第4話 初めてのダーツ
玄さんとの乾杯をして、暫くいろんな事を教えて貰った。お店のボトルやキッチンなどがとても綺麗にされている理由もわかった。
定休日は、黒木さんはいつもよりも念入りに掃除をしてまわるそうだ。
お酒のボトルに限らず、バーカウンターや、ダーツのメンテナンスも丁寧にやっているそうだ。
――カランコロンカラン。
また新たなお客さんがやってきたようだ。
「いらっしゃい!」
「いらっしゃいませ!」
私は笑顔でお客さんをで迎えた。
「マスター、あっちいい?」
三人組の若い男性のお客さんだ。
「どうぞ!」
と言われて、ダーツのそばのソファ席に座った。
「今日から食事メニューできましたよ!」
「え? マジ?何で?」
「お料理担当のスタッフが入りました!」
と、黒木さんは私の方へ視線を送った。
私はペコリとお辞儀をする。
「澪ちゃん。ヨロシクね! メニューも少しずつ増やしていけると思うよー」
と黒木さんは嬉しそうに笑った。
「えー、澪ちゃんが作ってくれるの?」
「今までナッツとか、スナック菓子とか。まともなメニューなかったもんなぁー」
「悪かったな……」
黒木さんは苦笑いをしながら、メニューボードを見せた。
「☆とりあえずオムライスと、☆卵焼きサンド・えへへスティック付き、だってさ!」
「へぇー、うまそうじゃん!」
「ラーメン食ってきたとこだわー。」
三人組のお客さんは、少し残念そうに騒いでいた。
「そのうち腹減ったーって、毎回言ってるから。後で注文するといいよ」
黒木さんは、オーダーも聞いていないのにドリンクを用意しながら声をかけた。
「彼らはね、ダーツを楽しみに来てくれてるから、めったにお酒は飲まないんだ」
と、黒木さんは教えてくれた。
コーラとアイス珈琲とカルピスソーダ。
まるで喫茶店のようなメニュー。
黒木さんがドリンクを持っていくと、彼らはテーブルに二千円ずつ置いた。
「黒木さん、たまには付き合ってよー。」
と声を掛けられていた。
「タイミングが合えばね!」
そして、黒木さんはダーツの所へ行き鍵を開けた。
トゥントゥントゥントゥントゥン……
機械の操作音が聞こえ、クレジットの数字があがる。
「どーぞー!」
黒木さんが離れると、彼らはそれぞれのダーツを三本ずつ持ってラインの前に立った。
交代で三本のダーツを真ん中を投げる。
「あれはね、から投げしてるんだ」
黒木さんが、教えてくれた。
「から投げ??」
「そ。んー、ウォーミングアップかな」
「へぇ――」
黒木さんが、玄さんのおかわりを作り出したので、私はダーツを見ていた。
「さて、やるかァ!」
「やりますか!」
ボタンの操作音、上にある画面、画面に表示されているゲームの名前。
ダーツの存在は知っていたけれど、ちゃんと見るのは初めてだった。
チューン……チューン……
見事に真ん中の円にダーツが吸い込まれていく。まるで、磁石で引っ張られているんじゃないかと思うように。
私は食い入るように、彼らのダーツを見つめていた。
ひとりが手にしたダーツ三本を投げ終えると、盤に刺さったダーツを抜いてボタンを押す。
そして、次の人へ交代する。
交代する時には、仲間同士でグータッチをしている。
プシュ――と効果音が響いたり、画面に帽子の絵が現れる。
その度に、声をかけ一緒に喜んだり悔しがったりしているのだ。
(なんじゃ、こりゃー)
私が思っていたのとは全然違った。
「澪ちゃん、だっけ?」
名前を呼ばれた。
ダーツを楽しんでいるメンバーのひとりが手招きをしている。
黒木さんは、
「いっておいで! いい奴らだから大丈夫!」
と言ってくれたので、そのままテーブル席へ向かった。
「俺は、直人。で、こっちが夏喜。そして、陽。ヨロシク!」
「澪です! よろしくお願いいたします。」
私はペコリと頭を下げた。
「ダーツは紳士なスポーツなんだよ!」
と直人さんが言って。
「何お前かっこつけてんのさ!」
とふたりから突っ込まれていた。
「でも、俺たちはそうやって黒木さんに教わったんだ。だから、古いダーツ台なんだけどここに来るんだ」
「これ、古いんですか?」
「今はね、ひとりで行ってもオンラインで世界中の人と繋がって対戦できるんだよ。でもなー、あれなんか味気なくってさ」
「そうそう」
「へぇー」
私は何も知らなくて、ただただみんなの会話を聞いて一つずつ知っていく。
「今やってるのは、カウントアップってやつ。点数が高いほうがいいんだ」
チューン……チューン……プスッ……
「ナイストン!」
(なんの掛け声かわからないなぁ。)
でも、私は一緒に拍手をした。
そこに黒木さんがダーツを持ってやって来た。
「え――、黒木さん?」
「違うよ、澪ちゃんの。はい、これ」
と、三本セットのダーツを持ってきて手渡された。
「あー、フライト可愛い!」
直人さんがニコニコしながら見ている。
「カウントアップだけでいいから、混ぜてあげてよ!」
「い――――よ!」
「オッケー!」
私はまず、ダーツの握り方から教わり、白い線の所へ立った。
「いい、背筋は伸ばして。腕はこうね、そして、真っ直ぐ投げる! やってみて!」
私は言われた通りにやってみた。
とすっ……
届かない。
「まずは盤に刺さる事が目標だなぁ。」
と皆で大笑いをした。
何回かやっていくうちにコツがつかめてきた。
「よしっ! 次こそ!!」
私が気合いを入れ直した時に笑われた。
「アハハ、澪ちゃん、カウントアップは8ラウンドで終わりだよ! もう1回戦やろっか」
「はいっ! お願いいたします!」
私は元気に挨拶をする。
「おっ、ダーツは紳士なスポーツだからね!」
しばらくは『カウントアップ』の仲間に入れてもらい、ダーツの楽しさを教わった。
暫くダーツを楽しんでいた彼らのテーブルから声が聞こえてきた。
「あ――、腹減った! 何か食おうぜ!」
黒木さんがにっこりと微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます