片道切符-2
午前の授業を終え、昼休みになった。
今日は珍しく朝から出席していたカゲだが、先生たちもその様子にはかなり驚いたようで、いかなる時も無表情で有名な数学の宗一郎先生は「影狼……来ていたのか……」と珍しく目を見開いていた。
決して授業を真面目に受けたわけではないが、それでも授業を受けてくれているだけ先生方からすればとんでもない快挙だったのだろう。
途中からは「暇だから」という理由で先生方や委員会の仕事を手伝ったりもしていたらしく、中には感動からか涙を流している先生もいた。
一度学校に来ただけでここまで驚かれるのもアイツぐらいのものだろう。
カゲと一言交わし、共に屋上へ向かう。
扉は鍵が閉まってるが、カゲが先生から
こうすれば俺たち以外に入って来る者のいない、二人だけの空間が完成だ。
実はこの鍵、去年からずっと借りているのだが一度も話題に上がったことはない。
鍵の管理をしているらしい宗一郎先生にはバレているだろうが、おそらく俺たちの事情を考えて黙認してくれているのだろう。
───俺たち以外には誰もいない屋上で、影狼に頼んでいたことを聞く。
「それで、事件について結局何か見つかったのか?」
「あぁ。疲れたし時間かかったんだぞ、街を跨ぐから。仕事を任せるならこの街から出さないでほしい、俺を」
影狼が口を尖らせて愚痴を溢す。
「そのせいでここ数日学校に来れなかったんだからな」
「お前は別に仕事じゃなくても学校来ないだろうが」
「来れないんだよ来たくても! そういう話だから俺が言ってるのはァ!」
そう言って、コンビニの袋を開けながら俺に向かって目を見開いてくる。
───そう、実は影狼が学校に来ないのには訳がある。
とある事情で、コイツは裏社会のことに詳しい。色々情報を持っている上にツテも広いので、よく俺から調べ事を頼んでいるのだ。
まぁ別に頼んでなくてもコイツは学校に来ないのだが、そういう時はいざと言う時のために動いてるので俺から文句は言えない。宗一郎先生が必要以上にコイツを怒らないのも、それを理解しているからである。
今回は『氷霧の吸血鬼事件』について調べてもらっていたのだが、つい昨日の夜に「調べ終わった」と連絡が来た。今日は学校に来るだろうと読んでいたのもそれが原因である。
「で、何がわかったんだ?」
「死ぬほど嫌で非現実的な現実。犯人は蒼白の色をした本物の吸血鬼だってさ」
影狼がハンバーガーの袋を開けながらそう吐き捨てる。
その口から飛び出た言葉に驚くが、不思議と疑う気持ちにはならなかった。
「マジで、笑い捨ててたぞお前の
「マジかぁ……ただお前が調べてきたってことは、信頼できる情報ではあるんだよな。それが余計に頭を抱えるんだが」
そう、確かに非現実的で耳を疑うような話だが、残念ながら自分自身が非現実的な
その上、影狼が持ってきた情報だ。これまでにコイツが持ってきた情報が嘘だったことは一度もなく、その経験が余計に疑う余地を与えてくれない。
「……まぁなんにせよ、街に被害を出すようなら放ってはおけないか」
考えても仕方がない。仮に相手がどんなに恐ろしい怪物だったとしても、やることは同じだ。
「まぁ任せてくれ、情報については。まだ一応探ってみるよ」
「いつもありがとな」
「ん? いーのいーの。やりたくてやってることだし。
その代わり今度昼飯奢ってくれ。駅からちょっと遠いあのラーメン屋」
「お前マジ? あそこ高校生のバイト代で食うには微妙に高いだろ……まぁ別に良いけどさ」
「いよっしゃ! やる気出てきた〜!」
喜んでいるカゲを横目に、俺は昨日のうちに作り置きしていた弁当に手を付ける。少し冷えているものの、十分な美味しさだ。我ながら流石だと思う。まぁ、自分で作っているからこそ美味しいとも言えるのだが……。
その後は重要な話も終わり、雑談などしながら昼飯を食べて昼休みは過ぎて行った。
♢♦︎♢♦︎♢
一日の授業を終え、放課後になった。
特に何かが起きるわけでもなく、平和な日常だ。
強いて言うなら、隣町で事件が起こったことで放課後の部活動が禁止になったぐらいだろうか。中学生の頃ならともかく、今はどの部活にも入ってない俺にとってあまり関係はない。
「さて……一足先に帰るとしますかね、俺は」
「え、あ、お疲れ様。また明日も来るよね?」
「まぁな。今は近付きたくないし、街に。嫌な予感するからな
お前らも早めに帰れよ? 知らないからな、吸血鬼に襲われても」
「はいはい。いいから帰れ」
カゲは一人、早めに支度をして下校した。葉美は委員会の仕事、俺は宗一郎先生から話す事があるらしいのでまだ帰れはしない。
しかし、それもすぐに終わらせるようには言われている。例の事件の影響で部活も禁止になり、放課後はできるだけ早く帰るように言われている。
葉美も仕事が終わったのか、すでに書類の片付けを初めていた。
「よし、私もそろそろ帰るかな。
佐季はまだ残るの?」
「おう。先生が来ない限りは帰れないし。
ただまぁ、先生から「六時になっても私が来なければ、遅くなると危ないのでそのまま帰ってくれ」とも言われてるし、もし来なかったらその通りにするつもりだよ」
「そうなんだね。オッケー。
それじゃ、くれぐれも気をつけて。また明日ね」
「あぁ、お疲れ様。また明日な」
葉美は俺に別れを告げると、そのまま鞄を持って小走りで教室を出て行った。
カゲに合流するつもりなのだろうか。好きな人と一緒に帰りたい気持ちはなんとなく俺にも想像できる。
生まれてこのかた恋はしたことがないが、ああいうのを見てるとなんだか良いモノだと思えてくる。是非二人にはくっついて欲しい。
「……暇だな」
先生が来るまで教室で待つだけ、というのも中々に疲れるものだ。暇というのは
かと言って話がどれほど大事な内容なのかわからないため、無視して帰ることもできない。
仕方がないので、俺はスマホを取り出し暇を潰すことにした。
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