第25話 監視

 日々は流れ、年が明ける。しかし、生活している社会共同体では全く新年を祝っている状態ではない。

 そんな中、吉斗はいつものように狩りの準備をしていた。

「そろそろスリングショットも新しいものが欲しいなぁ……」

 ゴムの部分が劣化しているのを見て、そんなことを呟く。

 必要な物をバッグに詰めて、吉斗は靴を履いた。

 そこに亜紀がやってくる。

「ねぇ、吉斗。まだ狩りを続けるの? レミさんも言ってたけど、吉斗は狙われてる身なんだよ? 本当に大丈夫?」

「んー……。まぁ、多分大丈夫だよ。もし危険な身になったとしてもなるようになるさ」

「私、心配だよ……」

「心配かけてごめん。でも、まだ死ぬ気はないから」

 そういって吉斗は玄関を開ける。

 いつものように、いつもの山へと出かける。人の手が入らなくなった神社の鳥居の前で手を合わせ、山へと入る。

 数日前に降った雪が多少残っており、場所によってはぬかるみになっている。

「これじゃあ縄での狩りは難しいな……。今日は待ち伏せするしかないか……」

 そんなことを言っている吉斗の遥か後方。距離にして約1kmの所から吉斗のことを監視している人影が二つあった。

 その人物は双眼鏡を覗き、吉斗の行動を見つめている。

 「天使の守護会」の戦闘員、サジタリウスとカプリコーンだ。

「あれが目標か。普通の青年に見えるが」

 サジタリウスが双眼鏡をどかし、そんなことを言う。その背中には、上半身を超えるほどの長い狙撃銃を背負っていた。

「それでもスコーピオンを倒しています。侮ってはいけません」

 カプリコーンが言う。高身長の細身で、少し小さいサングラスをかけている。

「いや、俺の射撃なら殺せる。一回やらせろ」

「それは命令違反です。僕たちに課された命令は、相沢吉斗の偵察任務。今は偵察に集中してください。スコーピオンのようになりたくなければ、ですが」

「ちっ」

 サジタリウスは背中に手を伸ばしたものの、その手をひっこめる。大人しく双眼鏡で吉斗のことを監視するのだった。

 その監視されている吉斗は、一瞬寒気のような物を感じる。それと同時に冷や汗もかく。なんだか嫌な感じであるが、その詳細は不明だ。

 そしてその寒気を感じて、自分自身に起きたある変化を感じ取る。

「……なんか、最近勘が鋭くなったような感覚があるな……」

 そういって一息つく。

 次の瞬間、スリングショットに石をセットし、そのまま身を翻して後方に向かって石を放つ。

 石はまっすぐ飛び、木々の隙間をすり抜けていく。そして移動していたイノシシの脳天に命中する。

 距離にして100mくらいであろうか。このくらいの範囲であれば、吉斗はそこに何がいるのか分かるようになった。

 イノシシの元に駆け寄ると、脳震盪を起こしたイノシシが横たわっていた。ついでに眼球も潰したらしい。

 吉斗は包丁を首元に刺し、確実に殺す。

「うん、このくらいの大きさなら問題ないな。良い感じの肉が取れそう」

 そういって吉斗はイノシシを自己流で解体していくのであった。

 その様子を見ていたサジタリウスとカプリコーンは、黙って双眼鏡を降ろす。

「……評価を変える必要がありそうだな」

「えぇ。それと、このことは幹部へ報告する必要もありそうです」

「今日の所は撤収してやるが、次会ったときは容赦しねぇぞ」

「誰に向かって言ってるんです?」

 サジタリウスとカプリコーンはそのまま森の奥へと消えていった。

 監視されていたことなんてつゆ知らずの吉斗は、イノシシの肉を確保し、別のバッグに詰める。

 そしていつもの場所にやってくる。ネギの香りがするニラのような葉を持つ草が生えている場所だ。吉斗はこの草を、勝手にネギニラ草と呼んでいる。

 初めてネギニラ草を口にしてから、定期的に口にしたくなるようになっていた。なにか中毒性のようなものでもあるのかもしれない。

「でも止められないんだよねぇ」

 言っていることは中毒者のそれであるが、野草を食べているのであれば、何ら問題はないだろう。

 草を10本ほど収穫して、それを食みながら帰り道を帰っていくのであった。

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