第5話 補佐の来訪
家に戻ったころにはもう日は落ちていた。夕飯や風呂を済ませ、いつもならここから就寝するまで漫画を読むかゲームをするか、たまに勉強をするかの三択なのだが、今日は向こうで聞いたことの情報を整理するのに時間を使った。今日は金曜日なので、明日は土曜日。学校のことは気にしないでいいので、納得するまで情報をノートに書きなぐった。その途中新たな疑問が起こった。「なぜ自分が執行者に選ばれたのか」ということだ。素質がある人なら俺以外にもたくさんいるだろうにと思ってしまった。そのせいでペンを走らせていた自分の手は止まった。考えている最中、いつの間にか寝落ちしていた。
「やべぇもう明るい、今何時だ・・・」
机の上に置いてある時計の短針はもうそろそろまっすぐ上を向きそうだ。ここまで起きなかったのは久しぶりだ。おそらく多量の情報に脳がオーバーヒートし、回復に時間がかかったのだろう。俺はベッドを離れ、朝のルーティーンこなし昼ごはんを食っていた。
ピーンポーン
そうしていると家のチャイムが鳴った。
「宅配便か?」
と思いながら玄関へ向かう。その途中であの気配を感じたので「宅急便か?」という考えはすぐに覆された。
「・・・葦名だ・・・」
玄関を開けそこにはやはり葦名がいた。
「ちょっと、親がいたらどうするつもりだったんだ」
と軽く注意すると少しすねたような顔をして
「そんなことでミスしません。あなたの両親がいないから尋ねたんです」
「なぜ俺の両親が今いないってわかる」
俺の親は車を持っているが、それは父親だけだ。母親は持っていない。だから車の有無でどちらもいないと判断するにはいささか不十分すぎると感じる。
「そういえば、私のエクシード・フォースについて説明していませんでしたね。私に与えられた力は見透かす力 能力開放済みなのでステージはⅢです」
「ステージっていうのはどれだけ力が一つのものに近づいてるかの指標っていうことか」
「おぉ、理解がいいですね。昨日司令に聞いたんですか?」
「おお」
と別に普通に考えれば、だれでも考えつくようなことを自慢するように言ってしまった自分が少し痛いな、と感じてしまった。
「ステージはⅠ~Ⅹまであります。基本的にⅤを超えたら上級と呼ばれます。最初はみんなⅠです。Ⅴまで上がるのにかなり苦労すると聞きます。Ⅴ以上の人はなかなか見ませんね」
どうやら完璧なエクシード・フォースを得るのは至難の業らしい。ステージXなんてそうそういないだろう。
「っていうことで、話を戻しますが、私の力はステージⅢの見透かす力です。私のステージでは建物の中や箱の中を見透かせます。ステージXになると、相手の心のうちを読むことができます。つまり完成です」
「なるほどな、それで俺の家の中を見て、今俺しかいないっていうのを知ったわけか」
「そうです。さて、話が早速脱線しましたが、本日は渡したいものがあってまいりました。ここでは・・・渡しづらいですね。家の中に入れていただいても?」
ここでは誰かにのぞき見されかねない。家に入れるのが最善の選択だ、ということだろう。俺も家に入れるのが最善の選択だと判断した。
「上がっていいぞ」
「お邪魔します」
家に女クラスメイトを上げるのは初めてだ。なので謎の緊張があったが、「葦名は俺の補佐なんだから仕方ない」と自分に言い聞かせ、緊張を押し殺した。
「俺の部屋は二階に上がってすぐ右手にある部屋だから、入ってて」
俺は葦名に麦茶を用意するため、部屋の場所だけ伝え先に二階に上がってもらうことにした。盆に麦茶が入った大き目のボトルと二人分のコップをのせて俺も自分の部屋に向かう。自分の部屋のドアを開けると葦名が正座して待っていた。こう、なんだろう、やっぱり自分の部屋に女の子がいるのは非日常的な感じで違和感がある。
「意外ときれいにしてるんですね」
「汚いと思ったのか」
「いえ・・・そういうわけでは・・・」
まぁ、俺は潔癖症っていうほどではないがきれい好きなので部屋を散らかすっていうことはまずない。自画自賛するわけではないが、男子の部屋の中でもトップレベルにきれいな部屋だろう。
