240417

【2024年4月17日】



「おっすー」


「うぃ」


 いつものようにアルバイト帰りの私を迎えにきてくれていた楯は私を見つけるなり気の抜けた声をかけて来たので、それに合わせて気の抜けた返事をした。


「千花ちゃんの……お兄ちゃん?」


 私たちのやりとりを隣で見ていたアルバイトと学校の後輩である沖原華菜おきはらかなさんは私とは似ても似付かぬ顔立ちの楯を見てそう言った。


「お兄ちゃんか……弟じゃないだけ良かったけど、残念ながら俺たち血縁関係は無いのだよ」


「今のところはね」


 なあんとなくそう言っておきたかった私の声に重なって楯も同じように聞こえないくらいの声量で呟いていた。


「じゃあ、あなたは千花ちゃんの何ですか? かーは千花ちゃんの後輩ですけど!」


「何って……単純に彼氏だけど」


「彼氏……って事は千花ちゃんとカップル!?」


「そうだな」


 当たり前のことを大袈裟に発言する華菜さんに楯は不思議なものを見るような視線を向けていた。


「この子が例の新人さんか」


「変わっているでしょう?」


「そうだな。明才生らしいタイプの子だな」


「あのあのあの、先に帰っても良いですか?」


「ああ、悪い。引き止めるような形になってしまって」


「せっかくだから家まで送ってあげたら? 私たちも長々と従業員入口の前で話しているつもりはないのだし」


「この子……」


「かーです!」


「華菜さんね」


「華菜さんが良ければだけど」


「車ですか!?」


「いや、徒歩だけど」


 徒歩だと聞くなり華菜さんは首を傾げて考え込み、十数秒の沈黙があたりを包んだ。


「良い……でしょう!」


「そうか。では、行くとしよう」


 華菜さんが明才生の中でも上位に食い込むくらいの変わり者だと楯も気がついたようで、あまり柔らかくはない笑顔を向けてそう言った。



***



「お腹が空いたなぁ。ご飯は何かな?」


 恐らく創作だと思われる愉快な歌を口ずさむ華菜さんと共に華菜さんの自宅へ向かっていると、


「へえ、この辺か……」


 と楯は何かを察したようにそう呟いていた。


「華菜さんって、今は実家暮らし?」


「今はおばあちゃんの家に住んでますよ」


「おばあちゃんの家か……おばあちゃんの苗字ってもしかして、実田みのりださんだったりする?」


「すごいっ! どうしてかーのおばあちゃんの苗字知っているんですか? もしかしてかーのストーカーですか?」


 もしそうなのだとしたら、そこまで目を輝かせて聞くような事では無いと思うのだけれど、華菜さんは嫌がっている訳でも無ければ、冗談を言っている訳でも無いようなのであえて口出しするのはやめておくことにした。


「ストーカーでは無いけれど、偶然にもおばあちゃんと知り合いだったものだからもしかしてと思って」


「どうしておばあちゃんと知り合い何ですか? おばあちゃんはですよ?」


「おばあちゃんは定食屋を営んでいるだろう? 俺はそこでアルバイトしているからさ」


「そうなんですね。あ! かーの家ここなので。送ってくれてありがとうございます!」


 自分から聞いておいて、興味を失ったようにそう言った華菜さんはさっさと家へ帰ってしまった。


「面白い子だな」


 乾ききった笑い声と共に楯はそう呟いた。

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