後編

 自分のささやかな楽しみを踏みにじられたのだ。カク彦はその足で運営たちがいる部屋の扉を叩いた。

「これはどういうことですか!?」

 藪から棒な発言に運営たちは顔を見合わせる。

 カク彦はどうして面白くもない作品ばかりが星を多数獲得し、上位にランキングされているのかと問うた。

 だが運営はモゴモゴと口を動かすばかりで理由をハッキリと言葉にしたがらなかった。

 ならばとカク彦は、

「あなたたちは上位作品を読んだんですか?」

「いえ、我々はあくまでサイトの運営、企画の提供をしているに過ぎません」

「だからそういう涼しい顔をしていられるんです。あんな破廉恥な作品がこのサイトの代表選手だと思われるんですよ。オレだったら、恥ずかしくて表を歩けませんよ」

「本当にそうでしょうか?」

 と、一人の運営が疑問を呈する。

「面白い面白くないはあなたの主観でしかない。みんなが破廉恥だと思っているのでしょうか? あなたは他の方の意見は聞きましたか?」

「いえ……」

「我々のサイト登録ユーザーが100万人を超えているのですよ。その100万人の内の多くのユーザーが評価したのです。あなたの評価は不確かでも、その数字に嘘はないはずです。だからランキング上位のものたちは面白い作品であるはずなのです。作品の好みもありますから、読んだ作品があなたに合わなかったというだけでしょう」

 なるほど。そういうこともあるだろうとカク彦は納得した。

「ときにカク彦さんはまだ小説を書き始めて1年も経っていないご様子。自分が好きな作品のマネも良いとは思いますが、多くの読者の好みに合わせた作品作りを行うことが大切ではないでしょうか?」

「それじゃあ、自分の書きたいものを書かずに読者が読みたいものを書けと言うのですか?」

「そうは言いません。まずは読まれる努力をしてはどうでしょうかと言っているだけです。どんなに面白い小説を書いたとしても、読まれなければただのゴミですからね」

「つまり閲覧数が多い作品が名作だと?」

「そういう傾向にあるというだけです。もちろん、閲覧数が少ない作品でも面白い作品は沢山あります。そういう意味では、我々のサイトは埋もれたままの『あなただけの名作』を掘り起こす楽しみだってあるはずです。ただ、カク彦さんにはそうなって欲しくないとは思っています。あなたのこれからに期待します」

「それでは、ヨムマラソンを頑張ってくれたまえ」と、運営が差し出した手をカク彦は握りしめた。

「分かりました。あらためて、他の作品を読んでみることにします」

 運営たちへと一礼するとカク彦はヨムマラソンへとおもむいた。そして、二度とその姿を見たものはいなかった。

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ヨム山カク彦の憂鬱 ~走れメロスのように~ むだい @mudaii

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