第45話 なんちゃってたこ焼き

 大阪に旅行に行ってから私たちがハマったものがある。『たこ焼き』だ。

 黒木さんはネットで少し大きめの家庭用たこ焼き器を購入した。


「澪、たこ焼きパーティーやろう! 和也と世莉亜せりあちゃんも誘ってさ!」

「いいですねー! たこ以外にも豚とかチーズとか入れてやってみます?」

「おっ、いいねぇー」


 とゆうことで、黒木さんの家に四人で集まってたこ焼きパーティーをした。お店の人がやってたような速さでひっくり返すことも出来ないし、電気なのでなかなかうまく焼けない。コツをつかむまでに随分と時間がかかり、何度も何度も具材やソースを変えて作り、お腹がいっぱいになるまで食べた。


世莉亜せりあちゃん、たこ焼きって知ってる?」

「わかりません! 何ですか? オクトパス?」

「海外にはないよなぁー、世莉亜せりあ食べれるかな? あ、豚もあるんだ! チーズ! コーンもある!」

 って、岩野さんのテンションはものすごく上がっていた。世莉亜せりあちゃんは恐る恐る口に運んでいたけど、んーまぁまぁね! って表情でチーズやコーンの方が美味しかったようだ。


 それから何度かは使っただろうか……。おしゃれなインテリアにもならず、ビニールを被せて黒木さんの家のキッチンで眠っている。

「本当に関西の人は家でたこ焼きを作ってるのかなぁー? 美味しいんだけど、焼いてるとゆっくり食べれないよねー?」


 なんて会話になって、だんだん使わなくなってしまった。確かに私も作るならお好み焼きの方が作りやすいし、たこ焼きは二人で食べるにはちょっと寂しい。

 でもこのままビニールを被せたままで眠らせて置くのも何だかなぁ……と私は考えていた。


 のんびりと黒木さんの部屋で目覚めた日。黒木さんはまだ眠っている。私は黒木さんを起こさないように布団から抜け出してキッチンへ向かう。そして買ってきた材料を並べ、たこ焼き器を出してキレイに拭く。


「よしっ! やってみよう!」


 卵を割ってボールに落とす。オレンジに近い黄身は艶々していて透明な白身はプルンと盛り上がっている。私は泡立て器でカシャカシャとしっかり混ぜて、牛乳を入れて混ぜ、ホットケーキミックスを投入してまた混ぜる。

 たこ焼き器には薄く油を塗って温まるのを待った。たこ焼きをやくのと同じように、混ぜたものをお玉で入れる。たこ焼よりも生地が少し固いし、しっかりと火は通さないといけないし、丸くないと可愛くならない。

 たこ焼きと同じように焼いてみる。生地が膨らんできたらくるりと返してコロコロと丸くなるようにやってみる……が、うまく丸くなるものと、そうでないものが出来てしまった。


「ありゃー、ダメか」


 今度は生地を少し少なめに入れて、膨らんできたら二つをくっつけるようにして乗せて、転がして丸く整えてみる。すると、焼き上がりもコロコロと丸くて可愛い一口カステラが出来上がった。


「よーし! これだ!」


 出来上がったものにチョコペンで顔を書いたり、中にチーズを入れたりしてお皿に盛り付ける。味はほんのり甘くて美味しい。


「ぉはよぉー! ん? なんか甘い香りがするー!」 

「おはようございます! ふふっ、一口カステラです!」


 カップに乗せたドリップの珈琲に少しお湯を注ぎ、少し蒸らす。少しずつお湯を注いで珈琲を入れると、部屋の中に香ばしい香りが広がる。珈琲で満たされたマグカップを黒木さんの前にそっと置いた。


「澪、ありがとう! 澪が入れてくれた珈琲は美味しいんだよ」

「エヘヘ、誰でも簡単にドリップできるやつですよ? マグカップに乗せてお湯を注いで出来上がりです!」

「え、でもなんか違うように感じるんだけどなぁー」

「愛情も注いでますからね」

「あ、それかぁー」


 黒木さんが一口カステラにフォークを刺してパクっと口に入れる。

「あ、チーズだ! いいねー、あ、ウインナー?」

「ミニドックみたいでしょ? チョコレートかけたら甘いデザートにもなるんですよねー! あ、お店でバレンタイン限定で出してみていいですか?」

「いいよ! バレンタインのチョコとしてプレゼントしてもいいけどねぇー!」

「あ! いい事思い付きましたー!」


 


 バレンタインデーの日、お店のメニューボードに新しいメニューが仲間入りした。


⭐ひとくちコロコロドック


 中にはチーズやウィンナー、コーンビーフを入れて爪楊枝を刺し、小皿にケチャップを入れて添える。好きなようにケチャップにつけて食べて貰える。


「たこ焼きみたいだなぁー」

「美味しい! これ面白いね」


 みんなでワイワイ言いながら楽しんで食べてくれている。岩野さんも気に入ったようだ。


「澪ちゃん、おかわりないの?」

 とおねだりをしてくる。

「その前にちょっとあるので待ってて下さい!」

「ん、何?」

「まだ秘密です!」



 たこ焼きを入れる舟を用意して、チョコを入れたコロコロのひとくちカステラを並べる。チョコレートソースをかけて、グリーンのチョコスプレーをパラパラとかけて、爪楊枝を刺して出来上がった。



「みなさーん! 今日はバレンタインデーなので感謝の気持ちでチョコレートをご用意しましたー」


 舟に盛り付けられた、たこ焼きそっくりにできたチョコレートのデザートは『なんちゃってたこ焼き』と名付けられて、毎年バレンタインデーに出てくるメニューとなった。

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