第30話 ホワイトホース

──ピピピー。

──ピピピー。

……ふぅ、と軽く息を吐いて構える。

──ピピピー。


 クリケットで19と18と17のトリプルにそれぞれダーツが刺さった。私は初めてのホワイトホース!


「ナイス!」

「澪ちゃん、やったじゃん!!」

「やったぁ! お馬さんだぁー!」


 今日は月曜日。ホームでリーグ戦だ。

 アウェイの時は岩野さんがお店の代表兼メンバーとしてチームを連れて行き、試合に参加してくれている。

 結成して間がないTEAM180はまだまだレベルは低くく、決して強いチームではない。

『黒木さんのお店のチーム』が出来た、と噂は広がってお客さんが少しずつ増えてきたような気がする。


 ラピスラズリがリーダーとなって、一生懸命盛り上げてくれている。

「ナイスショット!」

「いい感じ!」

「大丈夫! 大丈夫! 落ち着いて行こう!」

 と、声を出しメンバーをまとめてくれている。そこに岩野さんも入るとTEAM180はとても和やかな空気の中で試合を進めていく。


「ありがとうございました!」

 どんなにボロボロに負けてしまった試合でも、必ず笑顔で挨拶を交わして試合を終えるメンバーの姿はキラキラとして眩しかった。

 年齢も性別も、ダーツのレベルも関係なく誰もがダーツを楽しめるチームとして少しずつ成長をしているようだ。


 私はホームでの試合に時々参加させて貰っている。リーグ戦の時はダーツをしないお客さんがいても一緒に試合を見て拍手をしてくれるし、私が試合をしている時はフードメニューのオーダーはあまり入らない。

入ったとしても岩野さんがさっと出せるエヘヘスティックくらいなのだ。


「澪ちゃん、ダーツ上手くなったなぁー」

 カウンターへ戻ってきた私に、玄さんが声をかけてくれた。

「はいっ、たまに練習させてもらってるんです! でも、お馬さんは初めでめちゃくちゃ嬉しいです!」

「たべなー、俺もブラックが一回だけ出た事があるんだどー。嬉しかったなぁー」


 ダーツのど真ん中にあるインブルに、ダーツが三本とも刺さるとスリーインザブラックというアワードが流れる。

 私にはまだまだ遠い。今のホワイトホースだって、本当はまぐれだったかもしれない。

 だけど、カードを差して表示されるレーティングは少しずつ少しずつ上がってきている。



「澪ちゃん、ここに壁があると思って投げるんだよ、真っ直ぐね!」

「こうですか?」

「そ、そのまま投げてみて、」

 黒木さんがいう通りに三本ダーツを投げてみると、5と14と19にダーツは刺さった。

「ありゃ、」

 と思わず口にした私を見て、黒木さんは誉めてくれる。


「それでいいんだよ! ほら見て、なんとなく縦が揃ってるっしよ?」

 多少ズレてはいるものの、確かに三本のダーツは縦にならんでいる。

「あとは肘の位置を動かさないように固定して投げれるようになれば、ブルにちゃんとまとまって入るようになるよ!」

「なるほどー」


 だが、その肘の位置を固定するというのが難しい。プロになるとどの数字を狙っても同じ投げ方が出来るので、ミスをしても本当に数ミリの誤差でダーツが刺さっていく。

 あんな風に投げれたら、それはそれは気持ちがいいだろう。



「黒木さん、ありがとうございましたー」

 と相手チームのスタッフが挨拶に来てくれた。残念ながら、私たちは負けてしまった。

 リーグ戦が始まってから、まだ二回ほどしか勝てていない。何度も何度も負けて、何度も何度も皆で練習をしてダブルスのメンバーを入れ替えてみたりもした。それでも負けてしまうとまた作戦会議として集まり、おしゃべりをしながら楽しんでいる。


「こちらこそ、ありがとうございました! まだまだ新しいチームなんで、これからも宜しくお願いいたします、」

「もちろん! 今日は楽しかったです、ありがとう! 澪ちゃんだっけ? ありがとうねー」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 私は店の出入口まで行き、相手チームを見送った。


「惜しかったなぁ、」

「やっぱり、最後のあそこは加点で行くべきだったなぁー」

「いや、強気でいくのもありだと思うよ、」

「だよなー?」

「でも、澪ちゃん凄かったね!」

「ミラクルでしたー」


 反省会のようなおしゃべりが始まり、皆がわちゃわちゃとし始める。そしてまたそれぞれが練習をしたり、対戦をしたりして夜が更けていくのだ。


 試合が終わると岩野さんはお客さんのオーダーを取ったり、テーブルをバッシングしてまわる。いつも会話をしながら、楽しそうだ。


「澪ちゃん、実家のスィートポテト1つお願い!」

「はいっ!」


 リーグ戦が終わると、エヘヘスティックなど甘いものが食べたくなるようだ。

 ダーツを真剣にするメンバーの中には空腹のほうが集中できる人もいる。

とくに公平さんがそうだ。

「リーグ戦だから、俺は試合中終わってからにするわ!」

 と早めに食事を取るメンバーの横で黙々とひとりで練習をしていた。


「さてー、食うぞー!!」

 とメニューとにらめっこを始めた。

 公平さんはとても痩せているが、すごくたくさん食べるので私が頑張る時間がやってくるのだ。


「澪ちゃーん!」

「はーい!」

「とりあえずオムライスをオムレツバージョンで! それと、ブロッコリーのジャーマンポテト! 他はあとで追加しまーす!」

「了解です!」

 まずは最初のオーダーだ。オムライスの準備をしながらジャーマンポテトを作り、出来上がった物を岩野さんがテーブルへ運んでくれる。

「ほい、とりあえずオムライス出来上がりっ!」

「ありがとう! 追加でうんうん! ミートパスタ一つ!」

「はいよー!」


 私が料理を出し終えて急いで片付けをしていると、追加のオーダーがやってくるのだ。

 公平さんのペースがあるのか、私が焦らないようになのか……とにかく追加でオーダーが入る。たまに生姜焼丼をおかわり! なんてこともある。

「急がず、ゆっくりでいいよー」

 と必ず声もかけてくれるし、美味しかったよぉーって嬉しそうに言ってくれるので私も嬉しくなるのだ。

そのあとも公平さんは、記念品なんでのチョコソースも注文してくれて完食していた。

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