第25話 リーグ戦

「黒木さん、ダーツのチームは作らないの?」

 直人がダーツをから投げしながら黒木さんに話かけている。


「あー、チーム作れる程、常連さん集まるかなぁー」

「最近、ポツポツ増えてきてるじゃん?」

「ありがたいねぇ、みんながいつも来てくれるからだよ、」


 直人達やラピスラズリ達が毎日のようにやって来て、カードを挿してダーツをしてくれるおかげだ。

アプリを開けば、お店の検索もできるし誰かが投げていれば表示される。

 それを見てお店を訪れるお客さんも増えてきた。


「ここでチーム作ってさぁー、リーグ戦とかやりたいよぉ!」

「うーん、リーグ戦となるとアウェイの時が困っちゃうんだよねぇ、」


 リーグ戦へ参加をすると、週に1回は試合を行う事になる。ホームとアウェイでお互いのお店を訪れて対戦していくのだ。

 アウェイの時はお店の代表が一緒に行って参加する。黒木さんが同行すれば私がお店をひとりで営業する事になってしまうし、私だけでは心もとない。

逆に私が同行したとしても、それはそれで力不足になってしまう。


「俺たちだけで行くってわけには行かないかぁ……」

 直人は少し残念そうだ。



「小さなお店だからね、普段は俺と澪ちゃんで何とかなるしなぁ」

「そうだよねぇ」

「ホームの日はスタッフがもう一人必要だろうねぇ」


 確かに、対戦相手のチームがお店に来て試合をするのだから、お客さんの人数はいつもよりも増えるから忙しくなるだろう。

 ダーツをしながらドリンクを飲み、食事を楽しむのは変わらない。

 お店やお客さん同士の交流の場にもなる。


「直人、とりあえず確実に参加してくれる人数集めてみてよ。八人くらい集まりそうなら考えてみるから、リーグ戦は月曜日だと思うから声かけてみてくれる?」

「まじで?! 集まったらチーム作ってくれる?」

「リーグ戦の時だけのダーツ専門スタッフを探してみるよ」



 黒木さんは嬉しそうに喜んでいる直人達を見て笑った。

「ダーツの台、二台しかないんだけどなぁ」

 と、小さな声で呟いている。


「チーム作ってリーグ戦をやると毎週試合があるんですか?」

「そ、年中ではないけど各ブロックに分かれていて対戦していくんだよ。その地域で一番になったら地区予選に出て、勝ち進めば全国大会があるんだよ。俺も昔、一度だけ全国大会に行ったなぁ。横浜までみんなで車に乗って、寝不足で試合に出て一回戦負け」


 黒木さんが懐かしそうに笑った。

「あぁ、前の店の時ねぇー、そりゃもう大騒ぎして行ったのにみんなすぐ負けちゃったって大笑いだったど」

 玄さんも知っているようだ。


「玄さんは行かなかったのですか?」

「わしゃー弱っちぃからのぉ、なんせ対戦で負けて名前変えられたくらいだし」

 ハハハと黒木さんも笑ってビールを飲み干した。


──新しいスタッフさん……かぁ。

 本当にダーツのチームを作るのだろうか。

 新しいスタッフさんが入るとしたら……。

 なぜかわからないけれど、私の心が少しざわざわとした。



「missキーマカレーにチーズのせて貰えますか?」

「追加の料金頂いてもよろしいですか?」

「はい!」


 時々ダーツをしに来てくれるカップルからのオーダーでトッピングもする事になった。

【トッピング・大盛りできます】

 と、メニューボードに書き足される。


 ご飯を盛り付けて、出来上がったキーマカレーをかけ溶けるチーズをパラパラと乗せる。熱々のカレーに乗ったチーズがやんわりと溶けていく。

「お待たせ致しました、missキーマカレーのチーズトッピングです!」

「わぁぉー、美味しそう!」


 スプーンに乗ったキーマカレーからぴょーんとチーズが伸びている。

「うんまぁー!」

と声が聞こえてきた。


「澪ちゃん、今度俺もチーズ乗っけて、」

 と黒木さんも食べたそうにしている。

 それからは、お店の中でチーズトッピングのmissキーマカレーの注文がいくつか入った。

 大好評のようで良かった。



 食事を終えたカップルがダーツを始める。いつものように投げ放題にして、から投げを始める。まだ始めて間がないカップルのレーティングは私より少し上かなぁー、ってくらいなのだか、何より楽しそうに投げている姿に好感を持っている。


 この前は直人達にお願いをして、ダブルスで試合をしてもらってたなぁ。

「上手になりたいので、対戦お願いしてもいいですか?」

「もちろん!」

 って、直人達も快く引き受けてくれて楽しそうだった。


「今日もお願いしてもいいですか?」

「もちろん!」

 とダブルスで対戦を始める。やっぱり直人達の方がレベルは高いのだけど、楽しそうにプレイしている姿は本当に微笑ましく感じる。

 黒木さんも優しい笑顔で見守っていた。


「ねぇ、もしもダーツのチームとか作るとしたらふたりとも入ってくれる?」

 直人さんが声をかけている。


「俺たち、まだまだへなちょこですよ?」

「レベルじゃないんだよ、楽しくダーツをしてリーグ戦とかに参加したいんだ!もちろん、強くなる為に練習はするんだけど。ホームのお店とかあるの?」

「いや、特には決めてなくて。いつもはネットカフェで投げてたりするんです」


 黙々と練習したり、機械にマッチングしてもらって対戦しているのだろう。


「なかなかコツが掴めなくて、対戦も弱いから迷惑になりますよ?」

「そんな事ないよー」

 と、夏喜とあきらが口を揃えて言って顔を見合わせた。なんとも言えない優しい空気が漂っている。


 リーグ戦などについても、みんなで話をしながら教えてあげている。時にはみんなで笑い、何とも楽しそうだ。


「じゃあ、宜しくお願いいたします!」

「お願いいたします!」

「まじで?! やったぁー!!! よろしくね!」

「カードネーム、次男坊のたけるです!」

「カードネームが雪だるまの結希です!」


 こうして、先にダーツのチームが出来上がった。ラピスラズリに麦わら帽子、みるく。そして直人、夏喜、あきら

 そして、メンバーに入りたてのたけると結希。


「黒木さん、あとは少し遅い時間に投げにくるふたりの男性誘ってみていーい?」

 直人が嬉しそうにメモをしている。

「じゃぁ、本気でスタッフ探すか!」

「やったぁー!!!」


 その後ふたりの男性も参加を希望した。公平さんと純司さん。

 合計十人とホームなら黒木さんや私も参加する事に決定した。


『TEAM180』


 お店にダーツのチームが誕生した。

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