第47話 ドレスコード

 紳士なスポーツにはドレスコードが存在する。ゴルフなどと同じように、ダーツのリーグ戦や試合にはドレスコードがあるのだ。


 まずは、『襟』が付いている事。ポロシャツでも開襟シャツでも構わないが、襟がついている事が第一の条件だ。TEAM180のメンバーも試合の時は必ずユニフォームを着用して試合に参加している。

 大きな大会などになると、ジーンズやカーゴパンツ等ではプレーできないこともある。センタープレスのパンツやスカートならタイトなもの、スニーカーは大丈夫だがサンダルでの参加はできなかったりもする。

 ダーツは本当に奥が深くて、私もまだまだ日々勉強だ。


 TEAM180ができた時にユニフォームを作って、私たちスタッフは制服として着用している。リーグ戦でTEAMのメンバーがユニフォームを着用すると、知らないお客さんからするとスタッフだらけに見えてしまうだろう。しかも、お酒を飲みながらダーツをしている。知らないお客さんはびっくりしてしまう事もあった。


 なので、私たちスタッフはゴールドのプレートの名札を付けるようになった。

「気軽に入って楽しめるBarだけど、品良く見える方が良いよね」

 と、ダーツのデコレーションがワンポイントで付いている、お洒落な名札を作ってくれた。ぷっくりとした可愛いいダーツのモチーフは私のはピンク系の色で、黒木さんと岩野さんは黒とブルーでカッコいい。何気ない小さなことなんだけど、黒木さんのセンスが光っていて私はとても気に入っている。


 

 そして、リーグ戦のドレスコードをクリアしたお揃いのユニフォームを身に付けたチームのメンバーは今日はリーグ戦で相手のチームの店舗へ遠征に行っている。

 皺になりにくい柔らかな素材でできていて、まだまだ体に馴染んでなかったユニフォームも、毎週袖を通すうちに落ち着いてきたようだ。


「あ、ボタン取れちゃった!」

 とたけるの声が聞こえたので、私はすぐにボタンを付けてあげた。

「澪ちゃん、ありがとう! もう付けてくれたの?」

 たけるは嬉しそうにユニフォームに袖を通す。リーグ戦でお揃いのユニフォームがお店に集まる日はとても賑やかで大好きだ。


 そして、もう少しするとお揃いのユニフォームを着たメンバー達が帰ってくる。今夜は黒木さんからのプレゼントで打ち上げをする予定になっている。

 きっと今頃、『ちんどん』のマスターはせっせと黒木さんから頼まれたメニューを作ってくれているだろう。

 


――――カランコロンカラン。

「ただいまでーす!」

 岩野さんを先頭にユニフォームを着たメンバー達がぞろぞろと戻ってきた。


「おかえりなさい! お疲れ様でした!」

「おかえり! みんなお疲れ様!」


 黒木さんと私はチームのメンバーに声をかける。やりきった感で笑顔の公平、少し残念そうなラピス。他のメンバーはいつも通りに元気な様子だ。


「悔しいなぁー、あと少しだったのにぃー」

 ラピスは珍しくカウンターに座って項垂れている。

「プロを目指すなら、悔しい経験もしておいた方がいいと思うよ! いつもと違うものでも飲む?」


 黒木さんは優しい微笑みを浮かべながらラピスに声をかけている。

 TEAM180は今期のリーグ戦で四位になった。今日勝てていれば三位だったのだけれど、残念ながら負けてしまった。


「けど、俺、多分フライトAAになってるかも! 多分だけど、明日確認してみる」

「おっ、いいねぇー! 祝杯だ!」


――――カランコロンカラン。

「毎度ー! 黒木さん、持ってきたよ! 特別サービスの出前!」

「ヒデさん、ありがとうございます! 助かります! えっ、こんなにたくさん?」

「なぁに、大サービスだよ! リーグ戦っつーの? 強くなったんだろ?」

「はい! 四位でした!」

「スゲーな。まだまだこれからが楽しみだな! これ、焼き鳥に天麩羅! あとは人気のポテトサラダ!」

「ヒデさん、本当にありがとうございます! 美味しそう!」

「澪ちゃんの料理みたいにお洒落ではないけど、うちの店の自慢の味だから」

「はい、みんなで頂きますね!」

「おうっ、じゃ、店に戻るわ!」

 

 ヒデさんが持って来てくれた焼き鳥や天麩羅をカウンターに並べて、チームのメンバーで集まって乾杯をした。


「リーグ戦四位! おめでとう!」

「目指せ、一位だ! お疲れ様!」

「「乾杯!」」

「黒木さん、いただきまーす!」


 

 黒木さんはロンググラスを用意して、ライムを絞り氷を入れた。ウォッカを注いだら、そこに濃い色をした辛口のジンジャーエールを入れ、炭酸が抜けないようにバースプーンで氷を持ち上げるように混ぜた。焼き鳥を美味しそうに食べているラピスの前にすーっとグラスを置いた。


「黒木さん、これ何?」

「モスコミュール」

「モスコミュールって、こんなに色濃かったっけ?」

「辛口のジンジャーエールにしてみたんだ。ピリッとして俺は好きなんだよね」

「へぇー」


 ラピスはグラスに口をつけて、ひと口飲んで目を見開いた。

「パンチ効いてるー! うまい!」

「だろ?」

「私もその辛口ジンジャーエール、好きなんですよ!」

「うん、美味しい! 焼き鳥も進むー!」


 いつもとは違う食事が並び、みんなでダーツの試合の話で盛り上がった。もちろん他のお客さんのテーブルにも焼き鳥や天麩羅はお裾分けされて、会話が広がっていく。


 ダーツをする人もしない人も、お酒を飲む人もソフトドリンクの人も、笑顔でおしゃべりをして、『ちんどん』の焼き鳥を食べる。


 いつもよりもユニフォームが多い夜、今夜も笑顔が溢れていた。リーグ戦の結果も大事だけれど、本当に大事なものはここにあるような気がする。


 

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