第5話 卵焼きサンド・えへへスティック付き

 卵焼きサンドは少し小さめにカットして、シェアしやすくしてテーブルの真ん中に置いた。


 三人がお皿を覗き込んだ。

「ぅわあー、めちゃくちゃうまそうじゃん!」

「これ? えへへスティックって。」

 と陽くんはスティックになったパンのミミをつまんでいる。

「そうです! それはね、甘いの。」

「いただきます!」


 私はカウンターに戻ってドキドキしていた。初めてお店で出したお料理だったから。


「うまぁーい!」

 直人さんが、親指を立てていいね! と合図をしてくれた。


「良かったぁー」

 私は嬉しくてたまらなかった。

「えへへスティックだけでもアリじゃない?」

 なんて褒め言葉まで頂いた。


「えへへ」

 と笑って、口を押さえた。

「黒木さん、えへへって、澪ちゃんの今のやつかい?」

 玄さんは見逃さなかった。


 黒木さんは笑いながら言った。

「はい、速攻バレちゃいましたね!」

「いや、これから楽しみだねぇ。おじさん向けのメニューも頼むよ!」

 と、玄さんは笑った。



「いやぁ、めちゃくちゃうまい!」

「ここで美味しいご飯が食べれるとは!」

 ダーツメンバーが喜んでくれて、私はホッとした。



「いらっしゃい!」

「いらっしゃいませ!」

 また、次のお客さんがやって来た。


 仲良しそうなカップルだった。

 テーブルではなく、玄さんから少し離れたカウンターに並んで座った。


「久しぶりじゃん!」

 黒木さんは嬉しそうにふたりにおしぼりを差し出した。

「そうなんすよ、人手不足で暫く駆り出されてました」

「どこに行ってたの?」

「福岡に2か月半! これ、お土産です!」

 と小さめの紙袋を黒木さんは受け取っていた。

「お――! めんべい! それと、武者返し! えっ? 武者返しって熊本じゃないの?」

「すごっ、黒木さん! 実はせっかくなんで、休日に熊本に旅行してきましたー!」

「サンキュー!」


 黒木さんは、少し落ち着くと私を紹介してくれた。

「澪ちゃん! 今日からなんだよ。キッチンを担当してくれるんだ、宜しくね!」

「宜しくお願いいたします。」

 私は笑顔で挨拶をした。


「キッチン? へえー、俺は武文。こっちは彼女の由実」

 由実さんはペコリとお辞儀をしてくれたので、私もペコリとお辞儀をした。とても大人しそうでショートカットの似合うすらりとした彼女だ。


「生二つ。それと、食事メニューってどれ?」

「ほいっ!」

 黒木さんはメニューボードを見せた。

「まだ、メニューは二つしかないんだけど。」

「とりあえずオムライスって!」

「食べてみたい」

 と由実さんが言って、オーダーが入った。


「オムレツバージョンと、くるっと巻いたバージョンとどちらにしますか?」

 私はどちらも作れる。黒木さんはへえー、っという顔をして私を見ていた。

「オムレツバージョンで!」

「はい!」



 私はキッチンへ行き、準備をする。必要な材料はカットして準備をしているので、そんなに時間はかからない。オーダーも立て続けに入るわけではないので、慣れていない私でも丁寧に仕上げる事ができた。


「お待たせ致しました!」

 武文さんと由実さんの前にオムライスをそっと置いた。

取り皿とスプーンも添えて。

「カットしますよー」

 ナイフですーっと切れ目を入れると、トロリとオムレツが広がった。


「うわぁー、美味しそう!」

 由実さんが嬉しそうに笑った。

 ふたりでひとつのオムライスを少しずつ取り分けて食べるふたりの姿はとても素敵だった。


「澪ちゃん! うまいよぉー。マスター、ビールお代わりっ!」

「はいっ!」

 黒木さんは嬉しそうにサーバーからグラスにビールを注ぐ。

 真っ白い泡がもこっとしていてキレイだった。




「へぇー、俺もなんか食べたいけど。和のものがいいしなぁ」

 玄さんがナッツを摘みながらチビチビとお酒を飲んでいた。


 私はキッチンで食材とにらめっこをする。


「玄さん、お野菜は食べれます?」

 私は寂しそうにしている玄さんに尋ねると、

「嫌いな物はセロリかなぁ」

 と答えてくれる。


 よしっ!

 私はじゃがいもとブロッコリーをカットして、レンジにいれた。その間に玉ねぎと鶏肉をカットして、炒める。チンしたじゃがいもとブロッコリーを加えて味付けをした。

 パラパラとブラックペッパーをふりかけた。


「玄さん、お口に合うといいんですけど」

 と小さめのお皿に盛り付けて出した。

「ん? いい匂い! 何? ポテト?」

「はい、ブロッコリーのジャーマンポテトもどきですけど」

 とドキドキしながら感想を待った。


「んー! 澪ちゃん、うまいよぉー。おじさんでもイケるわ!」

 ウンウンと頷きながら、玄さんのお箸が止まらなかった。


「良かったね! 澪ちゃん!」

 黒木さんがまた嬉しそうに親指を立てた。


 そしてまた、メニューボードに書き込まれた。


☆ブロッコリーのジャーマンポテトもどきですけど


(し、しまった……)

 黒木さんはまた、私の言葉のままメニューに書き込んで満足げに笑った。


 とにかくお店のメニューがまた一品増えた。

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