第41話 食い倒れの街

 大きな商店街は行き交う人々でごった返していた。外国からの観光客も多く、英語や韓国語、中国語などが飛び交い笑い声も混じってとても賑やかだ。

 この街で生活をしているであろう人々は、人の波を左右に避けながらズンズンと急ぎ足で進んでいく。


「いらっしゃいませー! 只今のお時間は特別セールとなっておりまーす! セール商品全品、只今半額でーす! どうぞご利用下さーい!」

 各お店の初売りセールのポップが並び、店頭では店頭ではスタッフさんが大きな声を出して呼び込んでいる。

「お姉ちゃん、半額になるの?」

「はい! セールの札がついた商品は全品半額になります!」

「この、二割引きって書いているやつも?」

「はい! 今のお時間は半額です! よろしければ奥にもたくさんございますのでどーぞ!」


 その会話を聞いた通りすがりの人々も、お店の中に吸い込まれるように入っていく。

「すごーい! 賑やかですねー!」

「澪、見たいお店あったら言ってね! あと、はぐれてしまわないように……」

 黒木さんの大きな手が、私の手をしっかりと握ってくれた。とても空気が冷たくて寒いけれど、繋いだ手は温かくなる。


 大阪の中心であろう若者が集まる街は活気に満ち溢れていた。私は黒木さんの手をしっかりと握ってついていく。そして、人々で埋め尽くされた橋にたどり着いた。

「あ、テレビで見たことがあるやっだ!」

「やっぱり、凄い人だねー、写真撮るの大変そうだなぁー」

「せっかく来たので頑張りましよっ!」

 私も黒木さんもスマホを片手にタイミングを待った。看板と同じポーズをとって写真を撮る女子高生や、外国からの旅行客に混じって私たちも写真を撮る。

「澪、ひとりでも撮る?」

「いえいえ、私は遠慮しときます」

「そう? せっかくなのに? 俺はやるぞ! 澪撮ってくれる?」

 

 最近の黒木さんは、時々こういうところを見せてくれるようになった。お店では見せないけれど、突然変な顔をしたりお茶目な所がたくさんあって可愛らしくもある。

「撮るよー! はい、グリコ!」

 私の声に合わせて、黒木さんは看板と同じポーズをして笑った。背が高い黒木さんは一際目立っていたが、本人は全く気にしていないようだ。スマホに残った写真を見て、ニヨニヨと微笑んでいる。


「やった、やってみたかったんだーこれ!」

「エヘヘ、良かったですね!」

「澪もやれば良かったのにー」

「いやいや、恥ずかしいからできません」

「なぁーんだ……」

 ちょっぴり残念そうな顔をする黒木さんもまた可愛らしくて、私は繋いだ手に少しだけ力を入れた。


「よしっ、何か食べよ!」

「はいっ! お腹空きましたー!」


 まずは香ばしいソースの匂いがするお店に並んだ。絶対にはずせない、たこ焼きだ!

 凄い行列だが、さほど止まらずに少しずつ進んでいく。バンダナを頭に巻いたスタッフが並び、先の尖った串一本だけで器用にくるくると丸めていく。その間にも横のスペースに生地を流して天カスを入れ、小さく切ったタコを丸い枠の中に入れていく。

 ここでもやっぱりいろんなものを食べたいので、たこせんにしようかとも悩んだのだけれど、一舟買って黒木さんと半分ずつにした。表面はこんがりと焼けていて、中はとろっとろっだ。大きめのたこ焼きに楊枝を二本刺して、ハフハフして食べる。


「はふっ、あつっ、うまっ!」

「ふぅー、はふっ、んー!!!」


 出来立てホヤホヤのたこ焼きは予想以上に熱くて、口の中を火傷してしまった。私は慌ててペットボトルのお水を飲み、黒木さんは嬉しそうに次のたこ焼きを口に入れている。

 

 たこ焼きを食べ終わると、再び手を繋ぎ歩き始める。本当に賑やかな街。すれ違う若者達は大きな声で笑い楽しそうだ。


「なんやねん、やめろや!」

「えーやんか!」

「何でやねん!」

「いや、知らんけど!」

「いや、ちゃうやん!」


 テレビで聞いた事がある会話が本当に聞こえてくる。思わず吹き出しそうになりながら、しっかりと黒木さんの手を握って歩いていく。そして、有名らしい串カツのお店に並んだ。ここも人気があるらしく、ずらりと列が続いている。


「楽しみですね!」

「紅しょうがだって! へぇー!」

「美味しいのかなぁ?」

「俺、食べてみよ!」

 待っている間にメニューを見ているだけでもとっても楽しい。

「黒木さん、どて焼きも人気らしいですよ!」

「おっ、うまそうだなぁー」

「ビール飲みたいんでしょー?」

「んー、やっぱりここはビールだなぁ」


 カウンター席に案内されて並んで座る。店内もやはり賑やかだ。

『ソースの二度づけ禁止!』と大きく書かれている。私たちは紅しょうがや串カツ、エビや漬けマグロ、チーズやどて焼きを頼み、黒木さんは生ビールも注文した。


「はい、おまっとぉーさん! ソースにジャポンとつけて食べ。もしも足らなんだら、キャベツでソースをすくってかけてや!」

「はい、ありがとうございます!」

 生ビールとジンジャーエールで乾杯をして、揚げたてサクサクの串カツを食べる。最高に美味しい。

「紅しょうが、やばっ! うまっ!」

「あら、ソースも美味しい!」

 私たちの会話が聞こえたのだろう。

「せやろ? 自慢のソースやで!」


 私たちは串カツをいくつか追加をして満足して店を出る。

「あー、美味しかったです!」

「澪もたくさん食べたね!」

「はいっ! 食べ過ぎたかな?」

「澪が美味しそうに食べてると俺は嬉しいよ!」

「ふふっ」


 そして私たちはまた手を繋いで、賑やかな街をのんびりと歩いて回った。途中でミックスジュースを飲み、不思議な雑貨屋さんに寄り道をしてお土産を買った。

 可愛いおじさんの焼き印があるチーズケーキはぷるぷるとしていて可愛いくて二つ買って貰った。黒木さんはTEAM180のメンバーにもお土産を選んで、大きな大きな袋を抱えながら、しっかりと私の手を握ったまま歩いてくれた。


 私たちは食い倒れの街でお腹もいっぱいになって帰路についた。

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