第34話 提案
日が暮れた後の町。特に目立った明かりはなかったが、一軒だけ例外があった。
吉斗の家である。
「どうするんです? 何か対抗策はあるんですか?」
レミが吉斗に聞く。
「……残念ながらないです。今の所、パワーに物を言わせてねじ伏せるしかないかと」
「でもそんなことしたら、相沢さんが負ける可能性があるんですよ? それに、亜紀さんだって泣いちゃうかもしれないですし……」
万事休すとはおそらくこのことだろう。万策尽きて、手の施しようがない。
「別に肉弾戦で戦うと決まったわけじゃないですよね? 包丁でもフライパンでもいいから、何か武器を持って戦うとかすれば……」
「それであの人の肉体を貫けるとは思えないんですけど」
「うーん……。困ったなぁ」
吉斗とレミが考えあぐねていると、ゴンが何かを思い出す。
「そうだ。そういえば、相沢さんの血液を解析してた時に、ちょっと変なものを見たッス」
「変なもの?」
レミが聞き返す。
「それはどんなもの何です?」
「自分の記憶違いじゃなければ、目視で血液を見たときにうごめいていたように見えたンす」
「それって、血が勝手に動いてるってことですか? 気持ち悪、SAN値減りそう……」
「そん時は地震かなって思ったンすけど、今考えてみればおかしいッスよね」
「確かに変な感じはする……」
吉斗とレミは考える。しかし、そんなに考えたところで、どうしようもなかった。
「とにかく今は、観察する事が一番ッス。そのためには、相沢さんの血が欲しいッス」
「そうね。それなら何か糸口が見えるかもしれない」
「……え、これ採血する流れですか?」
結局吉斗は血を抜かれることになった。幾度目かの採血であるが、短いスパンで採血していたため、腕の内側には青あざが出来ていた。
無事に血を採り終わると、ゴンは早速観察をするべく病院に戻った。
レミは家に残り、吉斗に聞き込みを行う。
「何か特別なことはしていませんか?」
「特段変なことはしてないですね」
「それじゃあ、いつもどんなものを食べてるんです?」
「それは……、狩った動物の肉、市役所からの配給、山で採った山菜、くらいですかね」
「この時期に山菜ですか? 一体どんな山菜なんですか?」
「ネギニラ草って勝手に呼んでる草ですね。狩場の近くに自生してるみたいです」
「それって今ここにあります?」
「キッチンにあったような……」
そういって吉斗は、キッチンへ探しに行く。
「あぁ、ありました。これですね」
そういって、ネギニラ草を出す。
それを不思議そうに見るレミ。
「これ、持ち帰って調べてもいいですか?」
「別に大丈夫ですよ。なくなったらまた採りに行きますし」
「ありがとうございます。それじゃあ私も病院に戻りますね」
そういってレミも病院へ戻る。
一人家に残された吉斗は、リビングのソファに座って、天井を見上げる。
「……一人って、こんなに寂しいもんなんだ……」
ここ半年ほどは、亜紀とずっと一緒だった。家を出る時も、基地を移動する時も、移住した時も、なんだかんだ言って一緒にいた。
それがこうも急にいなくなると、ずいぶんと悲しいものになる。
「……飯食うか」
適当に肉を焼いて、その日の晩御飯とするのだった。
それから数日。吉斗の家にレミとゴンが訪れる。
「相沢さんの血液の観察及び解析が終わったッス。これがその解析結果になるッス」
そういって紙を複数枚渡す。
「もしかしたら、トム・カーマンとの戦いは何とかなるかもしれないッスよ」
そういって、簡単に作戦を話す。
「もうすでに準備は始まってるッス。病院内の職員を味方につけることが出来たッスから、後は準備が整うのを待つだけッス」
「……分かりました。その作戦で行きましょう」
そういって吉斗は窓の外を見る。
「待ってろよ、亜紀……!」
吉斗の心は、決意で満たされた。
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