230407-3

「実は、告白されたんだ。あいから」


 俺の言葉に千花ちはなは目を丸くして驚いていた。それもそのはずで、俺に告白してきた左久良藍という少女は俺と千花の幼馴染で千花のなのだから。


「そうなんだ、藍が……そうなんだ」


 その言葉から今の千花の感情を読み取ることは出来なかった。


 悔しく、つらいはずのその言葉に対して優しく微笑んでいただけだったのだから。


「藍が思いを伝えたのだったら、私だって同じ権利がある。そうでしょう?」


 一体何をなんてとぼけるような真似は出来なかった。それほどまでに真剣で、緊張しているそんな眼差しを、口調を千花は俺に向けていた。


「私は……」


 俺は咄嗟に千花の口を塞いだ。言葉の続きを聞きたくなかったから……ではない。


「誰かいるのか?」


「あぁ~ すいません。すぐに部屋に戻ります」


「なんだ、中州か。巡回の先生方が起きるまでに早く部屋戻れよ」


「は、は~い」


 夜明け前の時間に千花と二人きりで居ると悟られてしまわないように引率で修学旅行に同行していた国語の先生にそう返事をした俺は千花の口を塞いだまま彼女を見つめた。


「決めたわ、俺。藍の返事も、千花の返事も」


 千花が言ってしまう前に、藍がにされてしまわないように、俺は一つの決意を決めた。



***



 決意が揺らいでしまわぬように、早いうちに……この日のうちに伝えてしまおうと思っていた俺だったが、丸1日グループに分かれて自主研修を行う予定となっていたこの日、広い京都府内で藍と千花に出会う機会に恵まれることはなく、あっという間に就寝時間を迎えてしまった。


「なかじゅん、何かあったのか?」


「あったと言えばあったし、なかったと言えばなかった」


「?」


 タカシーこと高嶋曜たかしまようは言葉の意味が理解できなかったようで、首を傾げていた。


「タカシー的に二股ってどう思う?」


二俣ふたまた? あいつは……」


「違う。そっちじゃなくて恋愛とかの」


「あぁ、そっちね。普通に最低だろ」


「だよなぁ~」


 一般的にはそれが普通の感想であることは重々承知している。たとえそれが、の上だったとしても……。


「なかじゅん、もしかしてお前! いや、流石にそれは無いか。千花さんも藍ちゃんもなかじゅんには興味なんて無さそうだからなぁ」


「興味ないか……」


 それは多分、藍と千花が誰も入り込むことの出来ないほど相思相愛のカップルだからなのだろう。


「タカシーは例え俺がどんなことをしたとしても、今まで通りに接してくれるよな?」


「時と場合によるだろ。それこそ、二股なんてしようものなら一生絶縁だな。まぁ、なかじゅんが二股なんて出来るはずが無いし、そもそも幼馴染以外の女子と接点の無いなかじゅんに彼女が出来るはずが無いけどな」


 タカシーはそう告げるとケラケラと笑った。正直一発殴ってやろうかと思った。



 こんなにも楽しく話していた俺も、タカシーもまさかそれが中学校生活最後の会話になるとは思うはずが無かった。

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