第8話 アクセス許可

「ステージ『マスター』、ちょっと待ってください。私そんなランク聞いたことありませんよ」

「基本的にはⅠ~Ⅹのステージで超越者は評価される。だが隼人の場合は特別、領域外のテージ マスター 初代執行者総代と同じステージだ」

「初代執行者総代と同じステージ!?」

「隼人、お前の力を説明してみろ」

急に言われたので戸惑ったが

「・・・俺の力は色を合成しそれを銃弾として具現化し、自分の好きなように力を生み出すものって感じですかね・・・」

「・・・戦闘中とは全く風格が違う。まぁそれはいいとして、普通の超越者というのは初代執行者たちの力をベースとした新たな力を生み出し、それを行使して戦う。しかし隼人は違う。ベースを必要とせず一から自分の思うような力を生み出せる。初代執行者総代は基礎として五原色を創造し、それをもとに創造した力をほかの執行者六人に与えたとされている」

「・・・つまり、隼人君は『最強』ということでしょうか」

「現時点ではまだ粗い。隼人はおそらくまだ自由に力を創造することはできない。・・・詳しい話はまた後日。今日は任務で疲れただろう。後処理は私たちに任せろ。君たちは帰って休め」

確かに疲労をひどく感じる。葦名に至っては壁にたたきつけられている。ここは司令の言葉に甘えて帰還することとした。

帰還する前、葦名に聞きたいことがあった。

「司令が戦闘時の俺と普段の俺の風格が全く違う、っていってたけど本当?」

「そうだね。戦闘時の隼人君はなんか冷徹なでクールな感じ、普段の隼人君は話しやすい感じ」

「そうなんだ」

奴と戦っていた時は自分とは違う自分が生まれた、いや、誰かに憑依された感覚ともいえるかもしれない、そんな感覚だった。

「聞きたいことはそれだけだから。じゃぁ、また今度」

そう伝えてエリアジャンプで家へと帰還した。


自分の部屋のベッドに入って寝ようとしたが、自分の力と奴と戦った時の感覚が気になってなかなか寝付けなかった。自分のエクシード・フォースは力を創り出すこと、特定の力に縛られず多種多様な力を行使できる。ステージ マスター 領域外のステージに位置するのが自分。というか、あの時の声はいったいどこから、いったい誰の声なんだ。そんなことをずっと考えていた。そのせいで全然寝れなかった。結局寝るのに二時間かかってしまった。


――――♪――――


スマホのアラームが鳴っている。もう朝か。昨日寝るのに二時間かかってしまったせいで若干寝足りないが、重い体を何とか起こした。今日は月曜日 学校がある。

「任務のせいで日曜なかった感じがするんだが」

と不満をこぼしつつ朝のルーティーンをこなし、学校に行く準備を済ませ家を出た。

 学校につき自分のクラスに上がり席について宿題やら教科書やらを出していたとき、早川に声をかけられた。

「おい隼人、なんか眠そうじゃねぇか」

「顔に出てるか」

「あぁ、目が今にも閉じそうだ」

「昨日寝れなかったからな」

「ゲームでもしてたのか」

早川に執行のことがばれたら大惨事だ。口が滑っても関係があるようなことは言ってはいけない。

「まぁ、そんなところだ」

「ほどほどにしとけよ。なんかお前最近元気ない感じがするし」

元気がない、これはおそらく寝不足と情報の過剰供給と考え事が原因だ。何とかしないとなぁと思ったが、おそらくどうにもならない。なれるしかないのかぁと悲観しながら学校での一日を乗り切った。


 家に帰りベッドに倒れこんだ。寝不足もあってかいつもの二倍疲れた感じがする。このまま寝てしまいたい。と思っていた時情報端末に通知が届いた。

「ゲ・・・招集・・・」

(昼寝をしようと思っていたのに・・・)

でも招集に拒否権はない。無理やりエリアジャンプさせられ本部へと送られた。

「昨日はよく休めたか」

「は、はい」

司令は一応俺たちを休ませてくれようと配慮してくれた。寝不足でだるいのは完全に自分の責任なので「はい」とだけ答えておこうと思った。

「ふーん、まぁいい。さて昨日捕まえたレクイエム幹部を名乗る男についてなんだが、奴のステージはⅦ、エクシード・フォースは攻撃系統のものでエージェンシーは日本刀、日本刀に注がれた奴の力は純度が高い赤だった」

