第12話 基地ぐらし

 百里基地の案内を受ける吉斗たち一行。しかし、本当に食料や水の備蓄がないようだ。最低限の水は近くの川に汲みに行っており、ついでに釣りをして食料の魚を確保しているらしい。

 自衛隊員だからだろうか、ほとんどサバイバルのような生活を送っている。当然民間人である吉斗たちには厳しいだろう。

「という感じで、我々としましても現状はかなり厳しい状況であると言えます。申し訳ありませんが、皆さんの世話を見ることは不可能に近いかと……」

「いえ、寝る場所と毛布をいただければ、私たちはそれで大丈夫です」

「それならそうしますが、本当に大丈夫ですか?」

「まぁ、これでも今まで生き延びてきましたから」

「そうですか……。でしたら宿舎のほうに空きの部屋があったと思います。そちらを相沢三尉に案内させましょう」

 そういって奏斗が案内するように命令が下った。

 奏斗が宿舎を案内している時に、少し話をする。

「父さんたち、よくここまで来たね。車動いたの?」

「最初は動いていたんだが、白アリに爆破されてな。ここ一週間ほど歩いてきたんだ」

「えっ? それだったら実家にいたほうが安全だったでしょ」

「だが、ここは自衛隊の基地だ。家にいるよりかは安全だと思ってな」

 そんな話をしながら、空き部屋に案内された。

「8人部屋が空いていてよかったよ。ここなら全員で寝れるね」

「そうだな」

「それじゃ、僕は任務に戻るよ」

 そういって奏斗は、廊下の向こうへと消える。

「さて、荷物を整理して休むとしましょう」

 和樹は適当なベッドのそばに立つ。

「それでは、自分たちはこちらを使いましょう」

 こうして一行は、本当の意味で休息を得る。基地暮らしの始まりだ。

 ちなみに現在の自衛隊は、現在進行形で有事対応を取っているため、常時警戒態勢でいる。その影響か、滑走路の周りのフェンスを巡回している。特にゲート付近は厳重に警戒していた。

 そんな中で、吉斗たちは生活を開始した。自衛官の邪魔をしないように、使える通路や道は制限され、ゲートと宿舎の行き来のみである。

 それでも外に出て、食料となる木の実や水を確保できるだけでも幸いだろう。

 そんな生活が1週間ほど続いた、ある日のことだ。

 管制塔から監視していた自衛官が、ある物体を発見する。

「何だあれは……?」

 南方から接近してくるそれは、大型の航空機のようにも見える。しかも4機だ。

 自衛官は緊急サイレンのスイッチを押す。基地中にサイレンが響き渡るだろう。

「な、なんだ!?」

 夕食を食べようとしていた吉斗たちに、緊張が走る。

 自衛官は小銃を持って滑走路の脇に集合、航空機に向かって構えた。

 4機の航空機は、滑走路に入ってくると速度を落とす。そしてプロペラを上に向ける。

 その特徴的な機影、赤の円形の国籍マーク。それは、陸上自衛隊に配備されているオスプレイであった。

「銃を下げろ! 陸だ!」

 自衛官は銃口を下げる。

 オスプレイはそのまま滑走路に降り立つ。後部のハッチが開くと、そこから誰かが走ってくる。

「基地司令官はいるか!?」

「そちらは?」

「中山一等陸佐だ! 伝令に来た! 総理がこの危機的状況において、国民を一人でも保護するべく、比較的動物の少ない都市部に移動させるように命令なされた! 保護された国民はいるか!?」

「これは失礼! 国民の方なら、現在基地に住んでいる方がおります!」

「よろしい! 今すぐお連れしろ!」

 この命令が伝達され、奏斗が吉斗たちのもとに走る。

「父さん! 陸自のオスプレイが救助に来た! すぐに来て!」

「何だと? ちょっと待ってくれ!」

 和樹は荷物を持とうとする。吉斗はいつの間にか荷物を持っていた。

「そんな暇はないよ! 急いで!」

 奏斗に急かされ、吉斗たちは滑走路に向かって走る。

 その間に、奏斗が伝令の内容を伝える。

「現在海上自衛隊の護衛艦が東京湾の入口で待機しているらしい。今から護衛艦に向かって、そこから横須賀や東京都心に入るらしい。立川駐屯地の飛行場を使わないのは分からないけど、とにかくここより安全な場所に移動できる」

「奏斗は?」

「今は一緒に移動出来ない。とにかく民間人の保護が最優先だから」

「そうか……」

 そういって格納庫から滑走路に出る。

 その時だった。止まっていたはずのサイレンが再び鳴り響く。

「な、なんだ!?」

 吉斗が辺りを見渡してみると、北のほうから何か黒い塊が地面を這っているのを見た。

「あ、あれは……!」

 スピーカーから声が響く。

『基地北部より野生動物侵入! 警備要員はすぐに防衛せよ!』

 そういって多数の自衛官が侵入箇所に走っていく。

 それと同時にゲートのほうから、何か悲鳴のようなものが聞こえる。ゲート近くの滑走路に動物たちが現れたのだ。

「不味い! 早く乗って!」

 一行は急かされて、オスプレイに向かって走る。

 しかし、和樹だけが格納庫から出なかった。

「父さん! 何してるんだ!?」

 和樹の横には、民間人が使っていたであろう電動工具や草刈り機が放置されていた。

「すまん、父さんはここで戦う」

「な、何を言っているんだよ父さん……」

「父さんはお前たちを守るために頑張ってきたつもりだ。それはこれからも変わらない」

 そういって和樹は置いてあったチェーンソーを持って、スターターロープを引っ張る。チェーンソーのエンジンが始動するだろう。

「父さんはここで戦う。お前たちを守るために」

 和樹の目には、不屈の魂があった。自分たちの子供を守るため、命を燃やそうとしている。

 それにつられるように、亜紀の父親が和樹のそばに戻り、芝刈り機を持つ。

 それを見たさくらと亜紀の母親も戻り、それぞれ草焼バーナー、バールのようなものを持った。

「お父さん……、お母さん……」

「母さんも……」

「奏斗、吉斗、亜紀ちゃん。あなたたちは生きて」

「お父さんはな、人間の死ぬ順番は年寄りからだと思っているんだ」

「お母さん、亜紀のためなら何だって戦える」

 4人は自衛官の後ろを追うように、歩いていく。

「父さん……! 母さん……!」

 吉斗は二人の背中を追おうとしたが、それを奏斗が止める。

「駄目だ吉斗! お前だけでも連れていく!」

「止めてくれ兄貴!」

「亜紀ちゃんも行くよ」

「……はい」

 吉斗は奏斗に引きずられるように、オスプレイへと乗り込んだ。

 その時になれば、親たちは動物たちと戦っていた。

「父さん! 母さん!」

 無常にもオスプレイのハッチは閉まる。オスプレイは滑走路を走行してゆっくりと離陸した。

 こうして、吉斗、奏斗、亜紀を乗せたオスプレイは、百里基地を離れるのだった。

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