230403

【2023年4月3日】



「楯ちゃん、いらっしゃい。随分と久しぶりじゃない?」


「受験の前だから……2,3ヶ月ぶり?」


 美容師の寿蓮乃ことぶきはすのさんは母さんが美容師として働いていた頃の後輩で、カリスマ美容師と呼ばれていた母さんにさえ髪を切られたくなかった幼い俺が唯一髪を切ることを許した女性でもあった。


「そっかぁ、楯ちゃんももう高校生か。……楯ちゃんって呼ばない方が良いよね」


「蓮乃さんにだったらどんな呼び方をされても良いっすよ」


「そんな優しいところを千花ちーちゃんあーちゃんは好きになったんだろうねぇ。羨ましぃ」


 藍と千花のカットも担当している蓮乃さんは三人それぞれが互いの彼氏であり、彼女である俺たちの複雑で本来許されることのない関係を応援してくれている数少ない人物だった。


「ところで、楯ちゃんたちが通う高校って髪染めオッケーなの?」


「結構自由度の高い学校らしいけど、流石に金髪とかはダメだと思う。でも、なんで?」


「どうせすぐにわかる事だから言っちゃうけど、ついさっき……一時間前くらいかなぁ? あーちゃんがカットとカラーをしに来たの。あんまり派手なのは止めた方が良いとは言ったけどあーちゃんったら『うち、ギャルデビューしたいから!』って聞かなくて。折衷案で暗めのブラウンに染めたんだよねぇ」


 藍のモノマネのクオリティーの高さに驚きつつも、藍の行動の大胆さに俺は呆れる事しか出来なかった。


「怒られるときは私も一緒に怒られる覚悟はしているから、楯ちゃんだけはあーちゃんに優しくしてあげてね」


「怒られないことを祈りたいけど……」



 結論から言うと藍はめちゃめちゃ怒られたようで、藍の母さんが呆れながら怒鳴る声が隣に住む俺の家まで届いていた。


 そんな声をバックグラウンドミュージックとして聴きながら俺はへ手紙を送るために一筆したためた(と格好良く記してみたが、実際はスマートフォンでメールを打っているだけである)。

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