしてこれは。


「んー、VRゲームあんまりやったことない?」

「はい……ここが、初めてで」

「そうなんだ。びっくりした?」

「はい!すごく、綺麗で。あ、でも、ストゥーデフに行く前の、まだらの景色は、ちょっと怖かったです。女神様とも離れてしまって」


 ほうほう、女神様。チュートリアルはそれぞれランダムなんだっけ。

 しかし、VRゲームの初心者ってことはGMコールには思い至ってない、というかどこからコールするかもわからない感じだろうか。

 よかったー!介入しておいて。初見が嫌な思いして去ってくのは後味が悪いもんなあ。


「わからないことだらけなのは初心者あるあるだし、戸惑っちゃうような助言は押し付けだから、あんまり気にしなくていいと思うよ」

「そう、でしょうか」

「そうそう。もしよかったら私とフレンド登録する?聞きたいことあったら連絡してくれていいよ」

「フレンド登録、って?」


 小首をかしげる仕草の可愛いこと!いやそれは置いといて、これは、もしや。


「シェフレラ、MMOって解る?」

「ゲーム、の、ジャンルですよね」

「正解。じゃあ、どういうものかって説明できる?」

「ごめんなさい。VRも、なんですけど、ゲーム自体にあまり触れてこなくて」


 ここで頭の上からリモがエドベルへダイブした。ってちょっと!!


「わっ!」

「エド!?」

「リモ!!」


 綺麗にエドベルの頭に着地したものの、座り心地が良くなかったのか肩や腕や足や、色んなところへ飛び乗っている。自由か!!


「なんだこいつ、くすぐってえ!っふ、はは!!」

「わーー!!ごめんごめん!リモ!こら!」

「りゅー」

「構ってもらえなくて駄々こねる彼女か!!!!いやこれは小悪魔属性、ってそんなことどうでも良くて!降りなさい!!」

「りゅん」

「今まで聞いたことない声だなー!?」


 手を伸ばして捕まえようとするが、するりするりと移動してなかなか捕まえられない。


「くすぐった、アハハ!ふっ、っくふっ、別にいいよ、あっちでこいつと遊んでくる。大事な話なんだろ?」

「ああああごめん、あとでなんか埋め合わせするから!よろしくお願いします!」

「エド……」

「あとでな!レラも遊びたいんだろ?」

「!」


 ちょっと離れた場所へ歩を向けがてら、最後に落とされた言葉にシェフレラの顔がほんのり色づく。素直な反応、だけど純粋培養っぽくてお兄さん心配になる。MMOでの最低限の自己防衛はちゃんと伝えておかなくてはという使命感がむくむくと。


「あとでシェフレラもリモを捕まえるの手伝ってね」

「! はい!」


 とりあえずはMMOの特性、いい人も悪い人もいるってことから話しましょうか。

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