第20話 暴露
「ねぇ、吉斗。なんか体大きくなってない?」
亜紀がそんなことを言い出したのは、師走の入りの日であった。
「……重ね着してるからじゃない?」
実際外は冬の様相を呈している。まともな暖房器具が電気ストーブしかなく、服と毛布で体を暖めているのが現状だ。
「いや、絶対大きくなったよ。だって私と身長そんなに変わらなかったのに、ちょっと大きくなってるもん」
「えっ? マジ?」
そういって吉斗は立ち上がる。亜紀の目の前に立って身長を比べると、本当に拳一個分くらい身長が大きくなっていた。
「……成長期かな?」
「今更? それに、最近腕とか太くなったようだし……」
そういって、亜紀は吉斗の腕を触る。
「ちょっと力こぶ作ってみてよ」
「ほい」
「……やっぱり太くなってるって。筋トレでもしてるの?」
「えぇ……? 筋トレとか一切してないんだけど……」
吉斗はそんなことを言っているが、確かに心当たりはある。
持っている服が少しパツパツになった感じがするのだ。袖を通す腕がキツくなり、新しい服を用意する程である。さらに言えば、足も太くなってきた感覚を覚える。
全体的に体が肥大してきているのだ。
「おかっしいなぁ……。健康的なメニューにしてるんだけどなぁ……」
そんなことをブツブツ言いながら、亜紀はキッチンへと消えていく。
吉斗には一つ心当たりがあった。
「肉、食ってるからかなぁ……」
亜紀と吉斗との差と言えば、動物の肉を日常的に食しているかどうかだ。後は男女の差か。
そのほかは運動の有無だが、さすがに運動で付く筋肉の量ではないだろう。
「結局原因はなんだろう……」
そんなことを思いながら、日々は過ぎる。
寒さが一段と厳しくなってきた年の瀬のある夜。吉斗と亜紀は、いつものように寝る前のお茶を飲んでいた。
その時、玄関のドアを叩く音が聞こえる。
「お客さん?」
「こんな時間にか?」
吉斗はアウターを羽織って玄関に向かう。念のため、武器としてフライパンを持っていく。
ドアチェーンをかけて、玄関の鍵を開ける。
ゆっくりとドアを開けると、そこには一人の女性がいた。
「あ、どうもぉ……。相沢吉斗、さんですか?」
「……そうですが?」
「あっ、うち、松代総合病院に勤務してる看護師2年目のレミって言いますぅ。相沢さんに話がありましてぇ……」
「自分にですか?」
「はい。なので、中に上げてもらえるとありがたいのですがぁ……」
確かに外は寒かろう。吉斗は少し警戒しながらも、レミを家に上げる。
「それでレミさん? 話があるってなんですか?」
吉斗がレミに質問する。
レミは亜紀が出したお茶を飲み、口を開く。
「実は、相沢さんの体に起きている異変をお伝えに来たんです」
「異変……ですか?」
「でも、この間の健診では問題ないって書いてなかった?」
亜紀が口を挟む。
「はい。公的には相沢さんの健康状態は問題なしとされています」
「公的には? 裏か何かがあるんですか?」
「そうなんですよぉ。実は、その結果がここにありまして……」
そういってレミは、持っていたバッグから角型2号封筒を取り出す。その中からA4の紙を取り出すと、その内容を吉斗に伝える。
「相沢さん、あなたの体には異変が起きているはずです。例えば最近、体の筋力が増えたりしませんでしたか?」
「そういえば……、最近筋肉がついてきたような……」
「そうです! 身長も伸びたんですよ! 絶対気のせいじゃない!」
その言葉で確信を持ったのか、レミは口を開く。
「それは、半年ほど前から世界中の動物たちを薬物中毒に陥れた、人類史上最強の合成麻薬『グリムリーパー』のせいです」
「『グリムリーパー』……?」
「『グリムリーパー』とは英語で死神を意味する言葉で、この薬物を摂取した生命体はまさに死神のような力を持つとも噂されているんです」
「そ、そんなヤバい麻薬が、俺の体の中に……?」
「えぇ、入ってます。いや、相沢さんだけではありません。亜紀さんにも、私にも……。おそらくほとんどの人類の体内に『グリムリーパー』は存在します」
「嘘っ……!」
亜紀は思わず自分の口を覆う。
それもそうだろう。自分たちは知らず知らずのうちに薬物汚染されていたのだ。ショックを受けないほうがおかしい。
「となると、もしかして動物の肉を日常的に食べているのはヤバいってことですか?」
「え? 毎日のように動物の肉を食べてるんですか?」
「ヤバいですか?」
「ヤバいです」
「マジかぁ……」
吉斗はかなり後悔した。肉を食べるのは好きだが、これからは節制しなければならないからだ。
「悪い報告はまだあります。高濃度の『グリムリーパー』が体内に存在すると、肉体が暴走して肥大化します」
「肥大化」
「最悪自分の筋肉に絞め殺されます」
「絞め殺される」
「即死です」
「即死」
思わずオウム返しをする吉斗。
「相沢さんの本当の健診結果がここにありますが、血中濃度が非常に高いことが分かりました。このままでは1年以内に死にます」
「ちょ、ちょっと待ってください。まずそもそもなんでそんなことを自分に話すんですか?」
吉斗は大元の疑問をぶつける。
「単純な話です。市役所と病院の陰謀を止めてほしいからです」
吉斗は、話が壮大になってきたと感じる。思わず冷や汗が出てきた。
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