第37話 TEAM180
―――ピューン、ピューン、ピューン。
パチパチと拍手が起こる。
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
私が一番好きな場面だ。勝っても負けてもお互いに精一杯やって、楽しんだ証拠だと思う。
「お疲れ様ー」
私もTEAMのメンバー全員に声をかけると、ハイタッチで応えてくれて嬉しくなってしまう。この時間は当たり前のようで当たり前ではなく、とーっても美しくて大切な時間だと思っている。
リーグ戦に参加し始めた頃は、それぞれのお店の空気感もわからなくて、何となく嫌な試合の終わり方をしたこともあったし。ホームで試合をしても、何となくちゃんとコミニケーションを取れないまま帰ってしまったTEAMもあった。
アウェイ戦で他店に行く時は岩野さんが頑張ってTEAMのメンバーを引っ張ってくれて、メンバーも試合だけでなくお店の顔としてキチンと接してくれたようだ。
顔を会わせる機会も増えて、顔馴染みになり、試合の日ではないのにお互いのお店に顔を出したりしてダーツを楽しむ仲間が増えてきたように感じている。
私のダーツはというと、そんなに上達することはなく試合に出てもそんなに活躍はできないんだけれど。
それでもダブルスで組んで貰って参加させてもらえて楽しい時間を過ごしている。
「このお店のTEAMの雰囲気いいよね」
「ありがとうございます!」
メンバーを連れて来てくれたお店のリーダーが黒木さんとそんな会話をしている所をよく見かけるようになった。そして何よりみんなダーツのレベルが上がってきて、リーグの中でも上位をキープできるようになってきた。あと三回勝てばリーグ優勝も見えてくる!
と、メンバーは全員盛り上がっている。
「あー、頑張ったから腹へったー!」
「俺も、何か頼もう!」
「澪ちゃーん!」
と、大きな声で呼ばれて返事をする。
「はーい!」
「エヘヘスティックの大盛一つと、んとー、俺の好きな昆布うどん!」
「エヘヘスティックは先に出してもいいの?」
「うん、どっちが先でも大丈夫!」
「あ、私はキムチ鍋のうどん入りにする!」
「はい! お待ち下さいね!」
「澪ちゃん、宜しく!」
試合を終えてお腹を空かせたメンバー達の為に、私は急いでキッチンへと向かうのだ。
お鍋に出汁を入れて弱火であたためながら、パンの耳にバターを塗りお砂糖をまぶしてトースターに入れる。
温まった出汁を二つにわけて、一つにはうどんを入れ、もう一つには仕込んでおいた野菜やお肉を入れる。
「チーン!」
甘く香ばしいバターの香りがして、エヘヘスティックが出来上がった。
淡いピンク色のお皿にレースのペーパーを重ねて、出来立てのエヘヘスティックを盛り付ける。
「エヘヘスティック、できました!」
「はいよ!」
ダーツで忙しそうな岩野さんの代わりに、黒木さんがそっとお皿を受け取って微笑んでくれる。私もつられて微笑みを返して、コクりと頷いて見せた。二人でいる時の黒木さんも好きだけど、お店で働いている黒木さんはなんと言うか……少し眩しく見える。
「うどんももうすぐ出来ます!」
「りょーかいっ!」
出来上がったうどんを器に入れ、とろろ昆布をのせてネギをトッピングする。黒木さん好みの昆布うどんはたっぷりのとろろ昆布がのっていて美味しいのだ。昆布がお出汁をたっぷり吸ってしまうので、だいたいみんなハフハフと急いで食べてくれて、食べ終えた器には出汁はほとんど残らない。ちょっと塩分を取りすぎな気もするのだけれど、黒木さん好みの昆布うどんは〆のラーメンのように注文が入ることもある。
「澪ちゃん、俺もジャーマンポテトもどき頼んでもいいかい?」
「玄さん、ありがとうございます! もちろんですよ、遠慮せず好きな時に注文してくださいね」
「ありがとねー、澪ちゃん」
リーグ戦のある月曜日や週末はほぼ満席になる為に、玄さんが少し寂しそうだ。一人でカウンターに座る顔馴染みのしんさんが居ない時は、ダーツを眺めながらチビチビとビールかウイスキーを飲んでいる。
「玄さん、お待たせしました!」
「お、ありがと!」
「玄さん、ビールのおかわり入れます?」
「そだね、澪ちゃん入れてくれる?」
「はいっ!」
冷蔵庫で冷やしてあるビールのグラスを出して、ビールサーバーのノズルをグラスを斜めにして内側にそっと添える。バーを手前に倒してゆっくりとビールを注ぎ、グラスの七分目まできたら止め、今度はバーを奥に倒して泡をたっぷりとのせる。透き通ったビールの上に、白くてやわらかな泡がこんもりとのっていて美味しそうだ。
「玄さん、どーぞ!」
「ありがとね、澪ちゃんのビールも美味しくなったねぇー!」
「わぁー、嬉しいっ!」
「うんうん、うまい! ジャーマンポテトもどきもうまい!」
「なぁ、黒木さん! 良い店になったなぁー! 澪ちゃんも岩野くんも居て、うーんと良い店になった!」
「はいっ! ほんとに感謝ですね!」
黒木さんが優しい目をして笑いながら玄さんと会話をして、私の方を向いてまた笑った。
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