亡霊騎士の想い #完

 ユウはルウの下に駆け寄った。

 だがルウはピクリとも動かない、その呼吸は弱々しかった。


 リリアンはそんなルウの下に駆け寄ると、治癒の魔法ヒールを使う。

 ルウの傷口はみるみるうちに回復していくが、リリアンの顔色は悪かった。


 「やっぱり……治癒の魔法ヒールじゃ、失った体力までは」

 「そんなルウは!? 駄目だルウ!」

 「くそ! エリクサーでもあれば別だろうが」


 重剣士は悔しそうに拳を振り下ろす。

 エリクサー、今や製法が失伝して久しい幻の回復アイテムだ。

 だがそんなものユウもリリアン達も持ち合わせていない。

 リリアンは悔しそうに錫杖を持つ両手を震わせて言った。


 「エリクサーと言わずとも、ラミアポーションでもあれば」

 「ラミアポーション?」


 その時、ユウはあの時ツバキから貰った水薬ポーションを思い出した。


 ――前の薬草のお礼、それ私が調合した治癒の水薬ヒールポーションなの。


 ユウは直ぐに腰に吊るしたバッグを覗いた。

 なにかの動物の胃を使った袋が、バッグの中に閉まってあった。

 一か八か、ユウはそれを取り出すと、ルウに飲ませる。


 すると、ルウが息を吹き返した。


 「ククッ!」


 凄い効果だ、それを見てリリアンは驚愕する。


 「えええ!? もしかしてそれは幻のラミアポーション!?」

 「なんだってー!? 末端価格でも3万ゴールドは下らないという幻の!?」


 それを聞いたユウが一番驚いた。

 ラミアポーションは、ラミア族が精製する特別なポーションで、通常の治癒の水薬ヒールポーションとしても最上級だが、スタミナや様々な解毒までする世界でも最高クラスのポーションだった。

 ラミア族は危険な魔物であり、並の冒険者では簡単に返り討ちにされ、ラミアポーションはそんなラミアを倒すか、ラミアの巣で見つけるしか手に入らないアイテムだ。

 それだけに、単純にお金を積めば手に入る物ではない事をユウは初めて知った。


 (ツバキ、本当に、本当にありがとう!)


 ユウはツバキに本当に感謝した。

 ルウを強く抱きしめると、ルウはユウの顔をザラザラした舌で舐めた。

 兎に角奇跡的に皆無事だった、けれど唯一無事で済まなかったのは。


 「竜車が……」


 ムーンは大破した竜車を見て、心苦しそうに俯いた。

 それはソロスから受け継いだ大事な竜車だった。

 ユウは苦しそうに俯く、リリアンはそんなユウを励ました。


 「み、見たところ元々古そうな荷台でしたし、きっと寿命だったのですよ」

 「そうだぜ、かなり古臭い作りだったし、そろそろ買い替えだったんだ」


 ユウは何も言えなかった。

 ソロスとの思い出がまた一つ消えていく気がして、虚無感が彼を襲った。

 けど、ムーンはそんなユウの背中に抱きついた。


 「あ、あの……車は壊れても、ボク達は無事です……その、ボクが言うのは烏滸がましいかもだけど、また一からやり直しましょう?」

 「ムーン……」

 「アギャース」


 ユウはムーンとルウを見る。

 そうだ、物はいつか壊れる……でも、ユウ達はそこで終わりじゃない。


 それにだ――ソロスなら、さっさと買い替えろって笑いながら言っている気がした。

 ユウは立ち上がる、泣いてばかりいられない。

 ユウは言ってみれば社長なのだ、社員であるムーンに泣き顔は見せられない。


 「ありがとう皆」


 ユウは感謝した、ムーンは少しだけ微笑んだ。




            §




 壊れた竜車で5人を運ぶことは出来ない。

 ユウはルウに跨がり、近くの街に救助を依頼しに、その場を離れた。

 ムーン達はユウを信じてその場で野営キャンプを築く、夜も暮れる頃、ユウは救助隊を引き連れて戻ってきた。

 リリアンとはそこでお別れだったが、リリアンは別れ際ムーンに言った。


 「ムーンさん、私達はずっと友達よ!」

 「う、うんリリアンさん」

 「もし何かあれば、レッポアに来て、暫くは滞在していると思うから」


 そう言って彼女たちはレッポアへと急いだ。

 ユウとムーンは荷物が少なかった事が幸いし、二人はルウに跨がり配達に向かった。


 「あのユウさん……ボク、頑張りますから、だから……」


 ムーンはユウの背中にしがみつきながら、頬を赤く染め上げた。

 この男に尽くしたい、ムーンの恋心はゆっくりと始まっていた。




 第2話 亡霊騎士の想い 完

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