「純度・・・?」

「どれだけ五原色の色、原初の五つの色に近いかを純度を用いて表す。例えば今回の重度の高い赤というのはより高い攻撃性を持つ力のことを指す」

「っていうことはより強くしたければ、五原色を構成する原初の五つの色により近づければいいということですか」

「そうだ。ちなみに色に黒を加えることでより強くなるが力の行使に必要なスタミナの消費が激しくなる。逆に白を混ぜると力は弱くなるが、必要スタミナ量は減少する。まぁ、意図的に色を混ぜれるのは君くらいだから君にしか使いこなせない技術かもな」

ふーん、と思いながら聞いていた。

「さて、それはどうでもよくて君の力について、より詳しく教えてくれ」

と言われたので、あの時かけられた声と内容についてと自分の力についてより詳しく説明した。

司令は数秒うつむいて

「ここで実演することは可能か」

と聞いてきた。

「うーん、おそらく無理です。戦闘時の俺と今の俺は何か違う感じがするんですよね。この力を行使できるのはおそらく戦闘時の俺だけ。今の俺にはできそうにないです」

帰還後、奴との戦いのときのように銃弾が生み出せるか試してみた。結果は全然だめで、感覚そのものが俺のものではないといった感じだった。

「そうか・・・」

と少し考えるようにして

「君は特別だ。些細なことでもいい。力に関することがあったらすぐ報告してくれ。執行者の中で君だけにこの公安委員会本部への自由アクセスを許可する」

「えっと、つまりここに来るとき、いちいち承認をとる必要がないと」

「そういうことだ。君の執行者デバイスにここへのエリアジャンプを実行する機能を搭載するよう私から技術部に要請しておく」

「助かります・・・」

まぁ、何かと聞きたいことがあるときあるし、その都度承認を得るのは手間だったのでありがたい提案だ。

「なにか聞きたいことはあるか」

「はい」

「なんだ」

「なぜ俺だけに自由アクセスを許可するんですか。ほかの執行者六名には自由にアクセスする権限がない理由を教えていただけますか」

「・・・。さっきも言ったが、君が特別だからだ。基本的に本部と執行者は最低限の接触に抑え、情報漏洩などを未然に防いでいる。しかし君の能力は破天荒なものなのでな。いろいろ研究して能力の詳細を知っていかないと、いざという時に対応できるようにしようというのが私の考えで、君に自由アクセスの権限を渡す理由だが、何か文句があるか」

「いいえ」

「ほかに質問は」

「ないです」

「では用件はこれで以上だ、と言いたいところだが、せっかく公安本部への自由アクセスが許可されたんだ。本部を案内してやろう」

確かに急に何も知らない本部への自由アクセスを許可されても困るだけだ。自分にとってありいがたい提案だった。

「君が毎回ジャンプしてくるこの部屋は私の執務室だ。以降君がジャンプしてくる場所に案内してやろう」

この部屋以外のところに行くのは初めてだ。そのためわくわく感と緊張が混ざり合った変な感じがする。

「ここが公安委員会本部エントランスだ。君は次からここにジャンプすることになる」

公安委員会本部エントランスに案内された俺は一通りエントランスを見て回った。

「次は技術部へ案内しよう。これから頼ることが多くなるだろうからな」

技術部は五階フロアにありすべてを技術部で占領している状態になっている。

「技術部はわれわれ超越者にとっての最大のサポーターとなっている。君の通信機器、執行者デバイス、君の補佐が使っていた汎用型武器を含めたあらゆるものをこの技術部が生み出している。最近はエクシード・フォースの行使をアシストする機器の開発に没頭していると聞く」

エクシード・フォースをアシストする機器・・・。常人では知りえない裏でここまで技術が発達しているのかと衝撃と感動が混ざったような感覚に染まった。

「次は医療部だ。ついでだ。景子先生にあいさつするといい」

医療部は四階フロアにある。

(景子先生・・・司令があの時言っていた人か)

「医療部も我々超越者の頼りあるサポーターだ。医療というが、超越者が秘める力の研究なども行っていて、成長のアシストをしてくれる」

と説明を受けながら医療部を歩いていると一つの部屋にたどり着いた。

「ここは医療部の研究室だ。ここに景子先生がいるはずだ」

「今更気になっているのですが、司令ですら『先生』と呼ぶということはそれくらい地位が高い人なんですか?」

「そんなことはない。ただ私の尊敬する人だから先生と呼んでいるだけだ」

「なるほど」

司令からは密度、量ともに尋常じゃないくらいの力が感じ取れる。そんなすごい人が尊敬する人というのはよほどすごい人なのだろう。

「では入ろうか」

司令が研究室のドアを開けた。

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