亡霊騎士の想い #5
酷い目にあったものだ、ユウはまだクラクラする頭を抱えるとアシリスの町に戻った。
ルウは荷台を引っ張ると、意外と大人しく命令に従った。
かなりの気分屋だが、ルウは計算高いのだろう。
見た目で判断する事が烏滸がましいのか、ディノレックスは知能も高いようだ。
一先ずルウと荷台を繋留所に連れていくと、仕事を取りにいく。
まだ朝のアシリスの町は市場も人々で賑わっている。
ユウは市場を眺めながら商業ギルドに向かった。
カランカラン。
商業ギルドはアシリスでも有数の大きな洋館を利用していた。
ユウは中に入ると、郵便局を連想するギルド内を見渡した。
ギルドの奥、カウンター席に座る受付嬢は手を振った。
「あっ、ユウさん! お仕事ですかー!」
ユウはカウンターに近づくと、三編みの受付嬢は満面の笑みを浮かべる。
ユウは少しだけこの女性が苦手だ、積極的でお喋りな女性とは、何を話せば良いのか、全く頭が回らないのだ。
ユウはやや顔を引きつらせながら、仕事がないか聞く。
「配達の仕事はある?」
「はい、今の所はですね……えとこの4件ですね」
受付嬢は配達の仕事の依頼書をカウンターに並べた。
仕事はそれぞれ別々の町への配達のようだ。
ユウは依頼書の期日を確認する、そして小さく頷いた。
「4件全部いける」
「本当ですかっ!」
受付嬢は顔をカウンターから乗り上げる。
ユウは一歩後ろに引くが、不器用に笑顔で頷いた。
「それぞれ配達期限も違いますし、間に合うと思います」
「助かります! どうしてもこの4件捌ききれなかったんですよー!」
配達はなるべく多くだ、小口の仕事を受けていたら配達業は大赤字になる。
だから人気があるのは、大手の仕事で、少量を運ぶという仕事は人気が無い。
とはいえ、纏めて仕事を受ければ出来なくもない。
アシリスに帰ってくるのは、少し遅くなりそうだなとユウは想像した。
「それでは直ぐに商品を運んで来ますね!」
受付嬢は席から立ち上がると、奥へと向かった。
数分待つと、小さな小包が並べられた。
「本当に申し訳ございません、ご覧の通り少量の配達ですが」
ユウは小包をそれぞれ確認した。
一つは絵の具、もう一つ新型螺旋ネジの標本、オウルベアの爪、美術品のようだ。
依頼者も受取人もそれぞれ別、ユウは別のカウンター席を見る。
配達の依頼は今も長者の列が出来ている。
「相変わらず盛況でしょ? 最近じゃ手紙も取り扱っているんですよ」
「郵便配達ですか」
商業ギルドは、市場の経営管理なども携わるが、兎に角大忙しのようだ。
受付嬢はあまりの仕事の多さに思わず苦笑する。
けれど、やり甲斐もあった。
ユウは小包を慎重に丁寧に扱った。
「それではお願いします」
ユウは頷くと、小包を両手で支えて出口に向かった。
「そういや例の亡霊の話はどうなった?」
「いいや特にはないな」
「じゃあ、根も葉もない噂だったのか?」
「まだ分からんぞ、火のないところに煙は立たないからな」
ユウは不意に長者の列を作る商人達の会話を聞いた。
亡霊? 幽霊の類とはなんとなく分かるが魔物なのだろうか。
霊というからには、夜に現れる……という日本人らしいナチュラルな妖怪感で考えてしまうが、実際はどうなのだろう。
ユウはギルドを出ると、直ぐにルウの下に向かった。
§
ルウはのんびり鎖に繋がれながら、身体を丸めて眠っていた。
けれどユウの足音に気づくと、ルウは目を開く。
しっかりその目がユウを捉えると、ルウは顔を上げた。
「アギャア」
「もうすぐ出発だ」
ユウは商品を荷台に詰め込む。
もう少し仕事をとった方が良いだろうか、荷台の空きが妙に気になった。
「重量が嵩めばルウの負担にもなる、これ位の方が良いか」
仕事としては少ないが、ユウはそう納得した。
仕事としてはギリギリ黒字だろう、アクシデント次第では赤字になりそうだが、貯蓄もあるので今回はそういう日だろう。
「おい、奴はいたか!?」
ん――? ユウは後ろを振り返った。
町の入口付近で、武器を持った兵士や冒険者がざわついている。
なにが起きたのか物々しい雰囲気にユウやルウも感じていた。
ユウはもう少し情報を集める。
「いいや! 町の外には出ていない!」
「亡霊……いや、デュラハン! 必ず仕留めろ!」
デュラハン? 確か首が無い魔物だったか?