「で、渡したいものってなんだ」
と聞くと、葦名は持ってきた鞄の中から一般的な本くらいのサイズの箱を取り出し、床に置いた。
すると椎名は箱上部に指をあて、テンキーのようなものを映し出させた。
「・・・何じろじろ見ているのですか。パスワードを入力しようとしてるんですけど」
俺はこの言葉の意味を察し、体の向きを百八十度変えた。
「まぁ、見られても問題ないんですけど。あなたは執行者。関係者ですから」
「・・・・・・」
あえて何もしゃべらなかった。しゃべれなかったといったほうが正しいだろう。この言葉に対し、どのように返せばいいかわからなかった。
「もういいですよ。こっち向いてください」
と言われたので体の向きを元に戻す。すると先ほどの箱の上部が展開しており中にスマートフォンのようなものがあった。
「これは情報端末です。執行者デバイスと呼ばれます。執行者全員に与えられるもので、任務の詳細やスケジュールなどがこの端末で見ることができます」
「便利そうだけど、普段持ち歩く分にはちょっと邪魔じゃないか」
「まぁまぁ、最後まで話を聞いてください。これにも防衛省技術部の最先端技術が詰め込まれています。とりあえずこのデバイスの電源を入れてください」
言われるがまま俺はデバイスを手に取り、デバイス横部にあるボタンを押して電源を入れた。
――――通信機器とリンク―――――データを送信します――――
「葦名、放っておいていいのか」
「はい、今はこの執行者デバイスに挿入されているデータをあなたの通信機器に送信しているところです」
「それが終わったらどうなるんだ」
「そのデバイスを持ち歩かなくとも、その耳についている通信機器だけで情報を見ることができるようになります」
「そういえば、なんで俺が執行者に指名されたか、わかるか」
「執行者に指名された理由ですか。残念ですが私は存じ上げません。執行者というのは代々変わるもので、あなたを執行者に指名したのは前執行者です。しかし、執行者の指名理由というのは記録されず、大抵の場合、不明なことが多いです」
「前執行者って誰かわかるのか」
「私はあなたの執行者の代に補佐に任命されています。補佐の任期はその執行者の代と同じなので、私は以前の執行者についての情報をまったくもっていません。データも厳重に管理され、アクセスできる人間は一部の人間だけとなっています」
「なるほど、ありがとう」
「いえいえ」
と、話をしていると、データの送信が終わった。
「終わったようですね。では『インフォメーション』と言ってみてください」
「・・・インフォメーション」
すると目の前にモニターのようなものが浮かび上がってきた。
「どうやら成功したようですね。あなたが今見ているのはここ周辺の地図、スケジュール、任務内容です。任務が発生した場合、任務内容が更新されそこに表示されます。今は何もないので空欄です」
「とりあえず、任務が発生するまでこれを使うことはないということか」
「そういうことになりますね。まぁ、初任務は執行者任命から一週間以内にあるのが通例らしいですから使う機会はそう遠くないと思います」
「なるほど」
「任務発生が通知されたら、エリアジャンプ コード ミッションポイント、と唱えてください。任務地点へワープします。私にも任務発生通知は届きますので私は私で任務地点に向かいます」
「・・・了解」
「不安そうですね。安心してください。あなたの能力が開放できるまでは私が手伝いますから」
「ありがとう」
「礼には及びません、それが私の仕事なのですから。さて、用事も済みましたし私はこれで帰ります」
「あぁ」
俺は葦名を玄関まで送り届けて再度自分の部屋に戻った。
「・・・インフォメーション」
――――執行者デバイス起動 執行に関する情報を表示します―――――
「葦名が言ってたぶんには、ステージはⅠからXまでしかなくて、最初はみんなIって言ってたよな」
「俺のステージ エンプティ なんだけど」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます