氷霧の蒼白-◾︎


「この街は暖かい。やはり、人の発展というのは素晴らしいな」


 灰色の濃霧の中、あおい領主は独りそう呟く。




 目の前には燃え盛る車。何があったのか、真っ二つに割れている。

 運転手はすでに息絶えていた。全身の血を全て吸われ、今はただ燃えるだけだ。


 しかし、その炎も程なくして消えた。

 彼はそれを残念そうに、もう用はないとその場から離れる。


「だが残念だ。この熱も、我が領民たみを生かすにはあまりにも温い。

 この寒さと飢えだけは、昔から変わらぬままか」


 彼は空を見上げ、手を伸ばす。

 生憎、この霧では星は見えない。だが、それにももう慣れた。


 彼はそのまま目を瞑る。現在の空など彼にとってはどうでもいい。


 かつて見た、あの美しい星を思い出す。


 大切な領民たみと共に見上げた、夏の夜空。

 あの星をもう一度見ることは叶わないだろう。

 だが、それでも構わない。大事なのは生き続けることだ。




「……ん?」


 懐かしい記憶に浸っていた彼を、現代的なエンジン音が引き戻させる。


 残火のようにあかく、燃え揺れる目で音の正体を探る。


「あぁ、もう一度来たのか……」


 領主は、静かに殺意を燃やした。

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