240615

【2024年6月15日】



 半強制的に出場させられたバスケットボールの試合で校内で話題になるような活躍はせずとも、クラスとしては得点王と呼ばれても良いのではないだろうかと自惚れてしまう程度の活躍をして教室へ戻ると、動かし尽くした身体を刺激するようなソースの香りが香ってきた。


「おお、明日の練習か? ……って、藍は何しているんだ」


「もんじゃ作っとるんじゃ」


「それは材料を見ればなんとなくわかるが、うちのクラスはお好み焼き屋だったよな?」


「お好み焼き屋でももんじゃ出す店は多いんじゃ」


 自分でツッコミを入れておいてではあるけれど、確かにお好み焼き屋には大抵もんじゃ焼きはメニューに記載されていた。むしろ、もんじゃ焼き屋という店を見かけた事がないくらいにはお好み焼きともんじゃはセットのイメージが強かった。


「確かにその通りではあるが、今回のうちの模擬店に関してはお好み焼き一択だっただろう?」


「お好み焼きは売り切れたんじゃ。じゃから余った食材でもんじゃ作っとるんじゃ」


「売り切れたって、模擬店の本番は明日からだろう? まさか、試作で使い切ったなんてバカな話……」


「それは違うんじゃ。まあ、最初はそうじゃったんじゃが、結果としては違うんじゃ」


 藍が懇切丁寧に説明してくれたが、やけに強調してくる語尾のが話を邪魔してくるので俺というフィルターを通して説明すると、


 午前中に明才祭初日のメインイベントである球技大会に出場予定の無い生徒は明日の模擬店開店に向けて食材の準備や調理の最終確認をしつつ試作で何枚かお好み焼きを焼いていたらしい。

 その匂いに釣られて他クラスや他学年の生徒がうちのクラスにやって来たらしいのだが、開店は明日からなので藍を含めたクラスメイトは試作を作っているだけだと説明をして断ったのだという。

 そんな中、一部の生徒からいくつかのクラスは先行して販売を開始しているというタレコミが入ったらしく藍はすぐさま春奈はるな先輩に確認を取ると、いくつかのクラスは明才祭実行委員会の許可を得て先行販売を行なっている事実を知ったらしい。

 その事実を知ったのがちょうど昼前だった事もあり、藍たち残っていたメンバーは売り上げを増やすチャンスだと考えすぐさま実行委員会に許可を得て人員の関係上テイクアウトのみという形で昼から販売を開始した結果……想像を遥かに上回るレベルで売れてしまい、現在に至るのだという。


「今、かげっちたち調達班が明日の分の材料を買いに行ったんじゃ」


「そうか。それはそれとして、千花は何をしているんだ?」


「見て分からない? 焼きそばだけれど」


 味はともかく歯応えだけはありそうな黒い塊焼きそばだったものを見た俺は苦笑するしかなかった。

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