第3話 とりあえずオムライス

【お食事メニュー始めました】

  ☆とりあえずオムライス


 ボードに書かれていた。

「黒木さん、これは?」

「澪ちゃんが言ったから。」

「とりあえず、もつけちゃうんですか?」

「そ」

 と黒木さんは満足げにボードを眺めていた。


「あとはいくらにするかだなぁ」

 買い物のレシートを見ながら、何やら考えている。原価の計算だろう。


 食器類はある程度揃えられていた。その中から私は自由に決めていいと言われた。


「黒木さん、こんな感じでどうでしょう?」

 出来上がったオムライスを黒木さんの前にそっと置いた。


 綺麗なブルーのお皿に、ケチャップで炒めたチキンライス。小さくカットしたブロッコリーと、カットしてオーブンで焼いたじゃがいもが飾られている。

チキンライスの上にはプルプルとしたオムレツがのっかっている。


「えっ! すごっ!」

 と黒木さんは喜んでくれた。

「薄焼き卵で包むのもできるんですけど。」

と私は言いながら、ナイフでオムレツに切れ目を入れた。


 ふわりと卵が広がってオムライスになった。

「マジか!いただきます!」

 と、黒木さんはオムライスを口に運んだ。

 スプーンだが、黒木さんはキレイに食事が出来る人だと思った。


 端っこから一口分ずつオムライスをスプーンに乗せて、美味しそうに食べている。付け合わせのじゃがいもやブロッコリーはお箸で口に運んだ。

 お箸の持ち方もとてもキレイだった。



「味はどうですか?」

 黙々と食べ進める黒木さんに、遠慮がちに尋ねてみた。


「――うまーい!!!」

「良かったぁ」

「とりあえずオムライス、最高だね! とりあえず今日何人分くらい作れる? もうメニューボード出しちゃお!」


「そんなにすぐに出して大丈夫ですか?」

「すぐ出そう! もったいないよぉ!」

 私は嬉しくなった。

「早くお客さん来ないかなぁー」

「まぁ、この店に食事がある事はまだ誰も知らないからねー」


 そんな会話をしている間に黒木さんはオムライスをペロッと完食していた。

「あ、賄い付きだから。澪ちゃんも食べなよ!」

「じゃあ、サンドイッチ作ってもいいですか? 材料買ってきたので!」

「おっ、いいねぇ!」


 私は四枚切りの食パンを軽くトーストした。玉子は時間短縮で卵焼きにした。パンのミミを落として細く切って、バターを塗って砂糖を振りかけてトースターで焼いた。


 四枚切りの食パンは表面がこんがりと焼けていい香りがする。真ん中でスライスして、味付けした卵焼きをのせて粗びき胡椒をパラッとかけてパンをのせる。

食べやすい大きさにカットして、黒いお皿に盛り付ける。

 付け合わせは、カリカリに焼いた甘いパンミミスティック。パセリの代わりにブロッコリーを使った。


 黒木さんの目が食べたそうだった。

「卵焼きサンドとカリカリスティックです! 良かったらどーぞ!」


「いただきます!」

 厚みのある卵焼きサンドをパクっと食べた。

 そして私も食べてみた。

「成功かなぁ?」

「うまい! うまいよー! 粗びき胡椒がいいねぇ!おっ、このスティックもデザートみたいでうまいじゃん!」


「えへへ、良かったです!」

 私は嬉しくて笑った。


 そして黒木さんはメニューボードにもう一品書き足した。


☆卵焼きサンド・えへへスティック付き


「黒木さん、何ですか、このえへへって」

「澪ちゃんが言ったから」

 と黒木さんはまた満足げにボードを見つめた。

(気を付けないと、私が口にした言葉がメニューにつけられてしまうシステムだな。)



 こんな風にして、一日でメニューが二つできた。

 これから様子を見ながらメニューも増やして欲しいと頼まれた。


 なるべく少ない食材で、在庫は少なめに。人気がある商品は定番にして、新メニューは定期的に出す。

 飲み物は黒木さんが担当するので、私はキッチンで料理を作り、ホールに持っていく。


 あとは洗い物をする。暇な時は、黒木さんの隣でお客さんとの会話をする。


 それが、私の仕事となった。



――カランコロンカラン。

 ドアチャイムが鳴って、今夜のお客さんがやってきた。



「いらっしゃい!」

「いらっしゃいませ!」


 私は初めてのお客さんを笑顔で迎えた。

「おろっ、新人さんかい?」

「はい、澪です! 今日から宜しくお願いいたします!」


「玄さん、無理やりお酒飲ませないで下さいね! 澪ちゃんはお酒苦手なんで!」

「えー、残念だなぁ。一緒に飲みたいじゃんねー?」

 と、私はその玄さんに言われて苦笑いをした。

「ノンアルコールのカクテルなら飲めますよ!」

 と黒木さんは声をかけてくれた。


「ほう、そうか。じゃ、それ澪ちゃんに作ってあげて! 俺はいつものね! 黒木さんも!」

「ありがとうございます!」

「あ、ありがとうございます!」


 軽くグラスを合わせて、私はお店の仲間入りをさせて貰った。

 黒木さんが作ってくれたシャーリーテンプルというカクテルは、グラスの下に赤いシロップが沈んでいて、キレイなカクテルだった。


(――でも何で私がお酒が飲めないのわかったのだろう。)

 私は不思議に思いながら、楽しい時間を過ごした。

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