煙に巻かれて-6/裏

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「……“当たり”みたいだな、こっちは」


 茶髪の青年───影狼が携帯を見て呟く。

 足元には死屍累々。二人、気弱そうな男と体格の大きい男は生きている。


「、え……ぁぐ……」

「ぅ゛……あ゛……」


 死体は白く溶け、二人の男は呻き声をあげている。

 狼は血塗れた右手を横へ振り、赤い飛沫を壁に散らした。


「……チンピラ共の“回し飲み”か。状況的に考えて。

 運が良かったな。殺してたぞ、飲まれた後なら」


 いまだに呻き声をあげることしかできない二人に対し、狼は息一つ上げていない。

 余裕も情報もある彼が二人を殺さないのはひとえに彼らがだからだ。


「ぁ……んで……」

「どっちでも良いんだけどな、俺は。ただ“殺人は非日常だから”と、ウチの領主サマがね。これが理由だよ、お仲間を殺したのも」


 狼にとって、不殺に拘りはない。

 しかし、領主佐季は非日常を生むモノを嫌う。それ故に非日常の象徴である“殺人”は犯さず、逆に非日常である“彩化物”を殺す。

 ただ、それだけのこと。狼にとって不殺とは、たったそれだけのことなのだ。


「運が悪かっただけだ、つまるところな。

 そういう世界だ、は」


 きっと、彼らは怒るだろう。狼へ復讐を考えるかもしれない。

 だがそれらを踏まえた上で、“気にする程ではない”と、狼は本題へ注意を向けた。


「もし正しいなら、犯人は……うん、そのはずだ。

 ただ厄介だな、そうなると。嫌な予感がする」


 狼は携帯を閉じつつ爪を噛む。

 彼の勘はよく当たる。というより、これまで当たらなかったことがない。


 それ故に、その予感は無視できない。




「……急ぐか」


 夕焼けを背に、狼は走り出す。

 胸に渦巻く不安を抱いて。己が主のため、影差す道を駆けた。



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