第29話 知る

 天球十二戦闘員の半分が生死不明の状態になったことは、吉斗たちの耳にも届くこととなった。

「いやぁ、おかげで市役所はてんてこ舞い、病院側も特別勤務形態に変更せざるを得ない状態になりまして……」

 レミがそんなことを言う。

 しかし吉斗はそんな場合ではなかった。

「そんな呑気な話してる場合ですか! 火山が噴火したんですよ! 今すぐにでも避難しないと!」

「まぁまぁ、待ってくださいよ相沢さん」

 そういってレミが諭す。

「そもそも避難って、どこに行くつもりなんですか? 病院が入手した情報によれば、中央自動車道、長野自動車道、上信越自動車道の全線で自動車などの走行禁止と完全封鎖。市役所からは、公的に民間人の移動禁止令が発令されているんです。市役所は避難させるつもりはないようですよ」

 そういって機密文書を持ち出す。文書の多くは黒塗りにされているものの、断片的な情報を集めただけでも民間人を掌握しようとする市役所の魂胆が見え見えである。

「それに、今は西からの風が吹いていて、火山灰などは東のほうに流れています。溶岩が流れ出している、なんてことがない限りは問題ないと思いますよ」

 そういってレミが玄関を上がる。

「今日も夕飯おごってください」

 結局、吉斗の避難はなくなり、レミとゴンの話を聞くことになった。

「それじゃあ、話を少し戻しまして……」

 亜紀の作った夕食を食べながら、レミは話を続ける。

「少々情報が交錯してまして、どれが正しいとかは言えないんですが、市役所と天使の守護会は6人の死亡を確実視する動きが出ています。現在残っている戦闘員は、パイシーズ、キャンサー、ヴィルゴの3人です。このうちヴィルゴとは音信不通になっていて、居場所が掴めていない状態です」

「それって……」

「私たちが相手するべき敵は、残りの二人であるパイシーズとキャンサーです。彼らを倒せば、市役所と病院の陰謀は止められるはずです」

 戦闘員の半分が居ないと判明した今、一挙攻勢に出るチャンスでもある。

「ですが、私たちは今まで通り向こうからやってくるのを待ちます」

「ここで待つんですか?」

「えぇ。あくまで我々は、市役所の陰謀なんて一切知らない一般人を装います。相沢さんが襲撃を受けたことも、急に喧嘩を売られたとしてシラを切ります」

「まぁ、確かにそのほうが都合はいいかもしれませんが……」

「私たちのやっていることは、あくまで極秘裏でなければなりません。我々だけの秘密同盟です」

 そういってレミは、シーッと指を口に持ってくる。

 そう、これはあくまでレミに誘われた秘密の同盟だ。市役所や病院の職員、天使の守護会にバレてはいけない。

「でも、何とかなりますかね……?」

「何とかするのがミッションと言えます。私たちは絶対に負けられない戦いをしてるのですから」

 少しの静かな時間。その時、ゴンが口を開く。

「レミさんの話終わったっすか?」

「あ、ゴン。いい感じに終わったんで、後はよろしくお願いします」

「うす」

 そういってゴンは、持っているバッグからクリアファイルを取り出す。

「えーと、病院の装置を勝手に拝借して相沢さんの血液を解析したっす。それがこの結果なんすが……」

 そういって吉斗に紙を渡す。

 吉斗はそれを受け取ると、その内容を見る。

「全ての検査項目の数値が基準値を上回ってるっす。まぁ、これは許容範囲っす。『グリムリーパー』を摂取している以上、異常な数値が出るのは仕方ないことっすからね」

 そういってゴンは、別の紙を渡してくる。

「問題はこっちっすね。血中内にある『グリムリーパー』の濃度なんすが……」

「まさか、過剰摂取オーバードーズとか……?」

「いや、逆っす。『グリムリーパー』の血中濃度が異様に低いんす」

「……へ?」

 吉斗は思わず肩透かしを食らったような気分だ。

「検査薬でギリギリ検出出来たくらいの濃度だったんす。つまり、濃度としてはかなり低い。それは少しおかしいんす」

「おかしい、とは?」

「相沢さんは日常的に『グリムリーパー』を摂取した動物の肉を食べていると聞いているっす。本当なら生物濃縮した『グリムリーパー』が体を侵食しているはずなんすが……」

 そういって、ゴンは吉斗の手を見る。

「その調子なら、禁断症状とか出てないっすね。おっかしいなぁ……」

 そういってゴンは、バッグの中を漁る。

「ここまで来ると原因不明っす。お手上げっす」

「んな……」

「こんなこと言いたくないっすが、相沢さんの体おかしいっすよ。何か嘘ついてるとしか思えないっす」

「自分のことは正直に話してるつもりなんだけどなぁ……」

 ゴンは吉斗から紙を回収すると、それをバッグにしまう。

「とにかく今は相沢さんの血を回収して解析にかけるしかないっすね。今日も採血っす」

「はぁ……。いくら採血量が少ないからって、週2ペースはキツいですって……」

 そんなことを言いながらも、吉斗は腕を出す。

 採血が終われば、レミとゴンは吉斗の家を出る。

 遠くの空には、噴煙と思われる煙が上っていた。

「なんかよくないことが起こりそうだな……」

 吉斗はそんなことを呟いた。

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