第21話 測定

 吉斗は非常に困惑していた。

「陰謀を止めるって……。それこそ陰謀論とかいうヤツじゃないんですか?」

「確かにそう思われるかもしれません。でもこれは本当なんです」

 吉斗は少し考える。仮に市役所と病院の陰謀だとして、一体誰が得するのか。得した先に何が待っているのか。

 さすがに情報が少なすぎるだろう。ここで拒否してもしなくても、吉斗の今後には影響しない。

 しかし、もしこの陰謀というものが本当だとしたら。市役所と病院が、人類に対して何かしているとすれば。

 それが本当なら、止めるべきなのだろう。だが、今の吉斗に出来ることなのだろうか。

 吉斗は少し考え、答えを出す。

「……分かりました。今は協力関係を結びましょう。もしその陰謀というのが本当なら、自分は全力で潰します。ですが、その陰謀がなかったら、自分はすぐにでも協力関係を解消します」

「はい、それで問題ありません」

 そういってレミは、渡した資料などを回収する。

「このような資料が存在していることは、当然ながら秘密です。お二人には、秘密を守ってもらう必要が出てきます。もし、この資料などを口外してしまったら、存在を抹消される可能性がありますので、よろしくお願いします」

「分かりました」

「それと、相沢さんはいつでも戦うことが出来るように準備をしておいてください。今の相沢さんなら、身体能力がかなり向上されているはずです。後々戦闘が発生する恐れもありますので、今の体に慣れておいてください」

「はい」

「私は病院内でスパイとして活動します。時折報告に来ますので、よろしくお願いします」

 玄関まで移動した時に、レミはあることを思い出す。

「そうでした。今、病院内では『グリムリーパー』を抑制する薬の開発が進んでいるんです。もしそれが完成してしまったら、人類は『グリムリーパー』に支配されることになります。そうなる前に、私たちで手を打たなければなりません」

「手を打つって……、具体的には何をするんです?」

「それは……、これから考えます」

 そういってレミは、家を出るのであった。

「……なんか、話が壮大になってきたね」

 亜紀が吉斗に言う。

「それもそうだな。なんか現実味がないなぁ……」

 まさか、陰謀論の世界に足を踏み入れるとは思ってもいなかった。

 しかし今の所、これが一番辻褄が合う。吉斗としては、受け入れざるを得なかった。

 翌日、吉斗は亜紀を連れて、少し遠くの町までやってきた。遠くとは言っても、徒歩30分くらいの所である。

「さて、久々の身体測定でもしますか」

 そういって、吉斗は動きやすい恰好になる。

 まずは投擲からだ。近くに分かりやすい木があったので、そこに向かって石を投げる。

 肩を回して、痛みなど問題がないことを確かめてから、ピッチャーのように位置につく。

 そして足を踏み込んで、全力で投げた。

 空気を切るような音がした後に、何かが弾ける音がする。その音が鳴ったのは、標的にしていた木であった。投げた石は、木にめり込んでいたのだ。

「えぇ……?」

 吉斗と亜紀は困惑した。まさか、人間の出せる出力で、ここまで高威力であるとは思わなかったからだ。

 投擲で威力が出ることは分かった。次は足の力を試す。

 まっすぐな道路を選んで、100m走をするのだ。測定は亜紀が行う。

 吉斗は体を前方に傾けて、走る体勢を整える。

「よーい、ドン!」

 亜紀が手を振り下げると同時に、吉斗は全力で駆けだす。

 その速度は、オリンピック公式記録を軽く上回る速さだった。そしてそのまま100mを走りきる。

 亜紀がスマホのストップウォッチを見ると、5秒を切っていた。時速換算で60kmオーバーである。

「何これ……」

 亜紀は思わずドン引きする。

 そして次は垂直跳びをする。とりあえず家の壁を使う事にした。

 吉斗が体を屈めて力を溜め、それを放出する。

 すると、吉斗の体はまるで空気のように跳び、軒下の部分に頭をぶつけそうになるほど跳び上がったのだ。

 目測でも足と地面の間は、おおよそ2mも空いていた。

「吉斗……、本当に体大丈夫?」

 亜紀が心配になる程の身体能力。吉斗の体にも何かしらの影響が出てもおかしくはないだろう。

 しかし、亜紀の心配をよそに、吉斗の体は平気であった。

「すげぇな……。俺の体、こんなになってるのか……」

 投げた石が木にめり込むほどの腕力。時速60kmを超え、2m以上跳躍できる脚力。

 もはや人間を辞めていると言っても過言ではない。

「それで、本当にあの人の言う通りにするつもり?」

 家への帰り道、亜紀が吉斗に聞く。

「んー、そうだね。一応そのつもりかな」

「絶対危ないよ! それじゃなくても、もう知ってる人は吉斗しかいないのに……!」

 亜紀の声は震えていた。おそらく泣いているのだろう。

 それもそうだ。次々に家族をなくしている。これ以上知っている人がいなくなるのは耐えがたいことだ。

 だがそれは、吉斗も同じである。両親、兄と離れ離れになってしまっている今、もはや死んでいると同義だ。

「だからこそ、俺は絶対に死なない。亜紀を守るって約束したからな」

 そういって亜紀の頭を撫でる。

 死んでいられない。その言葉が、吉斗に重くのしかかるのである。

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