5.息子のシャツ

「そんな変な色じゃなくて普通のにしなさいよ。ほら、こっちの青いシャツとか」

 小学生の息子が持ってきた服を横によけて、妻が別の服を引っ張り出した。ハンガーをつけたまま息子の胸元にあてがって「ほら、カッコいいじゃない」と言う。確かに妻の選んだシャツは爽やかで息子によく似合っていた。

 息子が選んできた服はというと、確かに少し紫の色味がきつくて、着るのに躊躇しそうな斬新な印象だった。

「ねぇ、パパのパジャマも買っとく?」

「じゃあお願い」

「この生地のでいいよね」

 俺が返事をすると、妻はサイズをみながら色違いで二つカートに入れた。

 息子は少し自分の持ってきた服を名残惜しそうに見ていたが、妻がそれに気づくことは無い。

 確かにちょっと変な色味だし妻の選んだほうが良いんだけど。こういうのも自分で選びながら身に付くんだけど。先日読んだラクダの絵本を思い出した。同調して同じ赤いネクタイをつけたラクダたち。そして様々な色のネクタイのラクダたち。

「せっかく選んできたから、これも買ってあげようよ」

 俺は息子の選んだ服をカートに入れた。

「まぁ、いいけど……」

 少し不満そうな妻だったが、俺が怒られときゃいい。息子はというと、ちょっとうれしそうな表情をしている。まぁ、着るチャンスがあるかどうかは微妙だけどな。俺は心の中で呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る