第7話 ステージ マスター

「侵入 開始」

廃ビルのエントランスらしき場所に入りあたりを見回す。

「ここには誰もいないか。葦名、君の力を使って敵がどこにいるか調べられるか」

「残念ですが、私のステージでは汎用武器展開中は見透かせる力を行使できないんですよ」

「そうか、わかった」

葦名の見透かせる力は使えない。つまり、自分の目で敵がどこにいるか調べないといけないということだ。

「とりあえず一階を捜索しよう」

中はいかにも廃ビルといった感じで地元ヤンキーが描いたであろうスプレーでの落書きや空き缶、ごみが散乱している。音に気を付けながら一階を捜索したが一階には何もなかった。

同じく二階、三階、四階と捜索したが何もなかった。

「残るは五階だけか」

とつぶやきながら階段を上がり、五階に到着する。五階に到着したすぐそこには今までの階層にはなかった大きな扉があった。

「もともと大会議室だったのでしょうか。ドアはここしかありませんね」

「そうみたいだな。床に大会議室と書いたパネルが落ちてるからな」

残るはこの大会議室だけ、と大会議室のドアに手をかけたとき。

「!!!」

「どうしたのですか」

「すごく重い気配を感じる」

「重い・・・気配ですか。ならここにいるのは間違いないようですね」

と葦名がドアを開ける。

「待って」と言おうと思った。「なにかまずい」、そう感じたから。しかし言おうとしたころにはもう遅かった。葦名はすでにドアを開け切り臨戦状態に入っていた。自分もドアの中に入り大会議室だった名残であろう正面にある大きなホワイトボードのほうを見た。そこには一人の男が立っていた。

「お前、レクイエム地方支部の者か。防衛省公安委員会だ。同行してもらう。おとなしくしろ」

と葦名が気迫のある声で男に警告する。

「防衛省・・・か。いかにも私はレクイエムの人間だ。ただ一つ訂正していただきたい。私はレクイエムの幹部、つまり地方支部などではなく、本部の人間だ」

あの重い気配は幹部クラスの人間だからか。そうだとしたら辻褄が合う。どうやら俺はあの男からリボルバーを授かったとき相手のエクシード・フォースの規模を読み取る力を授かったらしい。だから葦名からも司令からもただならぬ気配を感じ取れた。そしてその気配はあのレクイエムの幹部と名乗る男からも感じ取れる。規模としては司令とまではいかない。しかし葦名よりは明らかに大きい。それが分かった瞬間察した。葦名ではあいつに勝てない、と。

「我々の活動の障害となりし者は排除せよ、とボスから命令が出ている。悪いが君たちにはここで・・・」

男は背中から日本刀らしきものを取り出した。それに念を込めるようにものすごい握力で握っているのが目で見てわかる。日本刀からは血の色のオーラがにじみ出ている。

「死んでもらう」

その声と同時に奴が踏み込む。標的となったのは葦名だ。葦名はこの部屋に入ってから臨戦状態で待機していたので何とか防げた。

「ほう、まだまだ手加減しているとはいえ、よく防ぎました」

(あれで手加減しているだと・・・)

「次は手加減なしですよ」

「かかってきなさい」

葦名は武器を強く握りなおした。汎用武器の先端が赤く光る。しかしエクシード・フォースの規模でいえば、奴は葦名の五倍、いや六倍とも感じれる。両者同時に踏み込んで武器を交わす。

「いい覚悟です・・・ですが、これでは勝てませんよ」

と奴は言い放ち葦名の武器を弾き、その隙を狙って攻撃を仕掛けた。葦名は間一髪、槍で攻撃を防いだが体勢が悪く吹き飛ばされてしまった。

「ぐぅ」

葦名は壁にたたきつけられてしまった。

「ううん、この程度の人間を送り込むとは、なめられたものですね」

奴は葦名にとどめを刺そうとしている。葦名は動けそうにない。

(どうするどうするどうするどうする)

俺の能力はまだ開放されていない、加えて自分のエージェンシー、エクシード・フォースについて何も知らない。自分に何ができるかと考えた。すると突然聞いたことのない声が脳内で響いた。

・・・念じろ・・・・

(誰だ・・・!)

・・・お前のほしい力を念じて、創造する・・・そうすれば・・・媒介者がお前の願いにこたえ、お前に新たな力を与えるだろう・・・

(・・・俺が欲する力・・・葦名を守れる力・・・奴を倒せる力・・・!)

聞こえた通り欲する力を念じた。すると視界が変わりまるで別世界に飛ばされたような感覚になった。

「力・・・それは原初の五色を選び取り混合することで生み出せる」

(誰だ・・・。原初の五色、五原色のことか・・・)

「色を混ぜ、力を創造しろ・・・それを銃弾で具現化・・・そして守れ・・・倒せ・・・執行者の名を以て・・・」

(・・・そういうことか!銃弾が授けられなかったのは自分に銃弾を作る力を授けたから、その銃弾を色を混ぜ具現化する。そうすることで銃弾を創造することができるのか!)

(念じろ・・・奴への銃弾は攻撃性の赤、葦名の保護と治療に黄と緑で銃弾を創造する)

「お前の能力はすでに開放されている。存分に暴れまわってこい」

視界が元に戻る。奴は葦名に向け武器を振り上げている。

「これでとどめだ。悪くなかった・・・」

「させない・・・」

脳の判断より体が先に動いていた。俺はリボルバーの照準を奴に合わせる。そして引き金を引く。

―――バアァァン――――

「ぬぅう。あたるかぁ」

奴は超反応でよけた。この至近距離でよけるとは。しかしそれでは防げない。

「ただの銃弾だと思ったか」

奴がよけた銃弾は方向を変え背後から奴に突き刺さった。

「がはぁ、なにぃ!?」

奴がよろけてる隙に葦名にも照準を合わせ防護治療用の弾丸を撃ち込む。

銃弾を再度創造する。今度はすべて攻撃性の「赤」の銃弾だ。

よろよろと立ち上がった奴に照準を合わせ打ち込む。先ほどの銃弾が効いているのか、よけようとするがよけきれていない。

「私を殺したところでレクイエムの活動は止まらんよ。君にもいつか分かる。この国家がどれだけ腐っているのかが・・・ゴフッ・・・」

「安心しろ。殺しはしない。その国家が腐ってるということを含め、いろいろ聞きたい話があるのでな。お前の身柄は防衛省公安委員会が預かる。それでよろしいでしょうか。司令」

「司令・・・?」

さっき撃ち込んだ弾丸ですでに回復している葦名は不思議そうな顔をする。するとドアから一人の女性が入ってきた。

「見事だ。隼人」

「し、司令!?」

葦名は大層驚いていた。司令は基本的に本部での指示に徹するため、現地に赴くことはほとんどないらしいからな。

「レクイエム幹部を名乗る男を拘束、連行せよ」

司令が連れてきた公安委員会の人間により奴は拘束され、連行された。

「さて、お前たちにはランクⅤの任務に挑んでもらった」

すると葦名が先ほどの三倍ほど驚いた顔をして言う。

「ランクⅤって・・・難易度的にいえばランクⅡの約十二倍の難易度ですよ!?上級超越者でやっと適正ランクになる任務をなぜ・・・!」

「申し訳ない。しかしお前たちが危機に瀕したときには私自らが助けようと準備していた」

「それなら安心ですけど・・・いったいなぜ私たちをランクⅤの任務に挑ませたのですか」

「隼人の力を確かめるためだ」

そこから司令は数秒黙って口を動かした。

「隼人・・・お前はすべての力を操れるステージ『マスター』の超越者だ」

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