005. 難問だらけの設定ターン@3
スイの指先が四角に触れた途端、その表面が波立つように揺らぐ。途端、部屋いっぱいにウィンドウがいくつも出現し、見慣れない文字が流れ出した。奥の方ではせわしなく小さいウィンドウが開いたり閉じたりしている。
(ファン、た、じー?)
思わず脳内片言交じりになってしまうが、これはどう見てもプログラムとかなんかどっかそっち側のような。
「この文字って」
「魔術文字だよ。今は基礎を組み上げてる。――ああ、終わったね」
言葉の余韻が消えるか消えないかのところ、目の前に大きなウィンドウが一枚開く。これは読める文字で書かれていたので内容が理解できた。
【ark hortus】
マスター:ホップ
環境:未設定[設定してください]
影響度:算出中[データ不足]
すごくシンプル。
え、なに? これ自分で設定するの?
「さて、箱庭の基礎もできたし、説明していこうか」
「まさかの習うより慣れろ方式」
「なにそれ」
笑い含みで言われても、通じなかったことがビックリだよ。
ログインからここまで、それほど時間は経っていないと思うが異世界転移でもした気持ちになってくる。情報は公式サイトといくつかのPVだけ。事前情報なんて有象無象に埋もれてぱっとしなかったというのに、作り込みが半端ない。もっとこういうとこ全面に押し出してこ? なんて、プロモーション戦略に対して思うところはあれど、今後が楽しみになってくるのはゲーマーの性。
きっとそのうち登録制限とか出てくるんじゃないかなあ。リリース日に開始できて僥倖である。
「まだ基礎ができただけだから、この中へ入ることはできないんだけど。ここから環境を作って、そうすると箱庭の時間が動き出す。箱庭は渡り人である君たちと連動しているから、渡り人の特徴とも言えるね」
「入れるんだ」
「もちろん。採取も生産も中でできるよ。戦闘は訓練だけになるから、レベルは上がらない。そこは注意」
「でもお高いんでしょう?」
ただより高いものはなんとやら。対価がきつそうだなあとスイを見上げれば、とても楽しそうに笑っていた。
薄々感じていたが、この神、いい性格をしている。
「君たちを喚んだ理由でもあるからね。私達が君たちに期待するのは一つだ。箱庭を発展させてくれ。箱庭が成長すればするほど、この世界へ還元される。そうすれば大地を紡ぎ直し、空虚を埋めて、分かたれたものも元に戻るだろう」
「高いどころの話じゃない!!」
「サポートは全力でするよ!」
なにその命運はお前に託した!みたいな展開!私はただ酒を飲みたいだけなのに!!
(ま、まあ他のプレイヤーがどうにかするだろ)
他力本願というなかれ。優先順位ははっきりしているのだ。あいにく。
気持ちを切り替えて設定の文字を突付く。途端、別ウィンドウが目の前に現れた。
気候、地形、雨量、風量、地質、含有物……いっぱい。
「早速設定とはやる気に満ちているね。どうする? 今回は全部マニュアルでやる?」
「イエ、オススメオシエテクダサイ」
「あはは、流石にこれをやれとは酷だもの。希望を聞いて、それに合う形にするから安心して」
設定項目の多さと複雑さと、冗談とはいえそれらを全てプレイヤーがいじれるという現実に遠い目をする。流石にいくつか組み合わせた初期セットはあるようで、運営が鬼じゃないことに感謝した。
「地形は採取物に関わりが深い。それぞれに採れるものも違うけど、ホップはお酒造りがしたいんだよね。草原と湿原と森はあったほうがいいだろうから、あとは水場をどうするかってところかな」
「水、ねえ。作るとなったら水にも拘りたいとこだけど。これ全部でどれくらいの地形あるの?」
「今設定できるのは大体十個くらい。一覧はこれね」
見せられたリストを眺めると、鉱山や火山なんてものもあった。
火山……温泉とか湧きませんかね? 浸かりながら一杯とか夢がある。
その他にも海や川なんかもあって、ここも外したくないところだ。魚!塩!海藻!お酒のつまみには詳しいんだ私は。
「全部、とか」
「箱庭の広さを犠牲にすればできなくもない」
「うーーーーん」
出来ちゃうんだ。いやいや広さを犠牲にっていうのは頂けない。どれくらいの広さかはわからないけど、この手のものは最大にしたってリソースのやりくりに苦労するのが通常運行。でもなあ、なんか全部欲しいんだよなあ。
「……広さ以外で交換できるものって、ある?」
「なくは、ないけど。おすすめしないよ」
困ったように、それでもあるのだと告げたスイに、好奇心が頭をもたげる。やるかどうかは置いておいて、何と交換できるのかと聞けば、スキル取得に必要な力をまわせると答えが返ってきた。
「スキル、かあ」
「君たちが活動するための力だからね。箱庭の維持に支障をきたさないとも限らないし、せっかくの地形を活かせる技能が習得できないかもしれないよ」
「どれくらいまわしたら、広さそのまま地形全部盛り出来る?」
「そのまま、だと……50SPのうち20SP貰えたら、かなあ。それでも通常よりはひと回り小さくなるけど。これ以上を貰うのはこの世界を生き抜くにも、箱庭を運営していくのにも不足が出るから出来ない」
「ちなみに先にスキルを見せてもらえたりは」
「箱庭に紐づくスキルもあるから無理だね」
究極の選択である。
スキルって多分、基本的な採取とか調理とか醸造……は、単品であるのかは疑問だけどあると仮定しても、そういうものが初期に取れなくなる可能性。このさい身体強化系は捨てるとしても、攻撃手段は必要だし。それがどれくらいSP使うかわからんし。
でも、こう、目の前に手段ぶら下げられたらやってみたくなるじゃん??
ノリで生きている自覚はある。だがまあ、ゲームの世界、楽しんでなんぼ!詰むとまで言われてないのならやった後に考えればいいんだひゃっはー!
「よし、SPを犠牲に広さを召喚!!」
「いいの? 一度決めたら変更はできないよ?」
「ええい、男に二言はない!」
「僕は止めたからね……」
呆れたようにため息を付いたスイが何かを操作して、ウィンドウがピカッと光ったかと思えばシステムアナウンスが鳴り響いた。
<【称号:箱庭に捧げるもの】を獲得しました。初期SPがマイナス20となります>
<【ラベル:精霊に興味を持たれるもの】が反応しました。スキル選択時にランダムで二つスキルが追加されます>
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