フラスコ コネクト

ふるみ たより

1 序章   001 遠い日の記憶


――書斎にて――


カチャ…ギィィ…


開けたことのない父親の書斎。


普段は二重のカギをかけて絶対に開かないようにしてあるその部屋が今日は少しだけ開いていた。

父親には絶対に入ったらだめと念を押されていたが、ダメと言われるほど気になってしまうものだ。


「美空、とーさんの部屋が空いてる!」

「怒られるよ、ダメって言われてるんでしょ」


遊びに来ていた幼馴染の美空に止められながらも、


「いいじゃん、大丈夫だよ!」

「えぇ…ほんとに…?」


厚く重い扉を押し開けると、部屋の中は真っ暗だった。


この部屋には窓がないため薄暗くてよく見えない。

部屋に入ってすぐのスイッチ押し明かりを灯すと、8畳ほどの部屋全面にビッシリと本棚が並んでおり難しそうな本や様々な国の言語で書かれた古臭い本がズラリと並び、中央には大きな机が置かれていた。


「なんだ、本しかないや」

「すごいね…」


小学生の自分からしてみれば、温厚な父親が絶対に入ったらダメと念を押す書斎にはどれほどの宝物があるのかとウキウキしていただけに拍子抜けであった。


「つまんないのー、すごいお宝でもあると思ったのに」

「難しそうな本ばっかだもんね…なんもないし早くでよー」

「そうだなー」


読むことのできない本棚を一周してから中央に配置された机を見ると、机の上には書斎に置かれたどの本より古そうで分厚い本が置いてあった。


なんだろこれ…。


「古そうな本だね」

「うん」


唯一気なったその本を開くために、美空と一緒に少し高めの椅子をよじ登って本を眺める。


本の表紙には何か書かれてあるのは分かったが、文字が擦れて読めなかった。

1ページめくると、目次と書かれているのが微かに見えたが後は全く読めない。


「古すぎて何が書いてあるかわかんないじゃん」

「ね」


「ほかの本とおんなじ歴史の本なのかな」

「かな」


さらに1ページめくると4つ折りにされた小さな1枚の紙が挟まっていた。

 

「なんだろこれ」

「新しそうな紙だね」


本とは違う、真新しい紙を開き、中身を見ると

一番上に六角形の図形。

六角形の中心に丸がついていた。

そしてその下には何かの文が書いてあった。

――――――――――――――――

神々はさみしかったのでしょうか

    

神々は我々という人形たちを星々に作りました

それぞれの人形は神々から言葉や文化を学びスクスクと成長していきました

文明が発展し成長した人形たちは神々にお礼をしようと考えました


お礼のため神々に近づこうと思った人形たちはそれぞれ協力して大きな塔を建て始めました


塔が完成間近となったところで――

     

なぜでしょうか

なぜなんでしょうか

神々は我々に向けて雷を放ち、塔を破壊し、我々を引き離し、言葉を奪ったのです


我々はもう一度目指すのです

神々へなぜあのようなことをしたのか

それを明らかにするために

―――――――――――――――――――


「なんだろ、昔話かな」


「ちょっと怖い話だね」


「そうか?」


聞いたことがない昔話。

美空は昔話を怖いといったが、俺はこの時、悲しい話だなと感じた。

メモを折りたたんで本に戻そうとしたその時


「コラッ」


と父親の声が聞こえ、ビクッとして入口のほうを見ると、息を切らしながらこちらを見ている父親の姿があった。


「入ったらダメって言ってただろ」


といつも温厚で怒らない父親から少し強い口調で叱られてしまった。


『ごめんなさい』


椅子から降りて二人であやまると、父親は少し肩を落としながら、


「いいよ、天気もいいし外で遊んできなさい」


と言って僕と美空を部屋から出した。


 「はぁい。いこ美空」

 「うん」


 「怒られちゃったね、何してあそぶ?」

 「とりあえず外いこ」


二人で外へ走り出す。



ずっと忘れていたその記憶。

あの時、これがカギの一つになるなんて思いもしなかった。

  

   

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