009. 難問だらけの設定ターン@6

 あらすじ。

 意気揚々とステータスオープンと唱えたのに何も起こりませんでした。


 いやどーしてだ!ジョブ設定まで終わったらステータス見られるようになるんじゃないの?


「ホップ、オープンじゃなくてチェック」

「Why ?」


 思わず英語にもなるってもんだ。この罠に何人かかるんだこれ。

 まあ、実はチェックの方が意味としては沿っている……のか?そんな厳密主義者が開発陣にいるのか?

 もー、恥ずかしいじゃんよ。


「ステータスチェック」


 改めて唱えると、今度はすんなりとステータス画面が表示された。


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【名前】ホップ *

【種属】シールフ・スピリトゥス

【所属】未定


Lv.1

 HP:259

 MP:387

 STR 8

 VIT 8

 INT 10

 MND 8

 AGI 12

 DEX 14

 LUC 10


【職業】隠形士 Lv.1


【スキル(0SP)】

 ◆ 戦闘

 短剣 Lv.1 / 水魔法 Lv.1 / 気配希釈 Lv.1

 ◆ 採集

 採取(基礎) Lv.1

 ◆ 運営

 剪定作業 Lv.1

 ◆ 知識

 鑑定 Lv.1 / 採取(知識) Lv.1

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 うーん、綺麗にDEX-AGI型。体力より魔力優位で力も低め、と。


 そこまで確認して名前の横に記号がついていることに気づく。なんだろうとそれに触れると、別ウィンドウが重ねて開いた。


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【性別】未分化

【ラベル】精霊に興味を持たれるもの

【称号】

 箱庭に捧げるもの

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 ああ、称号とかラベルとかはこっちにまとまっているのか。ということは増える可能性が高いわけねなるほど。

 ……ひとつ、見落としたいものがありますね?


「スイさん、この、未分化っていうのは」

「そのままだよ?」

「つまり?」

「性別が定まってないってことだね。渡り人としてはレアだねえ」

「えーと、住人の皆様方に置かれましては、そこまで珍しくないと?」

「大人ではそこそこ珍しいけど、子どもにはよくあるよ」

「つまり俺はお子様だと!!あ、まって珍しい枠でいい!酒が飲めない!!」

「子どもだとお酒飲めないの?」

「そっち聞くぅ!?」


 きょとんとした表情のスイにどこから何を言えばいいのか言葉に詰まる。

 確かこのゲームは最低が15歳からで、20歳以上が推奨でしたね? 推奨以下だと精密な同意書がいるとかなんとか、あった気がする。システムが一部制限されるんだったかな?


(ってちがーう!!!!)


 自分自身にもツッコミを入れてしまった。

 整理しよう。


 未分化は性別が定まっていない、ということは私は男性でも女性でもないわけで? それは一人称がブレるのは特性としてありますけれど、リアルではきちんと性別を獲得しているんだが。いや、まあ、性自認までいくとさらにややこしいあれでそれがあるけど、ううーん。


 ネタになるな。


 元々そこまで深刻に考えるのは性に合わない。最終的に仲間内のネタとして話せるカード、しかも強力なカードができたな、程度で納得することにした。

 酒が飲めないことに比べれば他は些細なことよ!


「ま、いっか。で、これで全部終わったわけだけど」

「所属を選んでもらわないといけないね」

「あ、それがあるのか。所属って?」

「これ」


 スイが指をふると、箱庭に入る前に説明された図が浮かび上がる。三角形の頂点に三つ、楕円が浮かぶあれだ。今回は中央には何もなかった。


「それぞれ直接見せてあげたいけれど、難しくてね。説明だけになるんだが、三国の特性を伝えるよ」


 そう前置きして伝えられたのは以下。


「クルトゥテラ」は精霊と妖精の国。中立国。他国と戦闘が許可されていない。生産者が多く帰属し、世界の維持と全体の連絡・支援を主とする。


「インエクスセス」は人間と非生物の国。攻撃主体国。他国と戦闘が許可されている。崩壊を起こした現象や人物の排除、世界の修復を主とする。


「ストゥーデフ」は獣人と樹人の国。防衛主体国。他国と戦闘が許可されている。崩壊を起こした存在からの防衛研究、世界の保全を主とする。


「クルトゥテラで!」

「まーそうなるよね」


 悩むこともなく決定すると、スイも手早く空中に紋を描く。それが所属国決定のなにかだったようで、ステータスの所属はクルトゥテラとなった。


「ちなみに他国との戦闘が許可されてるとかされてないとかはなに?」

「そのままなんだけど……えーと、渡り人向けには……そうそう、PKって言えば伝わる?」

「伝わった」


 ヒュウ、と、下手な口笛ひとつお供に納得したことを示せば、わりあい真剣な瞳のスイがそこにいた。笑顔成分もやや控えめにされて、こちらも姿勢を正す。


「これで、全部終わり。君は世界の一員となった。僕たち……僕が、直接手助けできるのはここまでだ。最後に見せたいものがある。箱庭から出て、着いてきて」


 言葉とともに門が出現する。さっさと背を向けて進むスイに着いて、箱庭から出て、部屋からも出て、神殿の奥へと進んでいく。進むにつれ光の色が青みを帯び、床や壁の材質にクリスタルが混じりだす。ほぼ白い色から黒に近い青まで、不規則に埋め込まれるクリスタル。反射する光が複雑な色彩をおび、剥き出しの肌を撫でていった。


 ひどく神秘的で静かな時間。靴の音だけが反響する。


 突き当りには大きなアーチがある。扉は取り付けられていないけれど、外の様子は伺えない。光の線が張り巡らされていて、それらが模様のように見えた。

 スイが手をかざすと光が霧散し外の様子が目に飛び込んでくる。


「!」


 大地が消えていた。

 ポッカリと浮かぶ空間は黒くわだかまり、言いようのない不安を掻き立てる。遠くに緑が見えるものの、そこへと向かうための道はなく、空さえもひび割れたように黒い線が走っている。きっと、飛んで向かうことも出来ない。陽炎のように揺らめく空気が、それを言外に伝えていた。


「現在のネクソム、崩壊を免れた三国以外の状態だ」


 静かに告げられたスイのセリフが、うまく頭に入ってこない。

『壊れた世界』というのは本当に『壊れて』いるのだ。


「ここからこのアーチをくぐれば、クルトゥテラにたどり着く。渡り人よ、どうかこの世界の修復に力を」


 何か言おうとしたけれど、システムにコントロールを奪われたのか、勝手に足が動き出す。アーチ手前で視界いっぱいに幾何学模様と『ホルトゥム・ネクソム』とタイトルコールがおこりそして。


 まばたきの間に、建物に囲まれた広場へと転移していた。




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 次回、ようやく本編がスタート。

 チュートリアルなぞ前座の前座よ(ここまでかかると思いませんでした)

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