230404
【2023年4月4日】
「見た?」
「あぁ、あれな……。まだ見てない」
恋人同士だからなのか、生まれた時からの幼馴染だからなのか、俺は千花の言ったたった二文字の言葉の意味が理解できた。
なんてことはなく、雰囲気で千花が言いたそうなことを予想して適当な返事を返しただけに過ぎなかった。
「藍は凄く怒られていたみたいだけど」
「まぁ、おばさんには何の相談もなく染めたみたいだからあれだけ怒られるのも当然と言えば当然だろうな」
どうやら適当に返した返事は正解だったようで会話は想定通り髪を染め、キッチリと藍ママにお灸をすえられたらしい俺たちの
「見る? 画像あるけど」
「見せて」
「ん」
そう返事をした千花は俺のスマートフォンへ髪を染めた直後に藍が撮ったらしい自撮りの画像を送ってくれた。
「……」
「……まぁ、言いたいことはわかるけど」
画像の中の藍は限りなく黒に近い茶色(茶色だと言われても黒にしか見えない髪色)をしていて藍ママはよくこの色味の違いを見分けられたものだと感心してしまった。
「これから励ましに行くけど楯も一緒に行く?」
「泣きすぎて目が腫れたから今日は会いたくないってメッセージ届いていたから、今日は遠慮しておく」
「ん。じゃあ、何に書伝える事は?」
「あぁ、じゃあこのメール藍と藍ママに見せてやってくれ。気休めにもならないかもだけど」
そう言って俺は明才高等学校から送られてきたメールを千花に転送した。
「髪色について……『過度に派手な髪色でない限り髪色は生徒の自由とし、地毛証明書の提出は不要。但し、受験・就職の際は進路先の求める規則に準ずることとする』わざわざ確認したの?」
「入学初日から怒られる姿は見たくないし。まぁ、あの色なら明才の校則には違反しないだろうから無駄な心配だったけど」
「ふふっ、楯のそういう心配性な所、昔から嫌いじゃない」
「素直に好きって言ってくれても良いのだが?」
言い終えてから少し恥ずかしいことを言ったと後悔した俺だったが、既に千花は俺の部屋を出て行ってしまっていた。
【2023年4月4日】
「ふふっ、楯のそういう心配性な所、昔から嫌いじゃない」
「素直に好きって言ってくれても良いのだが?」
藍がいない事を良いことに珍しく少し恥ずかしい言葉を吐いた私よりも何十倍も恥ずかしい楯の言葉が私の心にぐさりと突き刺さり、私の顔は恐らく鮮血のように真っ赤に染まっていた事だろう。
嗚呼、なんて嬉しい言葉なのだろう愛している人からの好きという二文字は。
この後、私も藍に対してそんな恥ずかしい言葉を真っ直ぐ突き刺すことができるだろうか? そんな不安に押しつぶされそうになりながら私は藍の家へ向かった。
その時間、僅か三十秒。しかし、その時間はこれまでの人生の中で最も長い三十秒のようだった。
一部抜粋。
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