240620

【2024年6月20日】



「千花ちゃんさ〜ん」


 アルバイト終わり、更衣室の耐え難い暑さに苛立ちを感じつつ着替えをしていると華菜がこの暑さにも関わらずベッタリとくっついてきながら私の名前を呼んだ。


「離れて」


「良いじゃないですか〜 女の子同士だし」


「そういうことではなくて……」


「あぁっ! 楯くんさんと藍ちゃんさんが嫉妬しちゃいます? じゃあ、離れま〜す」


 そういうことでもないのだけれど、勝手に納得して離れていったので私は何も言わなかった。


「で、何?」


「何か無いとお話ししたらダメですか?」


「ダメというか、話をしようにも華菜はタイムカード切ったらいつも真っ先に帰っているじゃない。それなのに残って話しかけてきたという事はそういう事なのでしょう?」


 そう告げると華菜は目を丸くして驚いていた。


「千花ちゃんさんってエスパーです?」


「……面倒くさい。ジャージ返すつもりだったのでしょう? 早く返して」


「へへっ、その通りで〜す。ありがとうございました。おかげで怒られずに済みました」


 着たのなら気がつかないはずはないと思うのだけれど、貸したジャージは私のではなくて楯のものだった。


 その事について何も言ってこないあたり、華菜にとっては私からジャージを借りたという部分だけにしか興味が向いておらず、ジャージに刺繍されてあった『中州』の文字には全く興味が向かなかったのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る