004 知らない世界

――帰路――夜―2―


静かな夜道を1人と一匹で歩く。

いつも美空と一緒に帰るせいか、少し寂しく感じる。


『なんだよ、さっきの美空とか言う子と帰れなくてさみしいのか』

「不安なんだよ、あんなことがあったら誰だってそうだろ」


ペトラは楽しそうに俺をからかう。

振り返ってみると夜道を一人で歩くのなんていつぶりだろうか。


『琴葉も泥棒猫が居ないといっつもさみしがってたし、ほんとにそっくりだな』

「なんだ、泥棒猫って」


『しまった、叶だよ叶』

「失礼な奴だな、そんなことより何がどうなってるんだ?!」


このペトラとかいう妖精は何なんだろうか、そして、俺たちを襲ってきたあれも。


『まぁ、混乱するもの無理はないがな』

「同情するくらいなら詳しく説明してくれ」


『金じゃないの?ま、そのつもりだが、とりあえず家に帰ってからだな』

「はぁ…」


なんだこの世俗にまみれた妖精は。


トボトボと自宅へ向かう。

普段の帰り道も部活で体力を使い切って帰るため体が重いが、これ程までドッと疲れたのは久しぶりだ。

  

『さ、ご飯ご飯♪』

 

ペトラは嬉しそうに飛び回っている。

これから俺はどうなってしまうんだろうか。

家までもうあと少し。


―――――――― 


スタ…スタ…スタ……

 

足が止まった。


止まったのは、家に着いたからだ。

そう、たった今家に着いた。


―――――――


なぜ考えつかなかったのだろうか。

よく考えれば想像がついたはずだ。


周囲が田んぼに囲まれた、物心ついたころから暮らしていた家。


そう、その家が


  全壊


していた。


クラっと意識が揺らぐ。


「やっぱ夢かこれは?あの何かは俺だけを狙ったわけじゃないのか――何がどうなってんだ…何をしたって言うんだよ」


数刻前まで家だった瓦礫の山に駆けより搔きわける。


「かーさん、とーさん!!!!」


瓦礫を掻きわける。


「くそっくそっ!」


瓦礫を掻きわける。

どこを掻きわけても出てくるものは瓦礫、瓦礫、瓦礫。

指先や手のひらは切れて血が出始めていた。

瓦礫を掻きわける。


「くそっっっ!」


  ゴッ!


瓦礫に拳を叩きつける。

 

  ゴッッ!


何度も何度も叩きつける。 

拳から血が滲む。


『まぁまてよ』

  

  ゴッッ!


『まぁまて』


叩きつけようとした拳が止められた。

妖精の力だろうか、触れられてもいないのに拳が動かない。


「うるさい」

『―すまない、私も少し焦っている、ここまでは予想できんかった。だが、唯が今その残骸を殴ろうが何も変わらんだろう』


「うるさいよ!」


『大丈夫だ、唯が心配している2人は無事だよ』

「はっ?なんだよそれ――なんでわかるんだ」


さっきからこの妖精は何を言っているんだろうか。

 

『叶のまね程度で使いこなせているわけではないが、伊達に星の柱はやっていない。

 ちゃんと2人とも意識は感じ取れる』


「かーさんのまね?意味わかんないこと言ったり、ほんとなんだ。—お前が原因なのか」


『フンッ 巻き込まれたのはこっちだといいたいけどね』

「はぁ―――」


妖精の、あまりに訳のわからない言い分のせいか、あきれてなのか、少し落ち着いた。

 

『ただ、今の私の力では2人の場所までは把握できない』

「じゃあどうすればいいんだよ」


『今すぐは力は取り戻せない――だから唯、お前の枷を少し外そう』

「かせ…?」


『力が強すぎるからな、少しだけだ、琴葉の承諾が得られないが事情を説明すれば許してくれるだろう』


「おい…一体何を…」

 

妖精はこちらへ両手のひらを向けると


  ―制限解除―


と呟いた。

 

途端、脳内に数多の意識が流れ込んできた。

脳が急激な負荷に耐えられず、猛烈な頭痛と吐き気が襲う。

  

「うっ」

 

気持ち悪い。

彗さんの地獄夏合宿の最終日よりつらい。


『唯、二人を想像しろ、あとは考えるな』


ペトラはそう助言した。


とーさん、かーさん………


すると、雑音が少しずつ消えていく。

そして

  

  【これは…唯なの?!】


かーさんの声が流れ込んできた。

   

 

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