第9話 模擬戦
「・・・これが・・・研究室?」
思ってた感じの研究室とだいぶかけ離れていたため唖然と立ち尽くしてしまった。いろんな機械があって大量の資料がしまわれた棚が大量にある感じを予想してたのだが、実際は何もないといったほうが正しいくらいにすっきりした部屋でただただ広い空間だった。
変わったところといえば前方の壁の上部にガラス張りの部分があるだけといった感じだろうか。
「あら波ちゃんじゃない。もしかしてその隣の男の子は、例の・・・?」
「はい、ですが今日はあくまで本部の見学です。実験とかはまた今度にしてください」
「え?実験?何怖い」
「安心しろ。人体実験とかではない。じゃあ先生、ここの案内お願いしてもよろしいですか」
「もちろんよ」
景子先生は自分の思っていた感じではなかった。司令が尊敬するレベルの人なのでもっとインテリって感じできびきびした人なのかと思えば現実は全くの逆だった。一応力は感じ取れるが司令の二十分の一くらい。いろいろ困惑しながらも説明を受けた。
「この研究室は主にエクシード・フォースの収集が行われるわ。ここで得たデータを技術部に開発してもらった医療部自慢のデータ分析システムで分析して超越者によりよい成長を提供してるわ」
なんかクセ強くない?と思いながら聞いていた。本当に司令が尊敬するのはこの人であっているのかと思ってしまったのは内緒だ。
「今日データの収集をしたかったのだけれど、今日は本部の見学ということだから。また今度来てね」
癖の強さに困惑していると司令から声がかけられた。
「癖が強いが腕は確かだ。まぁ健康診断的な感覚で来てやってくれ。先生は研究が大好きなんだ」
司令に言われたのでは仕方ないので、近日中に来よう、と思った。
「あとは取り調べのための部屋と留置所、資料室と・・・訓練場があったな。最後に訓練場に案内してやろう」
訓練場は二階フロアにある。
「さっきの研究室みたいなところですね」
「設計はほとんど同じだな。まぁ、研究室でもフォースを行使するんだから当たり前と言えば当たり前だが」
フォースを行使できるのは公安委員会本部でもこの訓練場とさっきの研究室だけだそうだ。そこ以外での行使は違反になり、裁判の対象になるらしい。
「以上で案内は終わりだ。後は好きに回ってくれ。私はやらなければいけないことが山積みなのでな。帰りたいときは執行者デバイスに追加した機能を使えば帰れる。では、私はこれで」
と足早に司令は立ち去った。自由に見学してくれ、と言っていたが疲労がたまっていたので帰ることにした。
家に帰ってきた俺はもう限界だったのかベッドに倒れこみ、寝てしまった。
「ぬぇえ!?もうこんな時間!?」
遅刻ギリギリの時間に起きてしまった俺は急いで準備を済ませ学校へと走った。
「はあっ、何とか・・・間に合った」
朝から疲労がたまってしまった。席についてぐったりしてしまった。その様子を見かねたのか、隼人は俺に声をかけてきた。
「今日は一層疲れてるように見えるぞ。無理すんなよ。まったくお前が遅刻しかけるなんて珍しいよな」
「心配ありがとう。でも大丈夫だ」
幸いにも明日は祝日。今日を乗り越えれば休める。そう思うと謎にやる気が出てきた感じがした。
「では午後のホームルームを終わる。気を付けて帰るように」
やっと終わった。これまでに解放感を感じたことはないかもしれない。早く家に帰って休もうと思い足早に家に帰りすぐ寝た。
気づいたら朝だった。学校帰ってからすぐ寝たから十四時間くらい寝てた計算になる。寝すぎのときの倦怠感はあるが、昨日までの疲労は一気に吹き飛びだいぶ回復した。
「ここ最近全然寝れてなかったからな」
今日は祝日。何かやることはないかと模索していた。
「なんもやることない。暇だ」
暇なのではどうしよもない。せっかくの祝日を無駄に終わらせるのは癪だ。
「そういや景子先生がデータ収集したいとか言ってたよな。暇だから行ってみるか」
なんのデータを収集するのかをするのは伝えられてないが、自分の力の成長に役立つ研究をしてくれる、と考えていいのだろうか。
