240530

【2024年5月30日】



「あれって、会長じゃない?」


「本当だ」


 授業が終わって、偶然にも廊下で一緒になった凛くんと生徒会室へ向かっていると、部室や生徒会室がある別棟に続く廊下の端でピカルん会長が誰かと話している姿が見えました。


「一緒にいるのは……伊吹先輩だ」


「伊吹先輩って軽音部の……。でも、はあ〜ちゃんが行くって事でまとまったんじゃなかった?」


「そのはずだけど……」


 見てはいけない光景ではないと思いましたが、なんとなくうちらは柱の影に隠れてその様子を見守りました。


「会長がなんか出した」


「お財布?」


 遠目からだったので正確なところはわかりませんが、お財布から数枚の紙……恐らくお札を取り出したピカルん会長はそれを伊吹先輩に差し出して代わりに白い封筒に入った何かを受け取っていました。


「何かの受け渡し?」


「もしかして、ピカルん会長ってばやっちゃいけないような事を!?」


「なぁ〜にしてんの?」


「「ぴゃぁっ!?」」


 顔を見合わせて、今見てしまったのは見てはいけないやり取りだったのではないかと思っていたうちらは突然かけられた声に全く同じ反応をしてしまいました。


「い、伊吹先輩」


「覗き見なんて趣味が悪いよ。まぁ、そういうのウチも好きだけど」


「あの、伊吹先輩。会長とやり取りしていたあの封筒って……なんか法に触れるようなアレでは?」


「えっと、君は確か……生徒会の副会長だっけ? いやはや面白い発想を……何その表情。藍ちゃんもそう思っていたの?」


「あ、いや。違うだろうなぁ、違うと良いなって思ってましたよ」


「当たり前でしょう。あれは日曜日のチケット! 光が観てみたいって言ってきたから売っただけ。怪しいなんかじゃ……」


 誤解を解くために必死になって語っていた伊吹先輩でしたが、突然言葉を詰まらせました。


「伊吹先輩?」


「ん? あぁ、何でもない。そうだ、藍ちゃん申し訳ないんだけど、楯くんに土曜日に本番前の練習したいからいつものスタジオ使っても良いか口利いてもらえないかな? ちゃんとした交渉はウチがしっかりやるから」


「わ、わかりました。言っておきますね」


「あんがと。んじゃまた」


 そう言ってそそくさと立ち去った伊吹先輩はいつもと様子がほんのちょっと違う気がしました。

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