第24話 プロポーズ大作戦

 ダーツを楽しむいつものメンバー達は賑やかだ。ラピスラズリと直人の仲間同士も仲良くなりみんなでじゃんけんをしてチーム分けをして対戦をしたり、レーティングを競い合ったりして楽しんでいる。

今日も、グータッチをして盛り上がっていた。


「みるくちゃん、レーティング上がったねぇー」

「そう! みんなが教えてくれて助かるー」

「投げ方キレイになったよなー」


 私はそんな会話を聞いて思わず笑顔になってしまう。


 カウンターの端のいつもの場所では、玄さんが生姜焼丼を食べながらビールを飲んでいた。メニューも増えてきて、お店で食事を取るようになってくれた。


 黒木さんや私と会話をしたりダーツを見たりして、仕事の疲れをとっているのだろうか。


 テーブル席には、初めてのお客さんが座り、おしぼりで手を拭きながらメニューを見て笑っている。メニューの名前がツボに入ったらしい。


 カウンター席には時々来てくれる、武文さんと由実さんが並んで座っていた。


「あらっ、またメニューが増えてる!」

「コロコロコロッケって?」

「小さめの丸いコロッケなんです」


「へぇー、美味しそう!」

「由実、食べたい?」

「食べたい! オムライスも食べたい!」

「今日はデザートも食べよう!」

「やったねっ!」

 由実さんは嬉しそうに笑っていた。


 武文さんと由実さんはふたりで仲良くシェアして、オムライスとコロッケを食べている。

「あちっ!」

「気をつけてよぉー」

 仲睦まじいふたりを見て、黒木さんと私は目を合わせて笑った。


 店内に流れる曲はその日の気分や季節、お客さんなどによって黒木さんが変えている。今夜は優しいピアノの音色が流れ、しっとりとした空気に包まれた。


 今夜はいつもとは少しだけ違う夜だ。


──カランコロンカラン。

「いらっしゃいませ!」

「いらっしゃいませ!」


「お届けものです!」

 大きな白い花の花束を持った女性が入ってきた。小柄な女性が見えなくなるくらいの花束。


「由実さんはいらっしゃいますか?」

「あちらのカウンターに座っていらっしゃいますよ!」

 私は笑顔で案内をする。


「ん?」

「由実さんへ、武文さんよりプレゼントです!」

「へっ?」

 きょとんとした表情を浮かべながらも、素直に花束を受け取っている。

「では、ありがとうございました」

 とその女性は武文さんにお辞儀をしてお店をあとにした。


「武文、これなぁに?」

 とても大きな花束を膝に抱えて武文さんの顔を見ている。


「トルコキキョウの花だよ、薔薇は刺があるからやめたんだ」

「薔薇の花とそっくり!」

「だろ? 百四十四本だよ!」


 みんながふたりの様子を見守っている。


「百四十四本? なぁに? こんなにたくさん! ありがとう! でもなぁに?」

 由実さんを見つめながら、武文さんが緊張した様子で椅子から立ち上がる。


「何度生まれ変わっても、俺は由実を見つけて愛していきます! 結婚してください!」

 ポケットから小さな白い箱を取り出して、蓋をそっと開けるとキレイな指輪がキラリと光った。


 由実さんの顔はぽっと色づいて、笑顔になり涙がぽろりと落ちる。

「はいっ、何度でも見つけてね!」

「ありがとう!」

 武文さんが嬉しそうに笑った。


 店内のお客さんがみんなで一斉に拍手を送った。

「おめでとうございまーす」

 と直人が言って、武文さんと由実さんはふたりでみんなにお辞儀をしている。

 黒木さんも、私も、玄さんも。みんなが笑顔でふたりを祝福した。



 数日前、武文さんから電話を貰っていた。

『黒木さん、ちょっとお願いが……』


「澪ちゃん、武文さんからデザート頼まれたらさ……」

「はいっ! ドキドキしますね!」



 由実さんの嬉し涙はとても美しかった。武文さんは仕事で出張が多いらしく、寂しい時もあるだろう。楽しい時間も辛い時間も過ごし、今結婚する事になった。

 こんな瞬間に立ち会えて、私はすごく嬉しい。


「もし断られたらどうしようかと不安だったよー!」

「あはは!」

「どうしてここでプロポーズしたの?」

 直人がニコニコしながら聞いている。


「ここには何だか幸せオーラみたいなの?ある気がするんだよねぇー」

「あぁ、何となくわかります! 悪いものがない感じがする!」


「嬉しい事言ってくれるねぇー」

 と黒木さんが笑っている。

 ピカピカに磨かれたグラスやボトル。テーブルや椅子も丁寧に掃除を欠かさない。

 もちろん私も真似をして一緒に作業をしている。


 やっぱり黒木さんの持つ空気感が何よりも素敵なんだろう。

「黒木さんと澪ちゃんのね、このほんわかとしたところがいいんだど」

 玄さんもそう言ってくれて、私も嬉しくなった。


「澪ちゃん! 記念日なんでのイチゴソースお願いします」

「はいっ!」


 いつもよりも少し大きめのお皿にこんがりと焼き上げたパンを乗せた。

 黒木さんからお願いされていた。

『プロポーズが成功したら、アイスクリームも多くして、メッセージ書いてあげて欲しいな』


 アイスクリームを大きくして二つ、ホイップクリームもたっぷりと。お皿にもホイップクリームを飾り、イチゴソースをかけた。

 そして、チョコレートでお皿にメッセージを書いて出来上がった。


『武文さん、由実さん、おめでとう♪』

 大きなハートとふたりの似顔絵を添えて、特別バージョンが出来上がった。


「うわぁー、可愛いっ!」

 ふたりは嬉しそうに携帯で写真を撮り、みんなで一緒に記念撮影もした。


 笑顔が溢れる素敵な夜のプロポーズ大作戦は大成功に終わり、白いトルコキキョウの花はみんなにも少しずつお裾分けされた。

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