004. 難問だらけの設定ターン@2
「不安定って何!?」
自分とスイへのツッコミを口にしたが、スイには後でねなんて軽く流されてしまった。ステータス画面からヘルプでも見れないかと思ったが、思考操作でも表示されない。どうやらチュートリアルを終えてからでないとシステム操作は受け付けないらしい。
そういや最初に壊れかけとかなんとか、ちらっと聞いた気がする。酒に意識が行き過ぎて流してしまっていた。
歩き出したスイとの距離が少し離れていたので、慌ててあとに続く。多分そんなに致命的ではないと思う。多分。設定とかだろうし、そんなサーバが不安定とかそっち側が頭によぎったなんてそんなハハハ。
やめよう。ゲームは楽しんでこそだ。
気持ちを切り替え進んでいくと、水路からふわりと光が浮き出してまとわり付いてきた。歩くごとに光は増え、身体を通り抜けたり足元から地面へ沈んだり、かと思えば一定感覚でついてきたりとランダムな動きで遊んでくる。なんか変な言い方だけど、遊んでくるというのが一番しっくりきたので仕方がない。興味本位で腕を伸ばせば、わらっと光の玉が腕を覆った。
(なんか餌付けされた鳩の群生のような)
子どもの頃に体験した、餌袋を持ったら群がられた時を思い出す。長袖だったからいいが、もし半袖だったら爪で痛かっただろうなあなんてのんきに考えていると、光の玉たちが鳥っぽい形を作った。思考読んでる?
<【ラベル:精霊に興味を持たれるもの】が付与されました>
「はい?」
ちょっとスイさん、どういうことですか。
心の声が聞こえたのか(ほんとに聞こえてそうで困る)こちらを振り返ったスイが微笑ましそうに光たちを散らす。散らして良いんだこれ?とは思ったが、子どもが追いかけられてきゃーきゃー言う感じに飛び回ってるから多分良いんだろう。
つーかまだ設定開けねーし!!ヘルプ、ヘルプを読まさせてください。
「仲がいいね」
「いやわからんのですけど」
即座に突っ込んでしまったこいつ天然か?いや神だったわ。神々しさより親しみやすさのほうが上がってきたが。
「定着は申し分ないようだね。さあ、もうすぐ着くよ。大神殿……いまは三国統一研究機関、その本部だ」
言葉と同時に入り口へと到着する。扉はなく、太い柱の間はトラックもすれ違えるほど広くて奥がよく見えた。採光がしっかりしているのかそういうものなのか、中はそれほど暗くない。入口から続く石畳は途中で色を変えて、奥へと行くほど青い色が強くなっている。近づかないと判断は難しいけれど、ぱっと見た感じクリスタルのように思えた。
最奥はここからではよくわからない。それほど深く、広い空間に圧倒される。
(すごい)
少しだけ緊張しつつくぐった入り口には拒まれることなく、スイへと会釈をする住人を見ながらその後をついていく。
うーん、NPCの精度が高い。多分NPCだと思う。ここにプレイヤーが紛れてたり運営が居たりしてもわかる自信はないけど。なんせ、わかりやすい表示がなにもないのだ。ここらへんは後で設定項目を見たいところである。
それにしても神を見ても驚かないんだねえ。変にかしこまったりすることもないし、この世界では身近なものなのかもしれない。神様の体系とか神話とかあるのかな。興味がある。
程なくしてひとつの扉前にたどり着いた。アーチを描く壁の下、半透明の膜が張っているように見えるから、扉と言っていいのかちょっと迷う。
「手を」
スイから差し伸べられた手のひらを凝視して、恐る恐る指先を重ねる。
このタイミングでこの仕草ならこうなんだろうという読みは正解だったようで、軽く握られた手を引かれて扉の先へと歩を進めた。
部屋に入ると、迫力のある透明な四角が鎮座しているのがまず目に入った。部屋を埋め尽くさんばかりの大きさに天井を見上げる。視線の先は高く、遠く、あると思った天井にはたどり着かなかった。
この神殿はいちいちスケールが大きい。
「ここでホップ専用の箱庭を作成するよ」
「ほう」
頷いたけどなんのことかよく解っていない。ごめんね説明書隅まで読まない人種で。
「説明は必要?」
「お願いします」
そんなこちらの内心を読んだのかどうか知らないが、説明いただけるというのでお願いした。
「っと、その前に、ホップはどれくらいこちらの知識がある?基本から入ったほうが良いかな」
「頭に入れてないんで最初から!」
「うーん、清々しい返事。じゃあ基本のことからね」
なんとなーく、公式サイトを流し読みした程度で、詳しいことは調べていない。それも酒が飲めるという高揚感に押し流されて、あんまり頭に残っていなかった。まあ飲めなかったんですが!いかん落ち込んでしまうからスイの説明に集中しよう。
「さっき、不安定な世界って言ったよね。まあ簡単に言うとこの世界を支える大神が居なくなっちゃって、残った神々と住人が協力してなんとか保たせてるんだよ」
「ほう」
軽く言われたが大事ですやん。
「大地が割れ、文明も文化もぐちゃぐちゃになって、今残っているのはここを含めて四……んー、三箇所、かな」
「煮え切らないお言葉」
思わずこぼした言葉にスイが苦笑する。その理由はすぐに知れた。
「今いるここ、仮に中央交易区って僕らは呼んでいるけど、どことも繋がってないんだよね。ただ、行き来するための装置や管理する人たちは居て……それが三箇所のうちのひとつ、クルトゥテラ。だからここは広義ではクルトゥテラになるかなって。ああ、こうしたら解りやすいか」
ツイ、とスイの指が動く。
中空にホログラムのように表示された四つの楕円。三角の頂点に一つずつ、真ん中に一つ、合計四つのそれが『残っている』部分なのだろう。
「まず、さっきも言ったけど、中央の部分。これが今いる【中央交易区】で、その上にある淡黄色の円が【クルトゥテラ】ね。ここはクルトゥテラの管理区域だから色を同じにするよ」
指揮者のように振られた指に合わせて、中央が薄く色づく。
「そして左が【インエクスセス】、右が【ストゥーデフ】。それぞれ赤と青にしようか」
同じく左右に色がついた。光と闇が合わさり最強に見える……もとい三原色にしてはちょっとずれた色合いだ。まあ判別するのに問題はないので、思いついたことはゴミ箱へ捨てた。
「君たち【渡り人】は、最初それぞれのナビゲータと共にこの交易区へと案内される。そこで箱庭、ここで作成する神器を与えられるわけなんだけど……そうだなあ。箱庭は小さな世界と思ってもらえたらいいよ。環境も何もかもめちゃくちゃなせいで、移動も採取もままならないんだよね、ここって。もちろん、各領域で生活最低限はどうにか確保してるんだけど、渡り人みんなに行き渡るほどの資源はなくってねえ。それを解消するための手段でもあるね」
「でも?」
聞いていれば随分とこちらに寄り添ったものだが、まさか親切の大盤振る舞いではあるまい。
そんな気持ちで相槌を打てば、スイは透明な笑顔で小首をかしげた。
「呼ばれたのは、箱庭のため?」
重ねて問いかければ良くできましたとでも言わんばかりに頭を撫でられる。
満足げな姿に反抗する気は失せてしまった。まあ、もとからないけど。
「いい意思を持ってるね。じゃあ次は箱庭について詳しく説明しようか」
そうして四つの楕円を横において、スイは部屋に鎮座している巨大な四角へと指先を触れさせた。
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