ユウはゲームの知識から、なんとなく漠然としたイメージを持った。
伝承にあるような正確なデュラハンまでは流石に把握していないが、ともあれ彼らは殺気立っているのは明白だ。
(そんなに危険な魔物なのか?)
ユウは魔物といえど、それにはいくつかの性質がある事を知っている。
ツバキのように、見た目が人間と異なるだけで独自の文化を持つ魔物がいれば、野生動物の延長線の魔物、全く意思疎通の出来ないゴーレムのような魔物等だ。
ツバキは立派な知的生命体だ、人間を警戒しているが、充分分かり合える。
しかし、野生動物と対して変わらない魔物だと、残念ながら駆除するしかないだろう。
町に猪や熊が現れれば、ニュースにも取り上げられるだろう。この世界でもそれは驚異と認識されている。
デュラハンというと、イメージはゴーレムの方だ。
一切意思疎通の出来ないタイプだとすると、かなり危険なのかも知れない。
「ちょっと気になるけど」
ユウは自分に何が出来るだろうと、目を瞑る。
この世界に来てからというもの、身体こそ若返った――というかほぼ別人だが、自分の無力さを知った。
この若い肉体のお陰で、出来る事は増えたとはいえ、かといって普通の人でしかないようだ。
女神エーテルが授けてくれたこの身体だけでも御の字だが、もう少し欲張るなら、ヒーローのような力は欲しかった。
もしヒーローのような力があれば、悪と戦うことも出来たかも知れない。
実際にはこの世界に来た時から言語が通用したり、文字を読める等の恩恵もある訳だが、些細過ぎたかユウは気づいていない。
兎に角ユウは出来る事はやるが、出来ない事の無理を通す事は不可能だ。
今は気にせず街を出るべきか、そう思ったその時。
ガシャン、ガシャン!
ユウは薄暗い路地裏を見た。
異様な重たい足音が近づいている。
ユウは路地裏の入口に近寄ると、目の前から暗紫の全身鎧が迫ってきた。
「わわっ! 危な――!?」
「うわ!」
避けられない、余程急いでいたのか暗紫の騎士は急ブレーキも間に合わず、ユウと正面衝突する。
ユウは後ろに吹き飛ばされた、一瞬何が起きたのか首を振ると、ユウは目の前を見て唖然とした。
ぶつかった騎士の兜が舞う、騎士には首が無かった。
「わわわー! 身体が!」
兜が喋った!? ユウは驚愕する。
首を失った身体はオロオロする、兜に手を伸ばすが、取り落とす。
ユウは慌てて、兜を受け止めた。
嫌に重い、ユウは恐る恐る兜を覗くと。
「あ、あはは……あ、ありがとう御座います」
兜から僅かに覗く視線があった。
それは生首だった、思わずユウは身震いする。
だが、生首……もといその首から下はオロオロしても、害意はまるで無かった。
「デュラハン……?」
「ふえ? あっ!」
デュラハンの身体は生首をユウから奪うと、デュラハンは生首を装備して周囲をキョロキョロ慌ただしく見ていた。
ユウはこのデュラハンの慌ただしい態度に、今の状況を思い出す。
そうだ、今デュラハンは騎士や冒険者に狙われている。
「えと、あの……!」
「デュラハン、こっち!」
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