230407-4
【2022年5月某日】
2泊3日の修学旅行3日目。すなわち最終日。
修学旅行だというのにわざわざ早寝早起きをして、昨日と同じ時間、同じ場所を訪れた俺だったが、昨日と同じ動きをしているのは俺だけだったようで旅館1階のロビーには生徒よりも早く出発の準備を済ませた各クラスの担任・副担任と引率の教員が集まっていた。
この様子では
旅館を出て以降、俺は藍と千花の2人と同じ空間で過ごしながらも会話を交わす事は無いまま修学旅行最後の目的地である東大寺に辿り着いてしまった。
「あ、藍!」
「……」
「なぁ、千花」
「……」
俺のタイミングが悪いのか、はたまた距離を置かれてしまっているのか、藍も千花も俺の声に対して反応のないまま修学旅行はあっという間に最後の自由時間を迎えようとしていた。
「今から自由時間だが、あんまりゆっくりする時間は無いから、お土産を買うだとか、写真を撮るだとか、やることを済ませたらすぐにバスに戻るように。他の学校も修学旅行で来ているようだからバスを乗り間違えないように。以上、解散!」
担任のその掛け声を合図にして俺は藍と千花の手を取った。
「藍、千花、聞いてくれ」
今思い出すと背筋が凍る。俺はこの時、藍と千花以外は誰一人として視界に入っていなかった。しかし、実際にはどれだけの人が俺の最低最悪な告白を聞かされていたのだろうか。
「俺は……ずうっと前から、ふたりの事が大好きだ。ふたりが付き合っているなんて誰よりもよおく知っている。そんなふたりの間に割って入りたいくらいふたりが好きで、好きで、大好きで堪らないんだよ! 最低と
俺は満足した。そして、よくもまあ、一文字だって噛むこともなくこんなにも恥ずかしくて最低な言葉をつらつら口に出来るものだと我ながら呆れ果てた。
「だって、ちーちゃん」
「こんなにも恥ずかしいことを昨日から言おうとしてタイミングを見計らっていたの?」
言葉を出し尽くしてしまった俺はただ首を縦に振る事しか出来なかった。
「まずは藍から答えてあげれば? 我慢できなくて告白してしまったのでしょう?」
「え!? あ、うん。ちーちゃん知ってたんだ……。あのね、ジュンジュン……うちは良いよ。って言うか、うちからだし。言ったの」
「ねぇ、楯。私、前々から思っていたことがあるのだけれど双方同意の上の交際は俗に浮気と呼ばれる行為にはならないのではないかしら?」
千花が言っているとは思えない突拍子のない発言に俺の思考は完全に停止した。
「
「ウチはちーちゃんの彼女で、ジュンジュンの彼女」
「楯は藍の彼氏で、私の彼氏。三人が三人とも納得しているのならこんな三角関係の交際だって良いとは思わない?」
その理論が法的に許されるものであるのか15,6年しか生きていない俺に判断するだけの知識は備わっていないが、藍も千花もそれで良いというのなら俺もそれで良い。難しいことは一つも無かった。
そうして俺はふたりの彼女を手にして、多くのものを失った。
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