005 油断禁物
【これは、唯!?】
かーさんの声が脳内に流れ込んできた。
不思議な感覚。
耳からじゃない、脳内に直接かーさんの声が流れ込んでくる。
【唯から接続があるってことは…マナが…】
【だとすると、琴葉が言う通り最悪のタイミングね…】
かーさんの意識が声に変換されるように、次々と聞こえてくる。
【唯、そっちは何があったの?】
かーさんから質問されるが答え方がわからない。
―どうやって喋ればいいんだ―
『唯、叶のことを想像しながら伝えたいことを強く念じてみろ』
妖精は図々しく指示してくる。
「わかった」
妖精が言う通り頭の中で強く想像してみると
【下校してたら急に襲われて…何なのこれは…とーさんは…】
話すことはある程度、頭で整理したはずで、先の件から時間もたって冷静になったと思っていたが、いざ話始めると伝えたいことが多すぎて何から考えればいいかまとまらない。
【そうなのね…アラヤか…同時にくるなんて…これはやつらの計画――いやあんな力あるわけ――――とりあえず琴葉…父さんは無事よ、今は別行動をしているけど―――】
【そうなんだ―――よかった――――】
かーさんは少し間をおいてから
【一先ず、彗ちゃん…美空ちゃんの家に行きなさい】
【え……なんでここで美空が出てくるの…?】
【時間がないから今は詳しく話せないの…ごめんね、もうこれ以上は――――まずい…これ以上は…ごめんね唯、また連絡す―――】
意識が切断した。
頭の中はぐちゃぐちゃだが、かーさんの声を聞けて少しは落ち着いたように感じた。
とりあえず、二人とも生きてはいるのだろうが、かーさんの話具合から全く安心できない。
それに、頭の中で会話する不思議な術と言い、どんどんわからないことが増えていく。
かーさんの言う通り美空の家にはいこうと思うが―大丈夫だろうか。
巻き込んで危険な目に合うんじゃないかと心配になる。
妖精は、
『とりあえず、このあとどうしたものか』
と呟く。
依然偉そうにたたずむ妖精にイラっとし、
「いい加減知っていることを教えてくれよ」
と強く当たると
『ほんと琴葉に似てせっかちなやつ、ま、昔の琴葉を見てるみたいで楽しいから
いいけど』
「も―構ってられるか、一人で探すからどっかに消えてくれ」
妖精は「んー」と考える表情を浮かべた後
『さっきの子か、アラヤの血が混じってたから分家か…泥棒猫も多少はまともな
考えができるみたいだな』
「なんだよ泥棒猫って…かーさんのことか?わけわかんないこと言うな」
『フンッ』
妖精はそっぽを向く。
『というかっ…琴葉のように「ペトラ」と呼べ!私にも名前がある!』
と急に怒った表情でこちらを睨んできた。
―なんだその顔…小さいから怖くないな―
『言っておくが唯が頭の中で考えてること全部わかるからなぁ』
全く原理は理解できないが、このマナとか言うやつは人の心が読み取れるらしい。
この世のものとは思えない攻撃に加え、妖精、そしてかーさんまでよくわからない能力を使っている現状、次第に驚かなくなった気がする。
「考えを読むなよ…ペトラさん」
『ぷっ…ペトラさんってっ……』
「なんだよ、笑うなよ、名前読んだだろ?!」
『いやいや、懐かしいなと思って…いいよ、まずいこう』
「あぁ…急ごう」
瓦礫を避けながら、家を後にし美空の家に向かう。
トボトボと人気のない夜道を歩いていると、急にペトラが
『まずいな…近づいてきてる』
「近づくって…またあいつらが!?」
『あぁ…だがこっちの位置は確実には把握できていないようだ』
ペトラは北東を向きながら『今のうちに結界を―』と呟いた瞬間。
空が青白く輝く。
『しまった、よけるぞ!』
「うっ――」
ちっさいマナにシャツの襟をつかまれてものすごい速度で引っ張られる。
目の前を
スッ―――
青白い光が一瞬で通り過ぎて行った。
デジャブだ。
心臓の鼓動が早まる。
ひと段落して落ち着いた心臓の鼓動は再び大きくなりだした。
『クッ…あと少し』
とマナは呟く。
北東方向を見ると月夜に青白く光る何かがどんどんこっちに近づいてくる。
『唯、すまない、もう一つ枷を解く』
「あぶなかった、あれに当たるとどうなるんだ…それに枷って…」
『気分がかなり悪くなると思うが我慢してほしい、唯の抑制に回す力をこっち
に…いくぞ』
「ちょっとま―」
その瞬間、脳が激しく揺れ体が熱くなる。
脳内にいろんな何かが流れ込んでくる。
気持ち悪い。
吐きそう。
意識が―――だんだん―――とおくなっ――
―起動―
―移動―
マナがそう呟いたところまでは聞こえた。
気が付いたらそこは…
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