「執行者デバイス起動」
―――――執行者デバイス起動 本人確認 和中隼人 クラス エンフォーサー――――――
「エリアジャンプ」
―――――ジャンプ先を指定してください―――――
「行先指定 公安本部」
―――――公安本部へジャンプしますーーーー
―――――ジャンプ完了 執行者デバイスをシャットダウンしますーーーーー
公安本部へジャンプした。
「確か医療部は四階だったよな」
とエレベーターの階層指定スイッチを押し医療部へと向かった。
四階 医療部へ到着し研究室へ向かった。
「失礼します。和中隼人です。景子先生はいらっしゃいますか」
「あら隼人君、来てくれたのね。ささ、入って入って」
まず自分は対話室へと通された。
「まず、隼人君の力について詳しく教えてくれるかしら」
司令に話したのと同じ内容に加え、今の自分にはできそうにないことを伝えた。
「なるほど・・・戦闘による覚醒下でしか使えないし、覚醒をコントロールもできない。しかも危機的状態に陥らないと覚醒はできないと・・・」
景子先生は考え込むようにしてうつむいて
「なら、私があなたの覚醒状態をコントロールできるようにしてあげる。そのためにもランクの高い任務に匹敵する実戦が必要ね」
「実戦・・・」
「まぁ、安心して。あくまでシミュレーションでの模擬戦だから。技術部が開発したエクシード・フォースも疑似的に再現して戦ってくれるロボットみたいなものを用意してるの。さぁ研究室へ戻りましょう」
景子先生と俺は対話室から研究室へと向かった。
研究室には昨日見たときにはなかった機械と障害物らしきものがおかれていた。
「あのロボットには技術部自慢の戦闘専用人工知能と攻撃システムと防御システムが搭載されているの。防御システムに関しては私も関与していて最強に仕上がってるわ。遠慮なくやっちゃってね」
「一応お聞きしますが、このロボットの攻撃はもちろん偽物ですよね」
「なに言ってるの。本物に決まってるじゃない」
「ええ」
「安心して。私はこれでも一応医療部所属なんだから。医療には精通してるわ。それに本物の攻撃じゃないとあなたの力を引き出せないでしょう」
司令が尊敬する人なのだから腕は確かだとは思うが
「さすがに怖いですよ。自ら怪我を望む人はいません」
「それも安心していいわよ。あなたに事前に力を行使して痛覚を麻痺させるから」
「それも怖いんですが」
「まったく駄々こねてる場合じゃないわよ。ほらさっさと覚悟決めて」
仕方ないか、と思いながら
「わかりましたよ。じゃあ痛覚を麻痺させてください」
「往生際がいいわね。じゃぁ、麻痺させるわよ」
すると景子先生は手を差し出し、
「いくわよ」
と言った後、あたりが緑系統の色に包まれた。数秒経ってその色は消えた。
「はい終わり。神経系は麻痺させず、痛覚だけを麻痺させたわ」
「あなたは力の行使にエージェンシーを必要としないんですか」
「そうよ。でも代償としていかなる手を使っても治療系以外の力を行使することはできないけど。まぁこの話はまた今度。長くなっちゃうから」
「・・・わかりました」
「はいこれ、汎用型武器。あなたはまだ自分の力をコントロールできないんだからこの武器で戦いなさい」
汎用型武器。葦名が使ってたやつか。葦名のは槍型だったが俺のは自分のエージェンシーに合わせてくれたのか銃型だった。
「使い方はいたってシンプル。トリガーを引けば仮想の銃弾が射出されるわ。簡単にいえばビームになるのかしら」
「こんな便利なものがあるならこれを武器として使えばいいじゃないですか」
「これは力の情報の変換に時間が少しかかってしまうから、トリガーを引いてからごくわずかだけどタイムラグを得て銃弾が射出されるの。加えて威力が相当落ちるから実戦ではつかえないのよ」
「なるほど」
「では始めるわよ」
俺は汎用型武器を構えた。
「よーい、スタート!」
模擬戦のスタートだ。
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