ゴブリン姉妹の葛藤 #8
「ヒッ!? お願い食べないで!?」
「助けに来た!」
牢屋の中にいたのは皆人族の年端もいかない少年少女達だ。
皆焦燥しており、特にあの冒険者ギルドで掲示板を眺めていた少年は酷い怪我を負っていた。
相棒と思われる少女は身なりが汚れてはいるが、なんとか無事のようだ。
そしてもう一人、恐らく近隣の村人と思われる少女が端の方で怯えていた。
ユウは直ぐに三人を精査し、特に危険な状態の少年冒険者の前に駆け込んだ。
「この子の容態は!?」
「ヒッ!? ご、ゴブリンに寄って集られて!」
少女は泣き出すと、その後は滅茶苦茶だった。
PTSDという精神病を知っていたユウは、これがそうなのかも知れないと感じながら、今は最善を尽くすことだけを考える。
「鍵は?」
「簡単な作り、鍵いらない」
ゴブリン少女は木製の折の前に屈むと、複雑な木製のカラクリに取り掛かった。
ユウはそれを見て、少女冒険者に指示を送る。
「その少年を仰向けにして」
「え……?」
「お願い、必ず助けるから」
少女は明らかに不審な目でユウを見ていた。
ユウの後ろには怪しげな暗紫の鎧を身に纏った少女、目の前には彼女たちを捕らえたボスと同じゴブリン族の少女ときたら、誰だって信用出来ないだろう。
だけどユウは彼も彼女も死なせたくない、だからこそ瞳は真剣だった。
「開いた!」
ゴブリン少女は解錠すると、直ぐにユウは中に飛び込んだ。
少女は意を決して、少年を抱き上げる。
ユウは腰に吊るしていた革製のポーチから小さな瓢箪を取り出した。
「ポーションだけど、飲んで」
ユウは無理矢理少年にラミアポーションを飲ませた。
かつて瀕死のルウの息を吹き返させた、人類が未到達の世界最高峰のツバキ謹製ポーションだ。
ユウはツバキを信じた、後は少年の生命力次第だ。
「後ろの子、立てる?」
「ヒィ!? え、あ……?」
「脱出する、立てないならおぶっていくけど?」
「だ、大丈夫ですっ!」
少女は焦燥はしているが、従順だった。
恐らくこの従順さがゴブリンから手荒な真似を受けなかったのだろう。
ユウは少年を背負うと、全員の顔を見た。
ムーンは臨戦態勢、ゴブリン少女も力強く頷いた。
「脱出する! 付いてきて!」
ユウはそう言うと、収容所のあった小屋を飛び出す。
村は赤い炎に照らされ、あちこちからゴブリンの声が聞こえる。
「アギャアス」
「ディン、この子をお願い」
隠れていたディンはユウが出てくると、全てを察して彼の前で膝を折る。
ユウはディンの背中に少年を担がせると、少女達もディンに乗せた。
「あ、あのっ、どうすれば!?」
「ディンに任せればいい! ディン、
「アギャアス!」
ディンはユウの指示に従い、少女達を落とさないように走り出した。
後はディンに任せれば大丈夫だ、彼女は賢いから直ぐに街に向かってくれるだろう。
ユウはあの少年の無事を心配すると、直ぐにゴブリン少女に振り返った。
「私、姉、止める!」
「応援してる!」
ゴブリン少女は確かな決意を持って、高台で喚く姉の姿を捉えた。
今その背中はがら空きで、かつ彼女にはそんな己の不幸を案じる思慮もない。
だがゴブリン少女は弓には手を付けなかった。
それで良い、ただユウだけはそんなゴブリン少女を肯定してくれる。
ゴブリン少女は一度息を吐く、直ぐに覚悟を決めた。
彼女は素早く駆け出すと、高く跳躍した!
「ギャギャ!?」
その気配、咄嗟にゴブリンシャーマンは振り返った。
ストン、と軽やかに姉の前に立つ少女、二人のゴブリンの顔は明暗を別けていた。
「姉、村の平和守る!」
「妹! また人間の言葉を!」
姉妹は優れた知能と肉体を持つ規格外のゴブリンだ。
たどたどしいものの、姉も妹に合わせるように同じ言葉を使った。
「姉、利口、でも悪い事はいけない!」
「ほざけ! ゴブリンこそ頂点! 妹よ、お前も妾の軍門に下れ!」
「それ出来ない! 村平和に戻す!」
「愚かな、旧態依然のゴブリンになんの価値がある!? 妾達姉妹の姿を見よ! これこそが選ばれし優良種の証!」
平行線だ、姉の強い選民思想、そして邪悪な支配欲に囚われている!
そんな姉にゴブリン少女は唇を噛んだ。
結局この姉は実力行使でしか止められないのか?
「姉! 思い出して! 楽しかった日々!」
ゴブリン少女は拳を握った!
身長は妹の方がある、少女は小さな姉に向かって拳を振り下ろした。
「むぎゃ!?」
姉はなんとか杖で防御するが、体重差からか、台から転げ落ちた。
そのまま尻もちを着くと、恨めしそうに妹を睨みつけた。
「よくもやったの! ならば! 受けよこれぞ秘術!
少女は杖を天へと掲げた!
その瞬間、稲光が起きる、それは神の怒りのようにゴブリン少女に振り下ろされた!
「ああああっ!?」
落雷が少女を襲う、少女は全身を高圧電流が襲い、衝撃で吹き飛ばされた。
ゴブリンシャーマンはそれを見て、立ち上がり嘲り笑う。
「キャキャキャ! 見たか妾の力!」
「う……く……?」
ユウはそれを見て絶句した。
魔法そのものは初めてじゃない、だが
このままではゴブリン少女が危ない!
ユウは状況判断をすると、真っ先にゴブリン少女に駆け寄った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます