第30話 対話

 2月に入り、まだまだ降雪が続くこの頃。

 町中を二人の少年少女が歩いていた。彼らこそ、天球十二戦闘員の残りであるパイシーズとキャンサーである。

「……戦闘員で残ってるの、僕らだけになっちゃったね。どうしようか?」

「どうしようね。困ったね」

「八方ふさがりだよ」

 そういってパイシーズはスマホを見る。朝方に数件の着信履歴が残っていた。

「朝もそうだったけど、昨日の夜に幹部から電話があってね。早めに相沢吉斗を始末するように言われちゃったんだ」

「それは大変だね。どうやって始末するんだろうね」

「それなんだよねー……。どうやって始末する?」

「多分奇襲はダメだろうね。それで3人死んでるもん」

「奇襲がダメだと……、正々堂々戦う?」

「それしかないね」

「やっぱりそうなるかぁ……。まぁそうだよね。そのために僕らこうして歩いてるんだもんね」

 少し荒れたアスファルトの道路を進み、二人はある場所に着く。とある一軒家。その玄関の前に立つ。

「それじゃ、押すね」

「うん」

 玄関のチャイムを押し、しばらく待つ。

 すると、玄関から出てきたのは吉斗であった。

「えっと……、どちら様?」

「僕たち、天球十二戦闘員の残党です」

 その瞬間、ドアが勢いよく閉じられる。

「すいませーん! 話だけでも聞いてくださーい!」

 パイシーズをドアを叩いて懇願する。

「いや帰ってくださいよ! 天球十二戦闘員なんて知りません!」

「それじゃ困るんですよぉ!」

 約数分の押し問答が続いたところで、吉斗が諦める。

 ドアチェーンをつけて、半開きで対応する。

「……それで? あなたたちは?」

「改めて自己紹介させてもらいます。僕はパイシーズ。彼女がキャンサー。僕たちも天球十二戦闘員の一員です」

「それで、そんな戦闘員がなんでうちに来てるんです?」

「話すと長くなりそうなので、まずは家に上がらせてもらってもいいですか?」

「え、やだ……」

 吉斗は即座に返答する。

「それじゃあお互い困っちゃうんですよ。お願いですから上がらせてください」

「えぇ……? でもなぁ……」

「何もしませんから」

 吉斗が考えあぐねていると、向こうから誰かの足音が聞こえてくる。

 この足音は、レミだろう。レミが家の前にやってくる。

「相沢さん! 大丈夫ですか!?」

「大丈夫です。それよりもレミさん、この人ら追っ払ってください」

「え……、君たちが戦闘員? それにしては大人しいような……」

「そうなんですよ。相沢吉斗が僕たちのことを聞かないからです」

 そうパイシーズが訴える。

 レミは少し考えた後、吉斗に言う。

「相沢さん、入れてあげたら?」

「レミさん?」

 レミにまで言われてしまっては、仕方ないだろう。

「はぁ……。しょうがないにゃあ……」

 吉斗はチェーンを外し、ドアを開放する。

「どうぞ……」

 吉斗としては、かなり不服のようだ。

 場所はリビングに移る。

 机を中心にして、吉斗、亜紀、レミ、ゴン、パイシーズ、キャンサーが囲む。

「それで、話ってなんですか?」

 吉斗が口を開く。

「まぁ、簡単に言ってしまえば、和解しましょうって話です」

「戦わないのなら、それに越したことはないですね」

 レミが感想を言う。

「それでも、あなた方は利益のために『グリムリーパー』をばらまくんですよね?」

「それはどうなのかは分かりません。僕たちは守護会の幹部からの命令を守るだけですから」

「今回のような和解も命令されてきたんですか?」

「いえ、これは僕たちの意思です。戦うことも考えたんですけど、同じ人間同士なので話し合いで解決出来ればいいかなって思いまして」

「それが出来るんだったらいいじゃないですか!」

 亜紀が嬉しそうに言う。それもそうだ。スコーピオンとの戦い、カプリコーンとサジタリウスとの戦いをした後、憔悴しきった吉斗の姿を見ているからだ。もちろん、大食いすることで元に戻ったが。

 閑話休題。

 それを聞いた吉斗は、軽く頷く。

「確かにそれは最もです。でも話し合いで何とかなるレベルなんですか?」

「まずは色々試す必要があると思いまして」

「そうですか。では本質の部分を聞きましょう。あなた方が成し遂げようとしていることはなんですか? 一体何が目的で世界中に『グリムリーパー』をバラまいたんですか?」

 今まで全く分からなかったこと。どうして『グリムリーパー』が世界中に広まったのか。

「そうですね……。どうして広まったのか、理由は聞いたことがあります」

「理由……」

 パイシーズが答える。

「聞いた話ですが、アメリカに住むトム・カーマンという人が、己の正しさのために広めたと聞いたことがあります」

「己の正しさ?」

「えぇ。彼はアメリカでも有名なインフルエンサーであり、陰謀論者でもありました。彼は自分が提唱した『グレートリセット』と呼ばれる世界秩序の崩壊を引き起こすために、かつて南米で開発されていた人類史上最強の合成麻薬を量産させました。そして、彼の意思を引き継ぐために日本で結成されたのが、天使の守護会なのです」

 その話を聞いて、吉斗は聞き返す。

「トム・カーマンが、己の正しさのために、全ての生命体を犠牲にしたのか」

 吉斗は落ち着いて、言葉を出す。

「まぁ、その通りですね。ただ、今の彼がどうしているのかは不明ですが」

 そこまで言った所で、吉斗は立ち上がった。

「もういい。君たちの話は聞くに値しない。そんな犬も食わないような思想のために全生命体を犠牲にするのは、例え神が許しても俺が許さない」

 吉斗は、パイシーズに向けて指を指す。

「表に出ろ。その汚い幻想をぶち壊す」

 吉斗が天使の守護会に向けた宣戦布告である。

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