011. 戦闘は一撃死

 やってきました街の外!いわゆるフィールドエリアなのだけど、ちゃんと地面があって安心した。


 クルトゥテラの食糧事情を把握してからまずやったのは、材料と調味料と調理器具の確認だった。結果、調理器具はそこそこ揃っているものの、材料は基本的なもの、調味料に至っては塩と砂糖しか発見できなかった。

 まあ、砂糖があるだけマシなのかもしれないけど。


「麦、見つけたいなー」


 小麦ならパンとかクッキー、大麦ならビールが作れる!名前もホップにしたし、初手ビールはありじゃないか?


 そんな事を考えながら、草原を森方向へ向けて歩いていく。

 大崩落だなんだとあってもここらへんの景色は綺麗なもので、たまに出てくるラットとかビーとか、敵もノンアクティブ、こちらに気づいても襲ってこないものばかりだ。

 試しにちょっかいかけては見たものの、魔法で一発、短剣で二発ほどで倒すことが出来た。まあ、レベルも低いしこんなもん。


 敵が落とすドロップ品も特になくて、ちぇーっと唇をとがらす。

 落としたところで、インベントリなんかも今は解らないので、ドロップ品をどう運ぶのかという問題があるのだけど。


 いや、箱庭に突っ込めばいいのか?


 採取できそうなものを探しつつ、アイテム持ち運びについて考えていると、少し先に森の入口らしきものが見えた。その手前に、群生する低い茂みが見える。視線を凝らすとレモン、と表示された。


 名産って育ててるとかじゃなく自生するレベルか!

 近くに寄ってもぎ取ってみれば、ちゃんとレモンが手に入った。


[果物]レモン【レア度:C 品質:E-】

酸味のある果物。成熟前は薄緑、成熟後はオレンジがかった黄色になる。クルトゥテラ南部名産。

◆採取情報◆

オレンジの色味が強いものは甘みが強く、黄色味が強いものは酸味が強い。

木との接続部を傷つけないように収穫することで苦味が抑えられ品質が上がる。


 ほう、ほう。

 鑑定結果に情報が多い。おそらくこれが【採取(知識)】の効果かな?


 ハサミとかないので、今度は短剣で傷つけないように採取する。

 するといくつか採るうちに品質がD-にまで上がった。そこから動かないので、ここではこれが最高っぽい。


 これ【採取(知識)】がない場合でも、採取方法伝えたら品質上がるんだろうか。覚えてたら試してみよう。


 目下の問題は、この地面にこんもりと盛られたレモンの山である。

 籠とかもないので、ひたすら地面に転がしていた。

 やっぱり箱庭に突っ込むのが正解?


 そんなことを考え油断していたのがいけなかったのだろう。

 とすっと軽い衝撃があったな、と認識した瞬間視界が暗転した。




 ***




「えっ」


 えっ、である。

 ほんとに何が起こったのかわからん!


 理解できるのは最初にクルトゥテラに来た時と同じ広場に戻っていて、なんかちょっと体が重いくらい。もしかしてとステータスチェックをしてみれば、デスペナルティのアイコンが燦然と輝いていた。


「死んだ?」


 敵の姿も何も確認していないが、一撃死させられたらしい。

 拳を握りしめ腹の底で叫ぶ。


(俺のリモンチェッロの材料!!!!)


 リアルじゃひと舐めで死んじゃうからゲーム内で飲みたかったのに!!

 なにより一度自分のものとなった素材が取りこぼされるのは認められん!あと相手の姿をひと目みたい!!


「ぐうぅ……許すまじ」


 幸い、デスペナルティは所持金などは減らずにステータス低下のみだ。スキルを駆使してそっと近づいてそっと回収してそっと姿を探すくらいは出来るだろう。


 握りしめた拳をそのままに、外門へ向かって歩を進める。

 もう最初から【気配希釈】をかけていく。レベル上げにもなるしね。幸いMPは多めなんだ。


 ノンアクティブをスルーして程なく、死んだ現場が遠目に見えてきた。

 犯人は現場に戻る。いやこちとら被害者ですけど。


(ぱっと見は何もいない、か)


 姿勢を低くして、低木の影に隠れるように進んでいく。ゆっくりゆっくり、動くものを見落とさないように近くまで来て、散らばったレモンを拾える射程圏内まできた。


(なんか、数減ってる?)


 山になっていたレモンが崩され、平べったくなっている。それだけではなく、明らかに数が少ない。食べたのだろうか。いや持っていったと考えるべきか。でも食べたっていうのが、なんか、ぱっと頭に浮かぶ。


 すぐに拾うことはせず、レモンたちを注視する。すると設定どおりに情報が表示されていき、その中に一つ、明らかに異質なものがあった。名称が【???】と表示されるそれに対して、意識して鑑定を使う。

 途端、ぐわりと空気が揺らいで反射的に短剣を振るった。手応えあり!


「っぶね!」


 手応えはなにか攻撃をそらしたもののようで、かたわらの地面が爆ぜる。仕留められなかったのに気づいたのだろう、レモンの中から【???】が浮かび上がってこちらへと対峙してきた。


 白いもふもふが。


 うーん、もふもふ。

 丸っこい毛玉。目があるのか無いのかわからないまごうことなき毛玉。

 ワシっと片手で掴めそうな、レモンと同じ大きさの毛玉。


[敵対:幻獣]リュ

不可視の物理攻撃を行う獣。その姿を見ることは叶わず、気がつけば全て刈り取られる。

出会うことなかれ。出会えば逃げることはかなわない。


 <ノートリアスモンスターと遭遇しました。一定範囲を隔離。戦闘領域シークエンスを実行します>


「強制戦闘かよっ」


 アナウンスの音声が聞こえると同時、低木の影から飛び出して広い場所へと駆けていく。

 留まれば殺られる、と、本能的に理解していた。


「くっそー!リモンチェッロの恨み思い知れー!!」


 鼓舞するためにそんな事を叫んだものの、完全に負け戦です。まだデスペナ抜けてない!


 背後が爆ぜていくのを肌で感じながら、スライディングでレモンの中に飛び込む。イコール、この毛玉の近くに来るわけだが、そんなの知ったことか!


「【アークポルタ】!」


 箱庭の扉を出現させてレモンを手当たりしだいに入れていく。

 なんかわからん毛玉より素材の回収が第一優先じゃあ!!


「リュ!」


 名前と同じ鳴き声をした毛玉が反応する。ひたすらにレモンを箱庭に入れていく私に向かって来たかと思えば、そのまま扉へと激突、中へと吸い込まれていった。


 え?


<戦闘が終了しました。計測。ノートリアスモンスターの捕獲を確認。【ark hortus】影響度を上昇させます>

<ネクソムにて初めてノートリアスモンスターが捕獲されました。情報を共有しますか?>


 え??


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