アラヤ編

2      001 日常

――希潟家――朝―


カーテンの隙間から朝日が差し込む。


まぶしい…もう朝か…

  

ガチャ


「ゆいー朝だよ、おきてー」

「ん、今起きたところ」


「そ、ご飯できてるからね、母さんも出るから二度寝はだめだよ」

「わかってる」


  ドン


勢いよく閉じられた自室の扉。

母はいつも通りあわただしい。


「痛っ――も――なんでいっつもぶつけちゃうの!」


どうやら振り向きざまに開放した戸に頭をぶつけたようだ。

一応、大丈夫か確認するため扉を開けて母の様子を確認する。


「相変わらずだな、かーさん」


「唯が起きないのも相変わらずですー!さて、行ってくるね」


「うん、いってらっしゃい」


「新しい学年なんだからシャキッとね。あ、美空ちゃんにもよろしく!」


そう言って忙しなく家を出ていった。


かーさんのモーニングコールで起きる、いつも通りの朝。


目覚まし時計は

 7:00

と表示されている。


いい加減、起きるか…

はぁ、朝起きるってのは何でこんな嫌な気持ちになるんだろうか。


嫌々起き上がりながら学校へ行くための準備を始める。


自室から出て階段を降り、洗面所で顔洗ってリビングへ行ったところで


  ピーンポーン


「美空だな…いつも思うけど早いんだよ」


美空は小さいころからの幼馴染で小学校のころから迎えに来る。


  ガチャ


唐突に解放される玄関ドア。


「おはよ!唯!」

「ごめん、今起きたとこだった、適当に準備するから上がってって」


「相変わらず遅いなーもう、いつもギリギリなんだから」

「あーゴメンゴメン」


「何その適当な返事ー。今日から二年生だよ?!後輩がくるんだよ?!」


輝いた目でこちらを見てくる美空に「ハイハイ、楽しみデスヨー」と適当に返す。

すると、再び「はぁ」とため息をつかれた。

玄関で待つ美空を後目に、準備を始める。


とはいえ、準備といっても、着替えてから朝食のパンを食べて多少寝癖を整えて

終了だ。

男の支度なんてみんなそんなもんだろう?


鞄と部活道具を背負ったところで


「準備完了ー」

「はーい、早くいくよ」

「おー」


唯にせかされながら二人で家を後にする。


―通学路―朝―


「今日から高校2年生だねーはやいよね」

「はやいか?どっちかというと遅く感じるんだけど」


そう、今日から俺たちは高校2年生になる。


ただ1学年上がるだけで特に変化があるわけではない。

強いて変化をあげるなら、後輩が入ってくる程度だろうが大きな変化にはならないだろう。


「クラスは持ち上がりだからなんの変化もないのはつまらないよね」

「まー1科1クラスしかない小さな高校だしな」


俺たちの通っている高校は、片田舎の小さな高校で1学年4科4クラスの実業系の 高校である。


美空に関しては、学力的には進学校でも余裕で入れる学力があったはずなのだが


「特に行きたいところはないし、近いから鷹山高校でいいかな」

「唯もそこでしょ?」


と言って高校を決めていた。


まったくもってもったいない、その才能を発揮できる高校に行ってほしいものだ。

俺については…まぁ…学力的にそこしかなかった。

ちなみに科はお互い違う科だ。


付け加えると美空は受験前、


「唯と同じ科にしようかなー」


と言っていたが、俺を含め定員がちょうど満員となったことで、


「私…念のため科を変えとくね」


と別の科を選んでいた。

全くもって余計なお世話である。

昔を思い出しながらボーとしていると、


「どうしたのぼーっとして」

「いや、なんでもない」


「そ、というか部活の後輩ができるのは楽しみじゃない?」

「後輩が入ってくるかなんてわからないけどな」


「たしかに変わった部活ではあるけど…頑張って募集しないとね」


そう部活動。

俺と美空は居合部に入っている。

居合部なんて言う変わった部活は入学時存在しなかったのだが、入学してすぐ美空が立ち上げた。


なんでそんなマイナーな部活を作ったかというと、美空の母さんが居合をやっていて小さい時から習っていたからだ。


幼馴染で仲の良かった俺も、その影響で小学校のころから一緒に始めることになった。


「居合なんて誰も興味ないと思うけどな」

「そーかな、部活立ち上げた時みたいに来てくれるかもしれないよ?」


「入ったところでどうせ続かないよ」


「そんなこと言ってるから顔も女の子みたいになるんじゃないの?」

「それは関係ないだろ!」


話は脱線するが、美空曰く俺は顔が女の子っぽいらしい。

 

中学校へ入学したあたりから


「唯って、ハーフってこともあるけど、そこらへんの女の子よりかわいいよね」


と言い始めた。

不名誉である。加えて。


「女装してみよ!絶対にバズる!」


とまで言い出すほどだ。


俺自身まったくそんな自覚はなかったがそんなことを言われたせいでコンプレッ

クスとなってしまった。  


「名前は女みたいだし、どうしろっていうんだよ」

「いい名前なのにー、そういえば―最近琴葉さん見ていないけど、また出張?」

「あぁ―数週間前からまた海外を飛び回ってるよ。いくら考古学者って言ったって、仕事しすぎだろ」


「そっかー、また面白い話聞きたいなー」

「まぁ今日帰ってくるって言ってたし、土日暇ならうちに来るか?」

「いくいくー」


と、いつも通りの雑談をしながら歩いていると学校に到着した。


「そうしたら、また部活でね」

「おー気をつけてな」


そうして高校2年新学期が始まったのである。

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