第28話 転機

 長野県と群馬県の境にある四阿あずまや山。その山中に、ある施設が存在していた。

 表向きは温泉施設を併設した旅館であるが、数十年前に無人となった場所。という設定である。

 その本当の目的は、天球十二戦闘員が待機する施設なのである。

 古くなった外見からは心霊スポットのようにも見えるだろうが、その内部はちゃんとした建物だ。

 そんな建物の半地下に、6人の男女がいた。

 彼らが、天球十二戦闘員に所属する6名である。

「さっき幹部から連絡が入った。久々の命令だよ」

「お、気になるじゃん。どんなの?」

「松代町にいる相沢吉斗っていう男を殺せ、だってさ」

 そういって一人が、スマホの画面を見せる。そこには吉斗の顔写真が写っていた。

「今回の目標はその男の子?」

「どうやらそのようだね」

「わざわざ一人殺すために、6人も出る必要あるの? 多すぎじゃない?」

 ソファに座る女性がそんなことを言う。

「すでに入っている情報によれば、スコーピオン、カプリコーン、サジタリウスがヤツの手によって始末されている。万全を期すなら当然の結果だろう」

「確かに。妥当な判断だな」

「そうなれば話は早い。幸いにも、前衛が3人、後衛が3人とバランスの良い人選だ。この相沢吉斗というヤツの体すら消し飛ぶんじゃないか?」

「そうね。その方が手っ取り早いかも」

「作戦の開始は自由。早ければ早いほど良いらしいよ」

「なら早く殺しに行くべきだ。幹部たちに負担をかけてはいけない」

「それじゃあ出発だ」

 そういって6人が出口に向かおうとした時である。

 グラッと床が揺れ動く。

「おや、地震か?」

 地震にしてはやや小さめではあるだろう。震度2くらいか。

 しかし、揺れはだんだんと大きくなってくる。すでに立っているのもままならないくらいだ。

「おおお? 一体何が起きているんだ?」

「これ本当に地震?」

 そんな時、6人の持っているスマホから警報音が鳴り響く。内容を見れば、気象庁からのメッセージだ。こんな状況でも何とか動いている気象庁は、褒められるべきだろう。

 気象庁からのメッセージは、「草津白根山が噴火。付近の住人は頑丈な建物に避難してください」というものだった。

「草津白根山ってどこ?」

「ここから20km圏内にある山だ。おそらくそんなに影響は出ないだろう」

 そんな話をしているが、揺れは収まることはなく、さらに地鳴り音も聞こえてくる。

「なに!? 一体何が起きてるの!?」

「今はいったん落ち着いて」

 6人が様子を伺っている時、パソコンを見ていた男性が気が付く。

「ま、まさか……! これは……!?」

 次の瞬間、部屋の床が突如として割れる。間髪入れずに、そこから超高温と化したガスと水蒸気が噴出してきた。

 部屋にいた6人は当然の如く、超高温のガスによって瞬く間に窒息。超高温の水蒸気によって、皮膚がただれるどころか、ベロンベロンになる。

 彼らに一体何が起きたのか。

 東京に残っていた気象庁の観測によると、この日群馬県の草津白根山と四阿山が同時に噴火――というよりかは、地下の広い場所にマグマ溜りが形成され、それが広い範囲で噴出した。このうちの一つの噴出孔となったのが、彼らのいた廃れた旅館の真下だったのである。

 これにより、天球十二戦闘員の半分が生死不明の状態になった。

 また、四阿山にほど近い松代町の臨時政府は、長野県と群馬県、及び北日本全域に非常事態宣言を発令。以後噴火による被害拡大を防止する措置が講じられた。

 それから約5時間後の長野市役所地下。天使の守護会の臨時幹部会合が開かれた。

「非常に不味い事態となった。現時点で天球十二戦闘員のうち、連絡が取れるのはパイシーズとキャンサーのみとなった。四阿山山中に駐在していた6名の戦闘員とは連絡が取れていない状況にある」

「最大戦力であるレオが巻き込まれたのは、最悪の事態と言っても過言ではない」

「ヴィルゴとの連絡はついたのか?」

「いや、全くだ。こっちも行方知らず、生死不明状態だ」

「うぅむ。こうなってしまったからには仕方がない」

 幹部の一人が立ち上がる。

「幸い、長野市内における噴火の影響は少ない。火山灰も東のほうに流れている。今こそ例の計画……GB計画を全力で推進するほかあるまい」

「しかし、開発現場からは芳しくない報告がいくつか上がってきている。それで本当に問題ないか?」

「他に何ができる? 今は残された戦力を最大限に生かすことだけを考えろ。GB計画さえなんとかなってしまえば、勝機は我々にある」

 周りの幹部たちも、そうだそうだと声を上げる。

 これによって天使の守護会の当面の方針は、GB計画を遂行することに全力を注ぐことになった。

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