第24話 採取

 その日の夜。レミが慌てて吉斗たちの家にやってくる。

「スコーピオンと交戦したんですか!?」

 レミは鼻息を荒くして、今日あった出来事を聞いてくる。

「え、えぇ、そうです……」

「あぁ……、まさか先に向こうから接触してくるなんてぇ……」

 レミは、予定を狂わせられた研究者のように頭をかきむしる。

「あの、レミさん……? 何か問題でもありました?」

「問題だらけです!」

「レミさん、とりあえず落ち着いてください。今日作ったシチュ―でも食べます?」

「あ、食べる」

 亜紀の言葉にはしっかりとついてくるレミ。

 シチューを食べながら状況を説明してくれた。

「さっきは取り乱してごめんなさい。おそらく相沢さんは、市役所と病院に目をつけられた状態です」

「えぇ……? なんでそんなことになったんですか?」

「おそらくは、相沢さんの血液に含まれている『グリムリーパー』の量が多かったのが原因と考えられます。その報告が市役所に届いて、今は相沢さんを排除する方向に向かっているのでしょう」

「排除!?」

 驚きで吉斗は思わず立ち上がってしまう。

「スコーピオンは、病院所属の市役所私兵『天使の守護会』という武力集団の中流戦闘員です。守護会は『グリムリーパー』を使って組織を拡大させることを目的としています。おそらく、組織拡大に相沢さんが邪魔であると判断したのだと思います」

「そんな理由で……?」

「守護会にはまだ分からないことも多くあります。今の所の方針はこれなのでしょう」

 そういってレミはシチュ―を口にする。

「とにかく、今は守護会の出方を伺ったほうが良いでしょう。しばらくは外出も控えてください。警戒するには越したことはないですからね」

 その時、玄関からノック音が聞こえる。

「こんな時間に人? まさか、さっきの守護会ってヤツですか……!?」

「いえ。この時間なら、あの人が訪問する時間です」

 そういってレミが玄関の扉を開ける。

 そこには、一人の男性が立っていた。

「おう、レミ。遅かったか?」

「時間通りです。とにかく上がってください」

 男性は家に上がると、レミに紹介される。

「この人は臨床検査技師のゴンです」

「うす。よろしく」

 吉斗は、軽い人だなぁという印象を受ける。

「相沢さんには、これから定期的に彼に血液を抜いてもらいます」

「いきなりなんですか」

「実は自分、病院内に設置された『グリムリーパー』の抑制薬開発室のメンバーでもあるんすよ。吉斗さんの血はかなり興味深いっすからね」

「ゴンにはこれから、開発室とは別の方向から『グリムリーパー』の影響を確認してもらいつつ、抑制か無力化できるような物を開発してもらいます」

「ホント、大変な仕事引き受けちゃった」

 ゴンのノリが軽い。

「そんな訳だから、今から5mlくらい血ちょうだい」

「急な話ですねぇ……」

「ま、それだけ事は急を要するって話だからね」

「……はぁ、分かりました」

 吉斗はしぶしぶ承諾し、採血する。ほんの少しだけということなので、予防接種で見るような細い注射器で血を取り、それを採血管に入れる。

「後は自分がこれを解析して、今後の動きを考えるんす。レミさんが」

「そうなんですよねぇ……。今後の事考えるの私の仕事なんですよぉ」

 そんなことをしゃべっているうちに、日は暮れていく。

 場所は変わり、松代町が存在する長野市の市役所。その地下には限られた職員数名しか知らない、秘密の空間が広がっている。

 その空間に存在する会議室。そこにある面子が揃っていた。「天使の守護会」の幹部たちである。

 今まさに、守護会の幹部会合が開かれているのだ。

「どうやらスコーピオンが殺されたようだな」

 わずかな光しかない会議室で、一人の幹部が話す。

「彼の行動目標と戦闘時のデータから察するに、例の少年――相沢吉斗にやられたことになる」

「スコーピオンの行動目標は、相沢吉斗の監視ではなかったのか?」

「それはスコーピオンにしか分からない。しかし、現に接触していることは確かだ。おそらく、スコーピオンの独断で実力排除を狙ったのかもしれん」

「それは命令無視じゃないか。組織の風上に置けないヤツだ」

 別の幹部が悪態をつく。

「実際に起きてしまったことは取り返しがつかない。相沢吉斗には、我々守護会の存在が知られたと見て間違いないだろう」

「それでどうするんだ? このまま野放しにしておく訳にも行かないだろう?」

「おそらく面倒なことになる。これ以上面倒なことにならないよう、すぐに対策を講じるべきだ」

「我々の戦力も無限には存在しない。最悪の場合、初手で最高戦力を出すことにもなりかねないが……」

「今は中流戦闘員を数人派遣して、様子を伺うことにしよう。それに、今は優先すべきことがある」

「そうだ。今は例の計画が進んでいることを祈るばかりだ」

 彼らの発言は闇の中へ吸い込まれていくのだった。

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