014. いざ行かん別国へ!(採取)

 立て続けにワールドアナウンスを発信してしまいました。


 これは!不可抗力です!!


 誰にとも無く叫びつつ、ざっくりと掲示板に目を通す。流石に少しは話題になっているものの、一部を除き積極的になにかしようというふうには見えなかった。民度が高くてイイネ。


「いやあオランジにライムかあ」


 それよりなにより新たな素材ですよ!心躍るね!特にライムはぜひ手に入れたい。

 交易もどきも気にはなったけれど、さっきの今で他のプレイヤーと接触する気にはなれなかった。


 まあ……情報書き込んでもいいんだけども……こう具体的なものってあんまり書けないし、自分でもまだ把握しきっていないことを書くのもねえ?

 パートナー契約に関してはなんかよくわからん!とりあえず毛玉、リモは頭の上に乗っている。色々満足したのか寝ているようで、箱庭の設定から調べようとしてもパートナー契約の項目がグレーアウトしていた。起きたらアクティブになるのかね。


 しかし!いま!私は!

 他の国へ行けるのである!

 ライム以上に優先することがあろうか!!


 ちょっと気になるのは種族的な問題だけど、きっと大丈夫だろ。シールフがまったく他の国にいないわけでもあるまいて。気をつけるのはPKの方だと思うが、其処は十分に気をつけた上で祈る!


 というわけで、ストゥーデフを指定してぽちー!

 やはりライム森になるんだろうかね、と、思いつつ出た場所は森の中だった。直ぐ側が森の切れ目なのか、木立が途切れているのが見える。

 ぱっと見には元のクルトゥテラと大差ないように思えるが、よくよく見ると木の種類が違う気がする。こっちのほうが緑が濃い。

 気温はやや高め、湿度はほどほど、気候もちょっと違うんだなと辺りを見渡していると、何やら言い争う声が聞こえた。


 タイミングがとても悪い場面に居合わせてしまったようだ。


 そっとしゃがんで姿を隠しつつ、声の方向へと近づいていく。

 君子危うきに近寄らず、とは言うけど、声の方向が掲示板で見たライムが採れる場所っぽいんだよー。


 姿が視認できる距離まで近づいて、息を殺して伺えば、五人の人影が見えた。

 NPC……住人が一人にプレイヤーが四人。

 プレイヤーの女の子ひとりを庇うように、住人の、獣人かな?犬耳とフサフサ尻尾を生やした少年が犬歯を剥き出しにして唸っている。

 対する三人は良く言えば軽そうな、悪く言えば軽薄な、ってこれじゃどっちも悪口か、まあぱっと見た目でも解るほど典型的なナンパ状態。かすかに風にのって聞こえてくる言葉からも、どっちに肩入れしたいかはすぐに判決が下った。


 GMコール、は、流石に本人からじゃないと、すぐには動いてもらえないか。

 どうすっかね……なんか気を逸らせればいいんだけど。


「ゅ」

「!?」


 頭の上から小声がした。辛うじて驚きの声を飲み込んで、頭に手をやるとモフッとした感触。

 リモさん!!あなた頭の上にいたまま着いてきたんですか!!

 あー、でも、これなら行けるか?


「適当にあの三人、脅かすこと出来るか?殺さない程度に」


 リモに聞こえる程度につぶやくと、頭の上で震える感覚。出来る、ってことみたいだな。

 一応ね、PK禁止の民としましては、殺すことは避けたいわけです。


 うなずいて許可を出すなり、リモの重みが頭から消えた。

 途端、ナンパ達の右側地面が抉れる。土の欠片が空に舞った。

 流石に異常に気づいたのか、ナンパ達が慌てだす。犬っ子と女の子には目もくれず、森の方へと走り出したその後ろが次々抉れていく。あ、木も抉れた。お、枝が折れて……あの枝棘あるな!痛いって声がここまで聞こえてきた。痛覚設定有効組か。うむうむ私もそっちだ。慣れるまではパーセント低めにしてあるけど。


 のんきに推移を見守って、ナンパ達が影も形も見えなくなってから動き出す。

 いやあ、犬っ子と女の子固まってるんだもん。


「大丈夫か?」


 左手側から姿を表して声をかけると、弾かれたように犬っ子がこちらを向いた。女の子を庇うように私との間に入ってくる。ナイトっぽいね!あとめっちゃ警戒されてるね!


「怪しいものじゃない……っていっても怪しさあるよな!絡まれてそうだから追い払ったんだけど、よかった?」

「リュ!」


 端的に状況を告げると、頭上の木から鳴き声とともにリモが降ってくる。着地点は私の頭の上らしく、モフッとした感触が発生した。定位置ですか?


「あの……」

「あんたが追い払ったのか?攻撃して?」

「そう。まあ正確にはこいつが攻撃してたけど。あ、殺さないようには言ってあったよ」


 頭の上を指さしつつ、敵意はないと片手を広げる。助けられたことが理解できたのだろう、犬っ子の警戒心が少し薄れたのが見て取れた。女の子は……なにか言いたそうにしてるね。


「とりあえず、あいつらが騒いで戻ってきても面倒だし、一旦移動しよっか」

「ん、わかった。レラもそれでいい?」

「は、はい……っ」


 女の子はレラちゃんか。綺麗な深緑色の髪はゆるくウェーブがかかって、不安げに揺れる瞳はすみれ色。装備だろう軽鎧に、ところどころ葉っぱが肌から生えている。樹人、なのかな?ストゥーデフは獣人と樹人の国だったよなー。

 しっかしナンパされるのも頷けるめっちゃ可愛い子だな!!美少女!


「【アークポルタ】」

「「!」」

「一旦こっちに招待するけど、不安だったら彼女の方でも良いよ。同じプレイヤー、渡り人だろ?」


 落ち着いて話せる場所だと箱庭が簡単だな!って安易に出しては見たものの、ナンパされてた少女を密室ではないがプライベート空間へ誘うのもあかんやろ!と出した直後に気づく。強制じゃないよーとは告げたけど、まずったかな。


「……他の方も、入れるんですか?」

「うん。マスターが許可したら入れるらしい」

「先程の、方たちも……?」

「それは私が許可しないから入れないね」


 安心させるように出来るだけ柔らかく笑顔を浮かべれば、犬っ子の服をギュッと握った彼女はそのまま頭を下げた。


「よろしく、お願いします」




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 注※ヒロインという文字はこの作品に存在しません

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